13. 晩餐が始まりましてよ!(2)
くつくつと軽い音を立て、白い湯気立つチーズフォンデュ、皿の上に盛られた、幾種類かの具材に絡めて食べる様に勧められた。
言われた通り湯がいたジャガイモを、シルバーのピックに挿して絡めとるジョージとエドワード ――― キャロラインやマーガレット達は、心あらずの彼等の師匠、シドにあれやこれを聞いている。―――
とぷん、チーズに入れる。くるりと回してすくい上げる。つう……と糸引くそれ、白い淡い湯気……。男たち二人は、初めて体験した蒸し風呂を思い出してしまう。少々ワインが進んだせいもある。
蒸し風呂……、片方は悪夢の記憶となり、片方は甘露の記憶となっている……。
……、風呂なのだから、裸だが、少しばかり恥ずかしいな、とジョージは用意されていた、タオルの中から、薄い物を探し出すと、それを腰に形ばかり巻いている。
もうもうと白い湯気、籠もる甘い香り、壁際のベンチに座りどぎまぎとし、キャロラインをまっていると……。
「ふわぁあ……暑いのですの」
入ってきた彼女、裸と思いきや薄物の、湯浴み着をしっかりと着込んでいる。
あ! そうだった……裸なのは男だけだった、という事を思い出すジョージ。
「王子様、早速、雪を運んでもらいましょう」
いい香りですわ、この中でその……食べさせあいっこなんて、キャッ、たのしみですの。と彼の真横に腰を下ろす無邪気な妻。
そ、そうだね、とナターシャから聞いたとおりに、雪を頼むジョージ。師匠の教えを何処でどうやって実行するか、彼の頭の中ではあらゆる戦術が練られている。
「お国に帰ったら、この蒸し風呂、騎士団の訓練施設に作りませんこと? 湯に浸かるのも良いですが、香りを変えたら、訓練の後など気持ちが良いかと思いますの」
のんびりとやわやわとしているが、そこは後の国家の母。良いものは取り入れたいと考えている。
「うん、いい考えだ。汗をこうしてかくことは代謝の促進に繋がり、疲労回復にも効果がありそうだね」
なんだこのクソ真面目な会話は……、木材は何かしら、ベンチを触るために、身を動かすキャロライン。狭い為にジョージの腕に身体が柔らかく当たる。
……ふおお! む、胸が! それに汗でその……透けて……いや! 待て、じきに雪を運んで人が………
白い首元に丸く汗が形を作り上げてつぅ……と流れている。顎の下、喉仏から大きく開いたV型の襟元の湯浴着、見える白い天然渓谷に集まる様に流れる。
いかん、くらくらとしてきた、このままその、つまり、師匠! ……と行動に出ようとした時。お待たせしました、との声。
「私が受け取ろう、座っておきなさい」
白い雪がこんもり盛り上げられた器を、受け取りに行くジョージ。冷たいそれを手に持つと、元の場所に些か彼女にひっついて座る。
こっぽりと丸い銀の器には白く冷たい雪の山、挿されているスプーンが二本。
「まあ! 素敵。じゃあ王子様、わたくしが先に……」
溶けない内に、とショージが持っている器から、シャクリと大盛りにすくい上げるキャロライン。当然のことながら彼女は、はじめての経験。目の前の高さに掲げて笑顔を向ける。
「あ、何だか恥ずかしいな……」
面と向かって笑顔と共に雪を差し出されたジョージ、反射的に目を閉じてしまった。そしてこのことが、悲劇と惨劇を生み出す。
ふるふると少しばかり震えつつ、そろそろと慎重に夫の口に近づけるキャロライン。山盛りにした為に雪はシャクりと表面が溶け、スプーンの底には雫が溜まる。
もう少し……その時、ポタ……神のイタズラの一滴が、蒸気で温められた、膝の上辺に器を持ち上げているジョージの腕に落ちた。
「うひゃ! つ! 冷たい! はっ! ぴゃぁぉぁおぁあ!」
「キャッ! 王子様! きゃあぁぁ! 器が! 大丈夫で御座いますの!」
事もあろうか、ジョージは目を閉じていたばかりに、落ちた冷たさに驚き、腕を振り上げてしまったのだ。そして汗をしっかりと吸い込み、彼の下半身に、ぴっとりと貼り付いている上に、器を……冷たい雪をバサリとひっくり返してしまった……。
本能により、何処よりも、何よりも、熱を持ってたぎらせていた為に……彼が受けた衝撃たるもの、言葉では言い表せない。
「ふおおおお………! ⊥✵↓_| ̄|○ il||li!!!」
声にならない声を上げ、身体をくの字に折るジョージ。
「お、王子様! 大丈夫ですの!」
おろおろとするキャロライン……その頃、マーガレットとエドワードといえば。
「エドワード! 雪をお運びなさい!」
勿論、湯浴み着等、袖すら通していないマーガレット。対してエドワードといえば。
古代の下人といえば腰布、お前もその形をおし! とのお声に従い、腰に布を巻いている。髪を軽くまとめ上げ、肉置き豊かな妻をうっとりと眺めている。
「食べさせるのですか」
口に含んだら溶けてしまうと考えるエドワード。
「わたくしの前に来なさい」
つけつけと言うマーガレット。素直に近づくエドワード。
「ここで膝立ちで座りなさい! 器は両手でしっかりと持つのよ! 落としたら許しません」
言われたとおりに、床に膝つき立つエドワード。その背後にマーガレットが背中にピッタリと密着をする。柔らかい彼女の肢体を感じ、湯気に交じる甘い香りに脳天をヤラれ、ボーとするエドワード。
器に指を入れ雪をすくうと、夫の半開きになった口に入れ込む。ごくんと動く喉仏を追うように、手を添えるマーガレット。
サク……器に手を入れ、冷たい雪を楽しみつつ、大きくすくい取ったマーガレット。
妻の香りと熱い蒸気、この先の展開にドキドキなエドワード。そして……
「うひゃひゃ! ま、マーガレット! そこに来るとは! ふおおおお!」
「ホーホホホ! この蒸し風呂、帰ったら屋敷にも作りましょう。雪は有りませんが万年雪山から氷石を取り寄せて、で水を凍らせ砕いて……」
大人なお遊びで、もうもうと白い湯気立つ風呂の中、思う存分、ひたすら盛り上がって楽しんでいたのだった。
「王子様、チーズフォンデュ美味しいですの、白いワインに合いますわ、お顔の色が赤いですけれど、飲みすぎない様にしてくださいまし」
ほんのり頬を赤らませ、キャロラインも、少しばかり酔って甘く夫に話しかける。ジョージはその花の顔にある、柔らかく動く果物の様に艷やかな唇を……酔いが回り師匠の教えが頭の中をぐるぐる……次こそはと考える。
師匠ことシドは、愛する妻を視線でひたすら追っている。ルーナ・シーは、新たなる執筆の為に取材の真っ最中、エドワードはその世界を幸せそうに話している。
マーガレットはそれを聞きつつ、ワインをゆるりと楽しんでいる。
そしてナターシャは……、小瓶の効能を早く知りたくウズウズとしていた。
パチン! ジジ。
暖炉の中で火の粉が弾け踊っている。




