黒き英雄と無能の少年 3
グンセさんは僕が射程内に入る前に、既にミョルニルを振りかぶった。僕はその場で一度バックステップをし、ミョルニルの振り下ろしを回避しようとする。
だがグンセさんはミョルニルを振り下ろす事なく突き出す。
「なッ!?」
気付いた時にはもう遅かった。その時にはミョルニルの先から雷が飛び出して僕の身体へと向かう。そこで僕は咄嗟に聖剣を前に出し防御を試みる。
そして雷と聖剣が衝突し、雷は軽減されたが僕の身体が僅かに雷を帯びる。
ダメージとしては微々たるものだが、身体を動かすのがが少し邪魔されるような違和感。この雷、デバフ効果でも有るのか?
となれば、ミョルニルのレアリティの問題で状態異常耐性も貫通された?
グンセさんはニィッと笑い、僕との距離を詰め始める。
通常であれば素早さだけなら僕の方が上。だがもし、雷のデバフが予想通りならスピードによる勝負はマズい。
時間稼ぎの為に聖剣を投げて、もう一度後方へと跳躍する。
グンセさんは足を止め、ミョルニルで聖剣を弾きすぐにまた動き始める。
ああ……対峙して分かる。グンセさんの威圧感は凄い。
巨大な戦車が迫って来るような圧力と恐怖を感じる。これは普通の人なら気を失ってもおかしくは無い。
そしてその戦車に隙なんてものがある筈もない。もし掻い潜って聖剣が到達したとしても、DHの中でもトップクラスの体力を持つグンセさんに大きなダメージを与える事は難しいだろう。けれど。
僕は聖剣を手に出現させてその先をグンセさんに向ける。
「"光弾"、"セイバーレイ"、"光弾"、——」
その硬い皮膚。物理には強いが、魔法に対してはどうだろうか。
——光弾とセイバーレイを精神力が続く限り連射してやる。
校舎のそれほど幅が広くは無い廊下を光が埋め尽くす。グンセさんは魔法を嫌がったようでその場に立ち止まりミョルニルを盾にした。
このまま限界まで魔法を打ち込む。それでグンセさんが少しでも頭を冷やしてくれれば——。
次の瞬間、嫌な予感ぎ頭によぎり全身に鳥肌が立つ。
魔法を少し緩めると……グンセさんが上の服を破り捨てていた。
そう言えば——グンセさんはその状態が戦闘服だと言っていた。グンセさんクラスになれば性能の良い防具なら持っている筈だ。
それが何故……まさか!
僕は魔法を中断し、後ろへと後退して距離を取ろうとする。
そして最後に放った3発の光弾がグンセさんに到達しそうになったその瞬間。
グンセさんの皮膚が淡く光り、僕の放った光弾が180度方向を変えてそのまま僕目がけて戻って来た。
「くッ!」
何とか聖剣で二発の光弾を切り捨てるが、一発だけ左肩に直撃する。左肩に衝撃が走り、僕は大きく体勢を崩す。
距離を取ろうと不安定な体勢だったところにその衝撃。僕はそのまま後ろへと弾き飛ばされる。
「いてて……」
初めて受けたが、これが僕の魔法の威力か……。初級魔法でこの威力ならかなりのものだろう。直撃した箇所の服は破れ、肌が露出している。
だが僕はすぐに身体を起こし、グンセさんに目を向ける。
左肩がズキズキと痛むが動かせない程では無い。
僕はその場で動かせないグンセさんに声を掛ける。
「……まさか反射してくるなんて。その体力に魔法反射スキルとか、隙がなさ過ぎますよ……」
「……やっぱりテメェは勘が良いな。本当はこれで終わりにするつもりだったんだが、な」
「悪運だけは自信あるんで」
グンセさんは顔を顰める。
「なあ、ムノ。これで分かっただろう。テメェじゃ俺には勝てねえし、それどころか止めることさえ出来ねえ。諦めて退け」
確かにもう力尽くで止めることは諦めた。差し違えるつもりであれば別かもしれないが……それは流石に。
僕はふぅ……と大きく息を吐きグンセさんに話し掛ける。
「……グンセさん。もし今ここで僕が命の危機に陥ったら、目の前の復讐と、僕の命、どちらを優先しますか?」
グンセさんは眉をピクリと動かす。
「……ムノ、テメェ何を言ってやがる?」
「僕はあの日常に戻れるなら、命を賭け金にしてギャンブルしてもいい」
「おい、何をする気だ」
僕は聖剣を逆手に持つ。
グンセさんが僕はに向かって来ようとしているが、遅い。
「……どうか、お願いします」
僕はそう呟きながら、目を閉じて聖剣を逆手のまま両手で持つ。
——グンセさんが冷静になってくれますように。
僕は聖剣を己の腹部目掛けて突き刺そうとした。
だが——その瞬間。
パァン!と空気が破裂する音と共に、僕の身体が空中へと浮かぶ。
「は……?」
目を開けると、僕の身体が浮いている。というよりも後ろへ吹き飛ばされている。
咄嗟に聖剣を投げ捨てて、手で頭を守り受け身を取る。
そのまま地面にぶつかり、僕は衝撃のままに転がっていく。下がコンクリートのせいでかなり痛い。
そのまま転がった僕は、後ろにあった扉に当たって止まった。
「いてて……」
座り込んだまま状況を確認する。
グンセさんは僕に近づこうとした体勢のまま止まり、その後ろへと視線を向けていた。
その先には、赤いスーツ姿の金髪でおおからな女性——レーガンさんが拳を突き出した体勢で止まっていた。
「れ、レーガンさんが何故ここに?」
アメリカに拠点を置いているあの人が、なんで日本に居るのだろうか?
突然の事に僕は惚けることしか出来ない。
黙ったままの僕とグンセさんを前に、レーガンさんが体勢を戻して腕を組み口を開く。
「……貴様ら。ここで何をしている?外はエラーへの対応で皆が必死になってんのに、英雄様とミスリルランクDHが仲間割れだァ?わざわざ世界DHギルドの応援要請でアメリカから飛んできたってのに、ふざけてんじゃねえぞ!?」
レーガンさんの怒号で空気がピリピリと感じる。言わなくても分かるかもしれないが……どうやら彼女はかなり怒っている様子だ。
「お、おう。レーガン」
グンセさんがタジタジになりながらレーガンさんに声を掛ける。あれ?先程までの鬼のような形相はどこへ行ったのか。
「お、おう。じゃねえんだよ?グンセテメェ、人には復讐は忘れろって言ったくせに、その本人が復讐する気満々なのはどういう事だ?なぁ?」
レーガンさんがコツコツと靴の音を鳴らしながらグンセさんへと近づいていく。
グンセさんが鬼の形相なら、今のレーガンさんは龍だろうか。どちらかというとレーガンさんの方が恐ろしい。
そしてグンセさんもその様子にタジタジだ。
ま、まあでも、これなら大丈夫だろう。とホッとした。
「おいムノ!テメェもこっち来い!テメェにも説教だ!」
「は、はい!」
——こうして、僕とグンセさんはレーガンさんに説教される事になった。
でも、グンセさんの表情を見る限り……もう大丈夫だろう。
ぼくはフッと笑う。
「ムノテメェ、聞いてんのか!」
「すいません聞いてます!」
だが僕のしようとした代償は、小さくは無かったようだ。




