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スライムショック

————————

 ※DHギルド職員視点です。


 ここは日本DHギルド本部にある、市場管理を行なっているDHギルド素材部。ここでは主に需要と供給のバランスを見ながら、買取額を調整していく部署となる。


 とは言ってもここ数年は市場が安定しており、DHギルド全体での対応としては特に何も行なっておらず、最近は素材部の職員はパソコンと睨めっこしているだけ。そしてそんな事もあり部署の職員数も経費削減により減っていく一方。


「あれ?」


 ——事の発端は、一人の若い男性職員が素材の在庫を確認していた際に気づいた事だった。


「ん?どうした?」


 若い男性職員の言葉に、隣の机に座る30代の男性職員が覗いてくる。

 

「いや…DHギルドの素材の在庫を見ていたんですが、何故かスライムゼリーの在庫が減ってきてて」


「あースライムゼリーか。最近はノーマル武器も安くなってきてるし、それを買って駆け出しでもゴブリンを狩ってるんじゃないか?」


 スライムは魔物の中では最弱だが、倒すのに時間が掛かりおまけに経験値も低い。これはDHで無い一般人も知っているような常識。そして最近では成長を急ぐ駆け出しのDHに多くは敬遠されている。


「それに元々スライムなんて狩るのはよっぽど金に困った奴だ。……ま、多少高く売れると分かったらブロンズあたりが小遣い稼ぎに狩るんじゃないか?」


「まあ、いつも結局何とかなってますしね。……よし。今週も素材在庫には問題なし。素材市場も安定っと」


 若い男性職員はそう書類を纏めて上司にメールを転送する。


「うーん!よし定時だ!」


「よし、帰るか。金曜だしこの後一杯どうだ?」


「いいですね。先輩の奢りですか?」


「おいおい…また俺に奢らせるのか?はぁ、仕方ねぇなあ」


「やった!流石先輩!」


 最初の違和感は担当者により簡単に流されていく。


 

——その一週間後。


「うーん…やっぱり買取が少ない。この状況で薬品会社から纏った受注来ると不味いな」


「またスライムゼリーか?…これで二週間か。下級ポーションの材料だし、課長に一報入れた方が良いかもな」


「そうします」


 若い男性職員はスライムゼリーの在庫データを印刷し、課長のデスクへと向かう。


「すいません課長」


「ん、どうした」


 課長と呼ばれた男性はパソコンを見るのをやめ、若い男性職員へと顔を向ける。


「ここ二週間スライムゼリーの買取数が落ちてて、DHギルド全体の在庫が減っています。このままだと製薬会社の受注に対応出来ないかもしれません」


「それはまずいな。なら、スライムゼリー持ち込みの貢献ポイントを少し上乗せするよう、私が部長に掛け合ってくる」


「お願いします」


 そうして急遽日本DHギルド全体で、スライムゼリー買取キャンペーンが始まった。



——その一週間後。


「不味いです!スライムゼリーの在庫が全く増えません!もう在庫がゼロです!製薬会社からもポーション製造ラインが止まりそうだとクレームが!」


「他のダンジョン素材会社にも連絡は取ったのか!?多少高くても構わん!」


「もう思い当たる大手には電話しました!どこもスライムゼリーの在庫が無いそうです!」


「おい!個人露店にも無いのか!?他の部署にもすぐ応援を頼め!!」


「ダメです!個人露店でも700円で即売れしているそうです!!」


「課長!製薬会社からまたクレームが!ラインが止まったら損失分の数千万を補填しろと言ってきてます!!」


「必ず用意するからもう少し待てと伝えろ!!部長にまた掛け合ってくる!!」


 スライムゼリー不足の混乱は日本DHギルド全体に広まり、突如役員会議が開かれる事となった。

 ——その会議の結果DHギルドは製薬会社からの損失補填を恐れ、一週間限定で買取額を800円まで上げる事が発表される事となる。


そして——。


「順調に買取は増えて来ています。これなら受注分も何とかなるかもしれません」


「はぁ、そうか。このまま様子を見てくれ」


「分かりました」


 課長の男性は心労から一気に老け込み、更に体調を崩して胃薬が手放せなくなっていた。

 若い男性職員もその対応に追われた分の仕事が溜まり、それらを処理するのに数日仕事に追われた。


「やっと仕事を処理できた…さて、スライムゼリーの在庫はと……」

 

 ——そこで若い男性職員の動きが止まる。


「いち、じゅう、ひゃく……まん、じゅうまん、って……えええええええ!!!??」


「ど、どうした!?」


「大変です!スライムゼリーの在庫が!!」


「在庫がどうした!?」


「なぜか50万個以上のスライムゼリーがああああ!!!かちょおおおおおお!!」


 若い男性は叫びながら慌てて課長の元へと走っていった。



ーーーーーー



 ——その後日本DHギルドは急遽告知もなくスライムゼリーの買取を停止。

 その急な買取停止にスライムを狩っていたDH達は反発し、その後…便乗も合わせて数万人規模のデモにまで発展する。


 日本DHギルドはデモを鎮静化する為に、一日限りで再度800円買取を実施する事となる。そうしてデモは収まる事となったが、日本DHギルドの信用は大きく落とし、責任を取って世界DH連合に多数の利権を引き渡す事となったようだ。


 またスライムゼリーの過剰買取による損失額は20億。そして日本その在庫を処理し切るまでに一年の月日が掛かった。




 ——こうした一連の流れ全てが『スライムショック』と呼ばれ、長く人々に語り継がれることになる。




 余談だが——若い男性職員とその先輩、そして課長はDHギルドを自主退社した。三人はスライムがトラウマとなり、ダンジョンとは出来るだけ関わらないよう、田舎でスローライフを送ったそうだ。



ーーーーーー

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