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10. お茶会が始まりましてよ!(2)

 チラチラと躍る木漏れ日が、グラスを透かして、テーブルクロスの上に葡萄色の模様を作る。


 グラスから立ち上る華やかなワインの香り、涼やかな風に含まれる森の香り。


「奥様方が、そちらも殿方同士でお楽しみくださいませ、と……」


 軽く笑みを含ませながら、ナターシャがテーブルに、ワインとチーズ、ドライフルーツ、ケーキなどをセットしていく。


「あちらも酒ですか?」


「いいえ、あちらは紅茶ですわ」


 ナターシャにあっさり否定され、少々ほっとする、シドである。


 ――― 彼の妻は、普段は飲まないが、飲むと少々以上に大胆になる。

 しかも、いつもに増して可愛くなる。

 そんな妻を見られては、どんな愛妻家でもグラつきヨロめくかもしれぬ。


 彼の懸念は、そこであった。

 もちろん、その懸念を知っているナターシャとしては、こう付け足すのも、忘れない。


「紅茶はブランデー入りも試すのだそうですよ」


「…………やめさせて、ください」


「かしこまりました。()()()()()()、そうさせていただきますわね」


「…………」


「そうそう、ケーキもブランデー入りだったかしら。……ま、殿方は殿方同士で、どうぞごゆっくり。

 失礼いたしますわ」


 ナターシャが少しばかり楽しんで退場した後、すぐにでも飛んで行って酒を取り上げたい衝動を、客人の手前、グッと抑えるシド。


 その彼に向かい、ジョージ王子は無邪気にグラスを掲げた。


「では、私たちと師匠との出会いを祝って……!」


「乾杯!」 と調子を合わせるのはエドワード。


「…………」 無言でグラスを上げて、内心で (……師匠?) とツッコミ入れるのが、シドである。


「早速ですが、師匠」


 シドの内心など知らぬ()に、キラキラとした瞳を向けるジョージ王子。


 かねてより、聞きたいことは色々あるが、まずは。


「奥様を賛美される時は、どのように言われるのでしょう……?」


「…………え。」


 彼らの賛美なら、別荘を案内してる途中に山ほど聞いた、とシドは思った。


「……もしや、あれでまだ、もっと賛美なさりたいと?」


「もちろんです! 可愛い美しい愛していると、何度言っても言い足りませんとも!」


「下僕としては、妻を褒め称えるのは当然ですしね」


 口々に言うジョージ王子とエドワードに、勝手にしろ、と思うシドである。


「で、師匠ならばさぞかし、素敵な言葉をご存知だろうと……」


「ぜひ、我々にご教授ください!」


「………………」


 ゆっくりとワインを口に含み、シドは、覚悟を決めた。


 ――― こうなったら、このふたり。教示するフリでもって、しっかり牽制してやろう。


「……言葉? それに何の意味があるんです?」


 いかにも出来る男風に、クッと薄い唇を曲げて見せる。


「いえ、それはやはり、心をあらわしたくなるではないですか」


「喜んでもらえれば褒めたくなるし、内心で 『ナニ言ってんのかしらこの人』 と思われてるかも、と妄想するのもゾクゾクきますし……」


「なるほど」


 シドはひとまず相槌を打ったものの、どう説明しようか、と迷う。


 ――― 心をあらわす?

 だったら、さっさと実力行使に出ればいいのだ。口で100回美しいと言うより、1回のキスの方が余程有効だろうに。


 そもそも 『褒める』 などというのは、単なるプレイの一環。

 ……心をあらわすのに、何も1つのプレイに(こだわ)ることは、ない、と思うのだが。



「……首筋」


 シドは、重々しく、決定的だと考えた一言を繰り出した。


「「……はい?」」


「まずは、首筋を捕まえるのがコツです。それで逃げられなくなりますから」


「……失礼ながら、それは猫では……」


「似たようなモノです」


 遠慮がちにツッコんだジョージ王子に、バッサリと言い切り、エドワードの首に 「失礼」 と手を伸ばす。


 ――― 乗り気でなくても、やる時はやる。


 シドは、そういう人間であった。


「猫と違うのは、こう、軽く添えるだけでいい点です」


 エドワードを妻に見立て、実演つきで解説する。


「ついでに、すかさず素早く、しかし柔らかく、ササッと指の腹でうなじを撫でます」


「……ぅひゃぁっ!」


 なんとも言えぬ感覚に、身をよじるエドワード。


 その辺を無視して、シドは淡々と実演を続ける。


「で、後はこう、引き寄せれば、どこだろうと、()で放題でしょう?」


「…………っ!」


 ジョージ王子が固唾を呑んで実演を見守る中、シドは 「俺の唇は妻のモノなので、手で失礼しますね」 と断り、エドワードのポイントを、髪・額・まぶた・頬……と、順に指先で押さえていく。


「同じく口を使って妻を讃えるなら、言葉を発するよりは、こういう感じで吸い付くした方が、はるかに悦ばれると思いますが」


「ひっ…… あっ……」


「エドワードさん、気を遣って反応してくれなくて結構ですよ。正直、気持ち悪いんで」


 エドワードの上半身をひとしきり押さえつくして、ぽいっ、と彼を突き飛ばし気味に離し、シドは 「さて」 と、両手をパンパン払った。


 ――― さながら、ゴミでも触った後のようである。


「こんなところですね。

 指でも口でも、まぁ趣味によってはそれ以外でも使えます。

 ……今は主に前をやりましたが、もちろん、背後に回って首筋から肩甲骨、背筋へと口で辿ることもできるわけです」


「…………」


 ゴクリ、と唾を飲むジョージ王子。


 なるほど、と思わずにはいられない。


「……口で、ということは、その間、手は……?」


「……さぁ?」


 クッ、とシドの喉が鳴った。


()()()()()()()でいいんじゃないでしょうか。()()()()()()



 ――― その日。

 ジョージ王子とエドワードは、確かに、新たな扉を開けたのだった……。


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↑ハニーハニー♡マイプリンセス、とろける夜に甘くキスして 

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イラストは 砂臥 環さま にいただきました! 砂臥 環さま、有り難うございます。 
 
◆砂臥 環さまのマイページ 
https://mypage.syosetu.com/1318751/
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[一言] ぶるうちいず先生「エクストリームヘヴンフラーーーーーーッッシュ!!!!!!!!」
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