5. ご挨拶をしておりましたら……
キャロライン・ジョージ サイドです。
マーガレット: キャロラインのお付きの令嬢。
エドワード : 騎士。マーガレットの夫。
キャロラインが夫ジョージと、側使えの為に選ばれた、マーガレット並びに彼女の夫、エドワードを連れ海上の人になりしばらく……。
「毎日進んでも水ですの、あ! 王子様、小さいお船が……沈まないのかしら。」
太陽が幾分穏やかな時間、日焼け対策の為のヴェールを被り、甲板から絶景を目にして、驚きの声を上げるキャロライン。
「うん、沈まない、大丈夫だよ。そうだよ、そうか……キャロラインは初めてなんだね、私は、幼い頃だが一度だけ船で海に出たことがある」
あまり手摺に近づくと危ない、とジョージは、身を乗り出し海面を見下ろしている、キャロラインの腰に手を回す。マーガレットが、潮風はお肌に悪いのです、お部屋に戻りましょうと話す。
「ずぅ……と!お部屋ばかりで退屈ですの」
少しむくれて言うキャロライン。
「そうだね、日焼けをしたら大変だ、部屋に戻ろう」
キャロラインの手を取るジョージ、そして先程エドワードが船員に聞いてきた事を、少しばかり残念に思っている。
……、ああ、もうすぐつくのか。船に乗ってからは、マーガレット達を下がらせば、この世のパラダイス、至福の日々だったのに。船から降りたくないな。
等と思い始めている。
政務に、会見、勉学に鍛錬……彼に課せられたあらゆるものが無い、朝から晩まで愛する妻と常に一緒。
そして豪華だが、そこは手狭な船室。何していても、どこを見ても、愛するキャロラインの姿が目に飛び込む空間。
……ふう、これぞ天国なのか!
月刊ムーサで仕入れた知識…… 『愛しき女性をさまざまな角度から見る』 事で得る、快楽と高揚感を実感を、日々幸せをしみじみと噛み締めているジョージ。
「お部屋で過ごす事が、そんなに楽しいのですの?」
部屋で寛ぎつつ、マーガレットが出したお茶を飲みながら問いかけるキャロライン。
「……、ゆっくり出来るのは滅多とないから、そういえば、そろそろ陸地が近いそうだ」
少しばかり誤魔化しつつ、船員がそう伝えて来たことを妻に教える。
「まあ! そういえば、うっすらと、遠くに山が見えておりましたが……、何故わかりますの?」
「漁船が行き交う様に、なっているだろう、それと海鳥の群れがいるからだそうだ」
「そう言われてみますと、先程小さなお船を見つけたました。鳥! 見に参りましょう、大きな港なのかしら、楽しみですわ、お迎えが来られているとか……」
キャロラインは目をキラキラとさせ、子供のようにはしゃいでいる。港に着いたら馬車と共に迎えに来ていると、届けられた手紙に書いてあった事を思い出す。
「ルーナ・シー先生もご結婚されたばかりとは、偶然だね」
「ええ、マーガレット達が色々と、お取り寄せをして調べてましたの、とっても、素敵な旦那様が、常に側にいらっしゃるそうですわ、うふ、別荘にご招待ですの。あちらでお待ちしてくださっておられるのです」
そう言うとぽっと頬を赤らめる妻に、どうしたの? と聞く夫。
「あ、あのですわ、聞いたお話によると……、とっても大人なんですって」
「はい? 大人って、王族ではないのだから、成人はしているだろう? 婚礼をすましている。どういう事だ?」
怪訝に思い、聞いてもおそらく的はずれな答えを返してくる妻に代わりマーガレットに話を聞く。
「はい、噂なのですが、ルーナ・シー女史については、夫婦共に 『その道の達人』 とお噂があるのです」
しれっと答えるマーガレット。
「はい? その道達人……夫婦共に……」
オウム返しに答えると、何やら妄想をし……
いかん! 昼の日中から何という不埒な! ……と頭を振り、煩悩を追い払うジョージ。
「ファンクラブの会報によると……、」
マーガレットが、しれっと話す。
「よると?」
「よるとなんですの?」
食いつく二人。
「何でも思い立ったら直ぐそこで、がモットーとか」
「誰のモットー? ……そして、場所とか時間は関係なしにか」
即座に突っ込むジョージ。何が直ぐ? と聞くキャロラインを放置をし、マーガレットと話し込むジョージ。
「ええ、それはもうあちらこちらで、あの手、この手、を使い……ミラクルワールドな事が記されておりました」
「う……ミラクルワールド、なんとそれは……、羨ましいことだな」
「王子様ともなれば、そうはいきませんから、私達はそれを参考にさせて頂いておりますが」
にっこりと余裕の笑みを浮かべるマーガレット。
「王子様、ミラクルワールドとはどういう事ですの」
にっこりと、あどけなく笑み問いかけるキャロライン。
行けばわかる、とジョージは答える。
ブォォォ……霧笛が大きく音を立てた。行き交う船が多くなったらしい。
そして数日後無事に船は寄港し、迎えに来ていた馬車に乗り込む御一行。
「マーガレット、ワクワクいたしますわ」
キャロラインの弾む声
「ええ、憧れのルーナ先生にお会いできるなんて……ありがとうございます。キャロライン様」
マーガレットが嬉しそうに礼を述べている。
「殿下、どのような旦那様で御座いましょう」
お色気作家の旦那様とは、どういうお方かと、妄想たくましくなるエドワード。
「ところ構わず……色々と教えを請いたい」
本音がぽろりと漏れたジョージ王子。
ガラガラガラ、ガラガラガラガラ……馬車は進みやがて目的地にたどり着く。そして……、ジョージは出迎えた美しき貴婦人の手をとり、礼に乗っ取り美しさを賞賛し、挨拶をする。そう、ただ、挨拶をしていたのだが。
何故か、氷のように冷たく、嫉妬の焔の様に熱を持つ視線が、自分に向かってビシバシ飛ばされ、当てられそれが全身に、突き刺さる事を感じていた。
誰!嫉妬の焔を燃やしてるのは!
7/23 誤字訂正しました!報告下さった方、ありがとうございます!