聖剣少年と黒い影 6
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——ダンジョンアイランド上空。
僕達三人、そして操縦しているシル爺を合わせて四人は、ヘリでダンジョンアイランド上空まで到達していた。
僕は乗った事の無いヘリに嫌々だったが、そんな暇もないので無心になりながら搭乗した。
問題なのが、エラーは魔石に反応するのに魔石エネルギーを利用したヘリって大丈夫なのかな。
ここは地面、ここは地面……そんな事を考えて耐える。
でも突然の揺れを感じて外を見ると、やはり空だった。
地に足がついていないのがこんなにも怖いなんて。
そしてヘリを運転してるシル爺は何者なのかも気になったが、ヘリの恐怖が勝り聞くことはできなかった。
「……落ちないですよね」
僕は恐る恐る前の席に座るグンセさんへ質問する。
「……普通ならな。けど今回は落ちる可能性は充分に有るか?」
「だから魔石ヘリはやめようって……」
「ハッ。怖いだけだろ。魔法が飛んできたら、その時はムノ頼むぜ」
「……僕に空中から飛び降りろと。いや、もしかしたらこの状況よりもマシかもしれない」
そんなことを言いながら隣に座るヒメさんの様子を伺う。
表情は普段通りを貫いているが、その顔は真っ青で明らかに普通じゃない。多分僕と同じでヘリが怖いんだろう。
「ヒメさん」
一度話し掛けても反応が無い。
「ヒメさーん!」
そこでビクッとヒメさんの身体が反応する。
「は、はい!?な、なにかしら」
「……もしかして、ヒメさんもヘリ怖いの?」
「ま、まさか……私は飛行機も乗ったことあるし、へ、平気よ」
そう言うヒメさんの目は泳いでいる。
乗る前には怖がる僕の事を揶揄ってたと言うのに。
というかヒメさん、魔法で短距離なら飛べるんじゃ……?それで何故怖いのか。
「おい、見えてきたぞ」
揶揄われたお返しをしようか考えていたら、グンセさんが声をかけてきた。チッ仕方ない中断だ。
決して怖くて余裕が無かった訳じゃない。
僕が外に目を向けるとダンジョンアイランドの様々な施設が見える。
そしてその中でも一際大きい発電所のような施設。そこに張り付くようにしているエラーの姿が見える。
「……エラー何してるんでしょう?中の魔石に反応してるんですかね?」
「恐らくエネルギー変換された後の魔素を吸収してるんじゃねえか?……というかまさか、発電所の稼働を止めてねえのか?」
「……中の人が放棄して逃げたってオチは」
「さ、流石にそれは……無いとは言い切れん」
グンセさんが額に手を当てる。
「なら、早く止めないとまだ大きくなりますよ」
「止めるにも俺たちじゃ止め方が分からねえよ。取り敢えず避難してる連中が多そうな所へ行くか。シル爺」
グンセさんがシル爺に目配せをする。
「了解しました」
ヘリの進行方向が変えられ、エラーの脇を通るルートになる。
発電所に直で行くのは流石に危ないか。
ただ何処へ着陸するのか気になったので、グンセさんに質問をする。
「目的地はどこなんです?」
「あー……ムノには悪いが、一番近いのがDH教育学校の屋上になる。そこで俺たちだけ降ろして貰ってシル爺は撤退予定だが良いか?」
着陸先が教育学校か。
まあ、取り敢えずマントで顔を隠しておけば、面倒な事にはならないだろう。
「大丈夫です」
「り、了解……」
ヒメさん……怖いと言うよりも酔ってない?顔が青からゾンビみたいになってるんだけど。
ヘリがエラーの側面を通過していく。
「しかし、エラーが更にデカくなってやがる。10m近く有るんじゃねえか?」
「アレをどうやって倒しますか……それとも、時間稼いで消滅してくれるのかな」
「もし消滅が魔素濃度によるなら、かなりの時間居座りそうな気がするが……」
僕が外を眺めていると、巨大なエラーと目が合った気がする。
濃度によるものかハッキリとした輪郭があり、影というよりも黒く塗りつぶされた巨大な人だろうか。
……ん?いや、目が合った?
「グンセさん。マズいかも」
「あ?何がだ?」
「エラーと目が合いました。ヘリの魔石に反応したのかも」
「おいおい目の前に餌が有るのに、まさか離れたこっちを——って、明らかにこっちを見てるじゃねえか!」
僕の頬を冷や汗が伝う。
「……もしこのヘリが魔法受けたら?」
「このヘリに防御魔法なんて無えぞ。間違い無く墜落する。最悪嬢ちゃんの魔法で打ち消せるかと思ったんだが……」
僕はエラーを見ながら、片手でヒメさんの肩を揺する。
「ヒメさんマズい。魔法!魔法の準備!!」
「う……揺れると、マズ、い……」
ちょっとこっちもマズいぞ!ヒメさんが手で口を抑え始めた!
「グンセさん!ヒメさんもマズい!」
グンセさんはその様子を確認して、焦り始める、!
「シ、シル爺!急いでエラーから離れろ!!」
「り、了解!!」
ヘリが急旋回しエラーから真っ直ぐに離れ始める。
だが、やはりこちらに反応したのか、エラーの手がこちらに向けられる。不味い魔法が来る!
