スライム錬金
「ふう。これで今日のノルマは終わりだ」
グンセさんとビジネスパートナーとなった僕は、この一カ月ダンジョンに潜り続け、素材集めの日々を送っていた。
まず、グンセさんが要望した素材——それは。
『——まずは、ひたすらスライムゼリーを集めてこい。ノルマは…そうだな。ムノなら一日1000個位行けるか?』
グンセさんによると、スライムゼリーは下級ポーションの材料となり、安定した価格で取引されているらしい。需要も高く、僕が全力で集めても売り捌くことが出来る、数少ない素材との事。
僕は最初こそノルマ達成はむずかしかったが、グンセさんからマジックバック(中級)を貰い、ノルマを達成出来る様になった。
このマジックバックは中級だが、登山用のリュックサック並の容量があり、おまけに重量軽減まで付いている。そのおかげで、往復100個が限界だったものが往復500個まで上がり、往復時間が減った分、狩りをする余裕ができたのだ。
——いや、グンセさんから貰ったは違うな。グンセさんが百万円で買わせた…の方が正しい。そのせいで、僕の借金は四百万円まで増加してしまった。
グンセさんによる、スライムゼリーの買取価格は一個百円で、それを一日1000個。ザックリでこの一カ月で30000個は集めた筈だ。
既に借金は半分以上返せていて、もう一月で返済完了となるが、僕は18歳まではグンセさんにお世話になるつもりでいる。
ーーーーーー
「ふふふふふ…アッハッハッ!!!」
僕がスライムゼリーを渡しに店の中に入ると、グンセさんの高笑いが聞こえた。
「どうしたんですか?」
「いやな。ムノの集めたスライムゼリーで、裏工作してるんだが……計画通りに行き過ぎて、笑いが止まらねぇ」
「ふーん。まあ、渡したスライムゼリーをどう使おうが、グンセさんの自由ですけど。あ、今日の分ここに置いときますね」
「おう。本当にお前と組んで良かったぜ」
マジックバックからスライムゼリーを出し終え、僕は店の二階へと階段を登っていく。
この一カ月、グンセさんの店の二階で寝泊まりしていて、その分の家賃を差し引かれている生活を送っている。カビ臭くてとても綺麗とは言えないベッドだけど、孤児院のベッドよりもマシだし、以前に比べれば生活レベルは格段に上がっている。
「はあ、今日も疲れた。DHニュースでも見て寝よ」
ベッドの上に横になり、暇つぶし用に買ったタブレットを操作して、DHギルドのニュースを確認する。
「えーと……何々?——何故市場から消えた?スライムゼリーの謎?」
——DHニュースのトップの記事には、そう書かれていた。
なんでも、DHギルドに持ち込まれるスライムゼリーの量が突然減り、製薬会社の下級ポーション生産ラインが停止するという事態に陥っているそうだ。
既にスライムゼリーの需要が高まり値段が高騰していて、先月相場300円だったものが、700円でも即完売となっているとの事。それに合わせ、業者による下級ポーションの買い占めも始まっており、ダンジョン素材市場全体に混乱が起きているそうだ。
そして、日本DHギルドはスライムゼリーの入手を緊急依頼として出し、貢献ポイントの上乗せキャンペーンを行なっているそう。
DHギルドは買取額を250円から値上げをするかについては、現在検討しているとのコメント。
「うわぁ…これ絶対、グンセさん絡んでるやつじゃん」
どうやったのかは分からないが、グンセさんはスライムゼリーを最低で30000個は所持している。値段の上がった今、売り捌けば高騰した分の400円だけで考えても、1200万円の利益になる。
「うーん。でもそれだけなのかな……?」
確かに1200万円は大金だけど、これだけの手間をかけて、それだけ?って気もする。買い占めには多くの協力者も居るだろうし、苦労に見合わないんじゃ無いだろうか?
「ま、どうせ僕には関係ないか」
——むしろ、僕を退学にしたDH教育学校の親である、DHギルドが困る事になるのは、正直言ってざまぁ、だ。
良いぞ、もっとやれ!とでもグンセさんに言いたいくらい。
「ふわぁぁ……」
僕は眠くなり、欠伸をする。
(そろそろ寝るか)
タブレットの電源を落とし、布団を頭まで被る。
1日中ダンジョンに潜って疲れた身体は、睡眠を欲し——僕はあっという間に意識を手放した。
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翌日——日本DHギルドは、スライムゼリーの買取額を一週間限定で800円にする事を緊急発表する。その金額の高さから、多くのDHがスライムを狩りに、ダンジョンへと潜りはじめたそうだ。
——そして、その3日後。後に『スライムショック』と長く語り継がれる事件が起こる事となる。