黒き英雄と無能の少年 5
——空から降ってきた光の柱。
それはエラーへと直撃し、その身体を押し潰していく。
ダメージは分からないがエラーはその圧力によって四つん這いの体勢を手で支えきれずに地面に頭を付けて押さえつけられる形となる。
だが光の柱はまだ続き、エラーを潰し続ける。
そしてその身体に突き刺さったオリハルコンの欠片を更に押し込み、その身体をボロボロにしていく。
更にエラーは銀により再生を阻害され、その身体を元に戻すことができない。
そして——光の柱が収まる頃には、大きなエラーの身体はボロボロになり、オリハルコンの欠片が多く突き刺さっていた右腕は身体から離れていた。その身体から離れた右腕は濃い紫色の湯気となって消失していった。
左腕も皮一枚で繋がっているような状態で、エラーはうまくその腕を動かすことが出来ないようだ。何度も起き上がろうと踠いてはいるが身体は地面に押しつけられたままになっている。
果たして首を落とせばエラーを倒すことが出来るのだろうか?
僕はそんな事を考えながら、聖剣を手にエラーへと近づいていく。
必死にもがくエラーの姿、そして僕が一定の距離まで近づくとエラーは僕に顔を向ける。
目……と言っても黒いモヤが目の部分だけ穴が空いている所だが、エラーのその目のようなものと僕の目が合った……気がした。
僕は立ち止まり暫く様子を見つめる。
エラーも起き上がろうとするのをやめて僕を見たまま動きを停止する。エラーもイレギュラーな状態なのか、攻撃してくる素振りはない。
僕もエラーも動きを止めたまま少しの時が流れる。
そして——僕は聖剣を両手で握りしめてエラーの首へと振り下ろした。
エラーの首と胴が離れる。
するとエラーの首と胴の両方から黒いモヤが発生し始める。普段エラーを倒した時と変わらない状況なので倒せたのだろうか。
エラーの身体が薄くなっていくのを眺めていると、そこには最初から何も無かったかのように荒れた地面だけが広がっている。
僕は聖剣を収納し、皆の所へと戻る。
そこにはレーガンさんが真面目な顔で腕を組みながら待っており、僕が近づいてきた所で声を掛けてきた。
「ムノ……君はどうしたい?」
「何がですか?」
レーガンさんの言葉の意図が理解出来ずにすぐに聞き返す。
「君と聖剣の力を世間に公表すれば、君は世界でも有名になれる。そうなれば世界DHギルドは全面的にバックアップするだろう。君は地位も名誉も手に入れる事になる」
「……」
僕は返事をしないままレーガンさんを見つめる。
「だが、君の力をこの場限りの話にすれば、君は一時的に今までの生活に戻れる。そしてすぐに周りに騒がれることは無いだろうが……まあ、それも時間の問題だ。君がDHとして活動する限り、次第に名は世界に知られることになるだろう」
要は隠してもどうせ名前を知られる事になる。それなら今このタイミングで”黒き英雄”として世間に出たらどうだ?という話だろう。
確かにこれ以上のタイミングは無いかもしれない。世間はエラーの話題で持ちきりで、そこに世界中のDH達が倒す事が出来ないエラーを倒す手段を持つ者が、DHとして活動を開始したら?
