11. お茶会が始まりましてよ!(3)
ジョージとエドワードがシドに教えを乞うている頃。
褒め称える……、きらきらとした目を向けられた、ルーナ・シーは、少しばかり妄想してみる。
…… 自分の夫に、蕩ける様な甘い言葉を日々、彼女達の様に捧げられたら ……
……、あら、なぜかしら、良いとは思えないのですが。
コホン、ひとつ咳払いをする。そんな彼女に憧れの視線を送りつつキャロラインは、箱の中の花弁を閉じ込めた蜜菓子をひとつ、淹れられた熱い紅茶のカップに落とした。
給仕をしていたナターシャが気が付き問う。
「そのままでも食べられますが、我が国では、お茶に入れて楽しむのです。中に閉じ込められた花びらがお茶に花開いて綺麗ですの」
答えるキャロライン。
マーガレットも濃い紅色の菓子を一つ摘んで落としている。
興味を持った彼女は、主人のカップに紅茶を注いだ後、ひとつ選んで落とす。
しゅわりとちいさく泡をたてて溶ける菓子。そして琥珀色に開く小さな花、立ち上る香り。
「まあ、なんて可愛らしい。これは……こちらを少しばかりお入れくださいまし、きっとあいますわ」
ブランデーを入れる様すすめる彼女、ニッコリと大人の笑みを向けていた。そして女ばかりのお茶会が、和やかに開幕する。
白いクロスの上には、薔薇の花が飾られ、ワイルドストロベリーが描かれた茶器には香り高い洋酒の効いた紅茶、チョコレートにオレンジピール、しっとりとしたフルーツケーキ。
それらを楽しみつつ話すうちに、次第に饒舌になるご婦人方。
「そうですわね……、殿方は人前では理性、二人きりだと、本能の赴くままでしょうね、ところ構わずと会報にも、確か書いてあったでしょう、下手に声など出すと大変ですの。ホホホ」
大人の世界を匂わすルーナ・シー。
「そういえば……、乗り物の中とか、ありましたわ、わたくし達は馬車に二人っきりにはなれなくて……、試してみたいなとは思いますの、それで……それってどうなのですの? 寝台の上とは違いますの?」
秘事は寝台のみのキャロラインは、興味津々で問いかける。どこに行くのもお付きが控えている王族の暮らし、夫婦二人っきりになれるのは、寝室の中のみなのである。
「まあ、そうなのですの? お国によって随分と差が……、では貴族の皆様もそうなのかしら、マーガレットさん?」
「いいえ、わたくしは違いましてよ、先生の素敵な世界を参考に、楽しませて頂いておりますの、わたくしの夫は、フフフ、ですから」
ニッコリとかえすマーガレット。フフフ? キャロラインが生真面目なエドワードの顔を思い出しつつ、フフフとは何ですの?と問いかける。
「そうですわね……、ここだけのお話でしてよ。色々と御座いますが、例えばエドワードは、わたくしのワイングラスになりましてよ」
「ワイングラス? それは口移しに、飲ませて頂く事かしら?」
ルーナ・シーは紅茶を飲みつつ、それが何? と思う。
「ええ、先生の旦那様もされてますが、エドワードは、まるっきりワイングラスですの、ワインというものは、空気を混ぜ込み飲むのが、とても美味しゅう御座いますわ。ですからね」
白いクロスの上に身を乗り出すマーガレット、つられてキャロライン、ルーナ・シーも額を合わせる。
「グラスに注がず、ボトルから空気を混ぜ合わせる様に、直接一口含むと、わたくしに運びますの、そしてパテを挟んだパンを一口……」
「千切って、つまんで食べさすのですか」
「いいえ、ルーナ先生、わざわざ手を使わずとも口移しに決まっておりましてよ、エドワードは噛み千切るとわたくしに食べさせますの」
「まあ! 小鳥のお母さんみたいですの! 手や食器を、お使いにならないのですか!」
「うふふ、キャロライン様、言いましたでしょう、彼が食器ですのよ、右手にボトル、左手にパンを持っておりましてよ、わたくしは椅子に座っておりますから、顔をこう、近づけた時に、エドワードの胸ぐら掴んで引き寄せますの」
「胸ぐら掴んで!」
ルーナ・シーは、自分の夫の胸ぐら掴んで引き寄せると、彼はどうなるかと考え、少しばかりゾクリとした。
「まぁぁ! すると、お二人は旅の途中でも船室でそんな事を? そういえばお食事は何時も別々でしたもの……」
完全に知らぬ世界に興味津々なキャロライン。
「おほほほ、こんな事ほんの序の口でしてよ、ルーナ・シー先生は、巾広のリボンで特に……をきっちり美しくラッピングをして、転がる夫を見下ろす事はございまして?」
マーガレットはにこやかに話している。
巾広リボン! それを聞きナターシャは声を立てて笑いそうになり、手で口をぱっと抑える。震える肩、そして……テーブルの上に置いてある香油の瓶を見る。
王家の秘薬、そして夜に使い良い夢を見れる代物、もしやこれは?と、そろりと手に取り眺めている。そして三人のご婦人達は。
……、わたくしがラッピングされて、置かれてましたけど……、まさか夫をラッピングするとは……、その後どうされるのかしら、その時のマーガレットの出で立ちは?
お色気作家、ルーナ・シーの取材根性がムクムクと頭を持ち上げてきた。
「お荷物の様に、梱包なされてどうされますの?」
まだまだ少女なキャロラインが、そのままに問いかける。
「その時マーガレットさんは、どの様な形をしてらっしゃいますの?」
これはエドワードにも、是非とも突撃取材がしたいですのと思いつつ、ルーナが問いかける。
「ガータベルトにピンヒール、それだけでしてよ」
晴れ晴れとした笑顔でマーガレットは答えた。
お寝間着無いのですの……唖然としたキャロライン。そうきたかとルーナ・シー。
ナターシャは……手にした瓶をそろりとポケットに隠す。
今宵……是非とも効能を試してみなければ…… と思いつつ、何食わぬ顔をして、「お茶のお代わりは如何でしょうか」 と給仕をしていた。




