7. ご案内をしておりましたら……(2)
ルーナ・シー は リジー のペンネームです。
「まああ……素敵なお部屋ですの……」
「赤い敷物なんて初めてですわ、キャロライン様」
暖炉には薪が火を待つかのように組み上げられている。真紅の柔らかな敷物。壁の燭台には蠟燭が飾られ、虹色の髪と翼を持つ、フォルトゥナの使者や雪の結晶のオーナメント。
ナターシャに案内された、キャロライン達は初めて見る異国情緒漂う飾り付けに、感嘆の声を上げる。
「夜は、お身体が冷えますので、就寝前には火をお入れいたします、そしてお付きの方はこちらに……」
続き間のドアに、マーガレット達を誘うナターシャ。マーガレットはエドワードと共にそちらに向かう。
「夜には火を……夏の半ばで御座いますのに、寝具にくるまっていても寒いですの?」
あどけない声で聞くキャロライン。
「うふふ、それは寝具など、邪魔になるでしょう。床でされてもよろしい様に、フアフアの敷物を選びましたの」
ルーナ・シーの意味有りげな言葉に、ピン! と来るのは彼女の夫のシドばかり。ジョージはフアフアと聞いた敷物にしゃがみ込むと、手を沈めてみる。
「おお! これは素晴らしい、心からのおもてなしありがとうございます。ほんとに柔らかい。この上でもゆるりと眠れそうな……キャロライン座ってみよう、初めてだな、床に座るなんて」
うきうきとしながら、愛する妻に話すジョージ。
「まあ! 床に座るなんて初めてですの。ルーナ先生、素敵なお部屋をありがとうございます、きゃ、ほんとに柔らかいのですの、驚きましたわ」
無邪気にそう言うと、二人に頭を下げる彼女。ジョージの側に近寄ると、白い手を同じ様に沈めている。
そんな彼女を可愛らしく思い笑顔を向けるルーナ・シー。そして彼女の夫は、少しばかり呆れている。
……ままごと夫婦なのか? それとも馬……、いや、仮にも一国の王族に、しかし、思うだけなら良いか、馬鹿だろ? こいつら。
仲良く赤い敷物の上に座る王族を、若干糸目で見下ろしているシド。
「この飾り付けは、この国の風習なのですか?」
キャロラインに手を貸し立ち上がりながら、ジョージはキラキラとまばゆい部屋の飾り付けに興味を持ち、話しかける。ええ、それはと妻の声が上がる前に、シドは先手を打つ。
「ルーナ王国らしい祭でおもてなしをしたいと、言われましたからね、フォルトゥナ祭の飾り付けです、雪も深い12月に約1ヶ月間開催される、『幸運の女神』の祭りの飾りを、わざわざご用意させて頂きました」
若干押し付けがましく、スラスラと教えるシド。
「まあ、わたくし達の為にわざわざ、素敵ですわ、シドさんもこの飾り付けをされましたのね、ありがとうございます」
奥様のお手伝いをなさるなんて、なんて優しい殿方なのかしら、とキャロラインは思い、無邪気な王族は素直に人を褒める。
「雪降るときのお祭りの飾り付けを……奥様の望みを叶える為にお手伝いをなさるなんて、とても優しくて素晴らしい旦那様ですわ」
「そうだね、私もそう思うよ、キャロライン」
妻に激甘なジョージは即座に同意をする。
「お仕事の傍らになさったのでしょう、ありがとうございます。シドさんは奥様の事を、とっても愛してらっしゃるのですね、先程お二人の馴れ初めを耳にしましたわ、従者であられたとか、身分の違いを超えて、愛を育まれましたの?
素晴らしい奥様と結ばれて、今とってもお幸せですのね」
妻の背後で、能面の如く固まる夫、キャロラインは無邪気に笑顔を向けて、彼に同意を求める。
はい、というべきか、無言で頷くべきか……目の前には妻の美しい髪が、柔らかく光り、ふわりと揺れている。