地位も名誉も普通のDHでは辿り着けない所まで……いけるんじゃ無いだろうか。
僕は周囲の様子を伺うが、ヒメさんもレイジさん達も無言のまま口を開こうとしない。
「……周りの意見は聞くな。この選択は君の力が成し遂げた事。この選択は君自身が決めるべき事だろう」
最初、僕はただ生きるために必死だった。そのためにDHになろうとしたし、その為に聖剣を持ってダンジョンへと潜った。
それは別に有名になりたい訳では無かった。
でも、僕の力は異常でこの"運"は世界をも変えてしまえるような力だった。本気になれば市場は崩壊するし、武器防具を本気でばら撒けばDH達の常識まですべてひっくり返ってしまう。
僕はどうしたいんだろうか?そう自身に問いかけるが答えが返ってくるわけがない。
教育学校や日本DHギルドには恨みはあるが、渡馬も追放されるだろうし、渡馬が暴れた件で校長達が僕の正体を知り後悔するだろう。見返すというだけなら既に目的は達成していると言えるかもしれない。
(今、僕が一番大切な物……)
僕はそれを思い浮かべ、そして心の中で決意する。
「レーガンさん。決めました——僕は」
僕はレーガンさんと目を合わせ、その決意を言葉にした。
ーーーーーー
——そしてダンジョン・アイランド事件から約3ヶ月。
新宿区にあるDHギルド内では多くのDHや職員達でごった返していた。
そこの一角の買取窓口の順番待ちをしている1人の若い男のDH。そして、その男にやっと順番が回ってきたようで、少し大きめのカウンターを挟んで受付の若い女性職員へ話しかける。
「あの、素材の買取お願いします」
男の声に女性職員は笑顔で対応する。
「はい、分かりました。ではDH免許と素材をカウンターの上にお願いします」
女性職員の言葉に男は戸惑う。
「あの……ちょっと素材が多くて」
男の言葉に女性職員は首を傾げる。何故なら男が持っているのは小さな鞄一つのみだった。けれど女性職員は納得したような表情をする。
「あ、マジックバッグ持ちの方だったんですね。若いのに凄いです!なら、隣の台にお願いします」
カウンターの脇には2メートル四方の台が設置されていた。それを見て男性はまだ納得していない表情をしていたが、諦めたかのようにマジックバッグを台の上で逆さにする。
すると、マジックバッグの中からスライムゼリーやウルフの皮等の上層で取れる素材が出現していく。
10—20—50個が出てもその勢いは止まらず、台が素材で埋まり始める。
それを見て目を見開く女性職員。
「え……あの……」
驚いている間にもまだまだ積み重なり、台を埋め尽くす素材。次第に山からこぼれ落ち、床へと溜まっていく。
「ちょっと待ったー!!ストップッ!ストップ!!!」
その光景に唖然としていた女性職員は我に返り男の行動を制止する。男はマジックバッグから素材を出すのをやめて女性職員へと目を向ける。
「何ですかその素材の量!これ一体何週間分なんです!」
「え……いや、一日分なんですが……」
問い詰めるように身を乗り出す女性職員に男は戸惑う。
「そんな訳ないでしょうが!もう、取り敢えずDH免許を見せて下さい」
男は言われるがままに懐からDH免許を取り出し、カウンターへとのせる。女性職員はそれを取り、両手で顔の前まで運んで確認した。
「えーと……嘘、あなたカッパーランク何ですか?何でそれでマジックバッグを……いや、それよりもDHへの登録日が昨日じゃないですか!」
「ええ、まだ成り立てで早くランクを上げようと頑張りまして……」
「一日でこんなに取れるわけ無いでしょう!何考えてるんです!素材を別な所で買い取って持ち込む人も居るにはいますが、これはあからさま過ぎます!」
「いやいや!本当に自分で取ってきたんですって!」
「せめて不正をやるにも限度を考えて下さい!これは上に報告させて頂きます!逃げずに待っててくださいね!」
そういうと女性職員はDH免許をその場に置いて、カウンターから離れて奥の部屋へと入っていく。
それに加えて騒ぎを聞きつけたのか警備員の男性達が出入り口に立ち、カウンターの前に立つ男に目を向けていた。周囲も騒ぎによって立ち止まり男に目を向けている。
——そして騒がれている男は頭を指で掻き、その後にため息を吐く。そして周囲に聞こえない声で呟く。
「はあ……ちょっと多すぎたかなぁ……言われた通りに50個位でやめとけば良かった……」
男の脇には数百以上の素材が積まれた山。
「まあ、最悪早川さんに連絡取ればいいか。日本DHギルドのギルド長だし。でも、問題起こすなって言われててまさか一日で騒ぎ起こすとか……」
男はやってしまった、と言わんばかりに額に掌を当てる。
ーーーーーー
——そしてカウンターの上に有る、その男のDH免許。
そこには『群瀬 ユウノ』という名前が記載されていた。