「シル爺!側面になるように向き変えて!聖剣を投げて魔法打ち消すから!」
聖剣を手に召喚させ、僕はシル爺に叫ぶ。
「は、はい!」
それと同時にエラーの手から黒い球が放たれる。
「開けるから捕まって!」
僕はそう叫びヘリのドアを勢いよく開けると、エラーが見えるギリギリの角度。
迫る黒い球の魔法が見える。
——この角度なら行ける!
「当れ!!」
僕は左手で捕まりながら、右手に持った聖剣を球に向かって投擲した。
そして放たれた聖剣は黒い球に一直線に飛び、ヘリとエラーの中間点で二つが衝突する。
聖剣は黒い球を貫通し、黒い球は聖剣と衝突した場所で大きな爆発を起こし、その爆風がヘリを少し揺らす。
「来い」
爆発を確認した僕は聖剣を呼び戻し、次に備えて投げる準備をする。だが爆発のせいでエラーの姿が一瞬見えなくなり、次のタイミングが掴めない。
「次見えますか!」
「分からねえ!」
僕もグンセさんもエラーのいた方向へと目を凝らす。そして徐々に消える黒い球の爆破の跡。
「二つ来るぞ!!」
グンセさんが大きく叫ぶ。
それと同時に黒い球が僅かに見え、僕は聖剣をそれに向かって投げる。
見えた黒い球に何とか命中させるが、もう一つ有るはずだ。
「くそッ爆発で見えない!」
再度聖剣を手元に戻し、次に備えるが二つ目が見えないままだ。
「ヒメさん頼む!風で爆発を散らして!」
僕がそういうと、ヒメさんはゆっくりと右手を前に出し、魔法を唱え始める。
「う……”エアガスト”……」
それと同時に大きく揺れる機内。魔法による突風が機内にも影響してしまった。
あ……ヤバい突風は不味い!!
「何してんだムノオオォ!!」
グンセさんの叫びが聞こえる。
「ヘリの操縦が!!きかない!!」
シル爺も取り乱す。
「う……」
揺れでヒメさんが更にマズい!
そこに迫る、もう一つの黒い球が見えるが——
「近い!」
この距離じゃ、投げて爆発させるとヘリが爆風に煽られて落ちる!
——瞬時にそう思った僕は、気がつくとヒメさんの手を握ってヘリの外に飛び出していた。
そこに迫る黒い球。
僕は、その球を横に一刀両断した。
二つに分断された黒い球は、ヘリギリギリの所を避けて上下に飛んでいく。
よし!何とかヘリは無事だ!僕はその事に一度安堵する。
でも——。
ヒメさんと僕は空中を飛んでいる。いや、落ちている。
「きゃあああああぁあ!!!」
あれだけ具合が悪そうだったヒメさんも、流石に状況を理解したのか叫び始める。
……そこまで高く飛んでいなかったので数秒も有れば地面かな?というか落下の衝撃ってステータスで耐えれるものなのかな?と一瞬で考えてしまった。
咄嗟にヒメさんの手を掴んだけど、これは空を飛ぶ魔法を期待しての事だった。
でも、ヒメさんにそんな余裕無さそうだ。
地面が近づき焦る僕が叫ぶ。
「ヒメさんま、魔法!!」
「え、ええ!!」
地面がすぐそこだ!
「え、”エアクッション”!!」
地面スレスレでヒメさんのエアクッションが発動し、僕達は柔らかな空気の層に当たって軽くバウンドする。
そしてヒメさんを庇い僕が下になるように抱え、地面に打ち付けられる。
「グエッ」
そこまで痛く無かったが反射的に声が出てしまった。
でも、何とか体力の高い僕がヒメさんの下敷きになる事に成功した。
僕はヒメさんから手を離してから声を掛ける。
「だ、大丈夫だった?」
「え、ええ……我に帰ったら空中で焦ったわ……ありがとう」
ヒメさんがそう言って僕の上から体を退ける。
「いや……飛び出る時、咄嗟にヒメさんの手を掴んじゃって。まあ……結果的に助かった。ありがとう」
僕は大の字になっていた身体を起こす。
「あ、ヘリは……!」
僕は空を見上げてヘリを探すが、建物が邪魔で視認出来ない。
「待って。端末から電話してみる」
ヒメさんがDH端末を操作し始める。
僕はその間周囲の様子を伺うが、場所の検討が付かない。ただ落下地点から考えるに発電所からは少し離れている筈で、エラーがすぐ近くにいる事は考え難い。
「あ、繋がった」
『二人とも無事か!?』
端末のスピーカーからグンセさんの声が聞こえる。
「ええ。こっちは何とか。ヘリは?」
『それなら良かった。こっちも、お陰で教育学校に無事到着したところだ』
「ああ、良かった」
『教育学校の校門前で待ち合わせよう。エラーに見つからないように気を付けろ』
「はい」
「分かったわ」
そこでヒメさんが端末の通話を終了する。
はあ、それにしても。
「「た、助かったー……」」
僕とヒメさんはその場に座り込み、安堵の声を挙げたのだった。




