ビジネスパートナー
「——取り敢えず、運が良いっていうのは置いといて、だ」
「はい」
「さっきも言ったが、俺はテメェに何かするつもりはねえ。それだけは信用しろ」
「はい」
「それを前提に、だ」
「はい」
「俺は、テメェに先行投資をしようと思う」
「……はい?」
「いいか、良く聞け。テメェはその剣がある限り、並のDHよりの上に行く可能性が高いんだよ。もしかしたらミスリルランク——いや、今の最高ランクのオリハルコンランクにさえ届くかもしれねえ」
——DHのランクは、下からカッパー、ブロンズ、アイアン、スチール、シルバー、ゴールド、ミスリル——そして現在の最高ランクである、オリハルコンランクに分けられている。
DHになると必ずカッパーランクから始まり、ランクを上げるためには、素材の持ち込みやDHギルドの依頼を達成していく事になる。
達成の評価が判断基準を超えたところで、昇級試験を受けることができて、それに通ればランクアップとなる。
そして、最高ランクであるオリハルコンランクは——現在世界に二人しか存在していない。その二人は、ソロでダンジョンを完全攻略出来るほどの強さを持っていると噂されている。
「無能の僕がオリハルコンランクなんてあり得ないですよ……それに、僕はDHにさえなれていないんですよ?」
「あのなぁ……DHなんて、18歳になりゃ孤児だろうが元犯罪者だろうが他のDHが推薦するだけで簡単になれるんだよ。……というか普通はちゃんとした身分がありゃ、書類だけで簡単に登録出来るもんだ」
「え、推薦でもなれるんですか」
「おう。だからこそ、最初にDH免許の偽造を頼んできた時に冷やかしだと思ったんだよ。ま、流石に無能とは思わなかったけどな」
はぁ……それじゃ、DH育成学校を退学になって絶望してた僕が、まるでバカみたいじゃないか……。
突きつけられた事実に、自然とため息が出る。
ん?あれ?でもそれじゃ——。
「それじゃ……偽造DH免許で三百万円ってぼったくってないですか?」
「ま、そうだな」
厳つい男性は悪びれもせず笑う。
「……うわぁ。信用したく無くなってきた」
「ま、結果的には良かったじゃねぇか。違法とは言え、テメェは18になる前にダンジョンに入って稼げるし、俺なら鑑定や素材を捌く事だって出来る。それだけ付いて、三百万なんて安いもんだろ」
「そうだけど…何か解せぬ」
「俺なら、テメェのスタートを遥か先にする事が出来るぜ?俺と組めば、何だって用意してやらぁ」
「はぁ……少し納得いかないけど、分かりました。で、僕は何をすれば良いんです?」
「そうだな。テメェは、俺の言うものをダンジョンに行って取ってくるだけで良い。それを俺がうまく使って金を稼ぐ」
「まぁ、それだけなら」
「よし!交渉成立だ!これから頼むぜ?」
「分かりました。あ、それと」
「何だ?」
「そういえば、名前教えて下さい」
「——俺の名前はグンセだ」
「グンセさんですか、分かりました。ではこれからよろしくお願いします」
「おう。よろしく頼むぜ?ムノ」
——こうして、僕とグンセさんはビジネスパートナーとなった。
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□聖剣エクスキャリバー( I )□
等級:ユニークレア(成長型)
持ち主と共に成長する聖剣。持ち主のステータスを上げる効果を持っている。所有者:ムノ
ATK +100
装備条件 / なし
装備特性 /
聖属性、全ステータス向上lv2、剣術補正(小)、光弾
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これがグンセさんにより鑑定された聖剣の性能。
中級DHが良く使う、マジックレアの剣でATK+30程度で、それも筋力が20程度無いと使いこなせないそうだ。
対する聖剣エクスキャリバーは、装備条件が無いのにも関わらずATK+100。同程度のATKを持つ武器は、レアの上位に相当する。
おまけに『聖属性』というのは、聖職者が使うスキルのみの属性で、弱点が無くアンデットに対して絶対的な威力を発揮するそう。
『光弾』も聖職者の初級スキルで、聖属性だそうだ。
——聖属性武器については、グンセさんは初めて聞いたそうだ。
『剣術補正(小)』は剣術スキルを一段階上げるものだろう、とグンセさんは言っていた。そのため剣術スキルがなかった僕に、剣術(初級)が追加されてたのだろう。
そして……一番おかしい性能をしているのが、『全ステータス向上LV2』。ステータス20というのは、駆け出しDHから抜け出すアイアンランクDHの、一番高いステータスと同等らしい。
それが全ステータスにプラスされるという事は、僕もステータスだけならアイアンランク並になっているという事。
——最後にグンセさんが言っていたが、(成長型)とあるように、聖剣は更に強くなる可能性がある。
そういった所も考慮して……オリハルコンランクの可能性なんて言ったそうだ。
無能の僕がなれるとは思っていないが、そう言われると少し期待してしまう。
「——これから、よろしく頼むよ相棒」
僕は聖剣に触れ、そう呟いた。