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普通じゃない

 ——僕はスライム狩りを終え、厳つい男性の店へと戻って来ていた。


「こんにちは」


 流石に三度目となると慣れてきて、特に緊張もせずに厳つい男性へと挨拶をする。


「……早かったな。初めてのダンジョンで、疲れて帰ってきたか?」


「あ、いえ。リュックが一杯になったので、一度戻って来ました。買い取ってもらったらもう一度行ってきます」


「……は?」


 背中に担いでいた何かでパンパンになった、小さめのリュックをカウンターへと置くと……その重さから、木製のカウンターが軋む。


「と言う訳で、コレ買取お願いします」


「おい。この中身はなんだ?まさか——」


「全部、スライムが落とした素材です」


 僕はリュックの蓋を開けて、厳つい男性に中身を見せる。


「な、何だこりゃあああ!!!」


 厳つい男性が前のめりになり、叫びながらリュックの中を確認する。


「え…もしかして、コレって素材じゃ無いんですか」


「そうじゃねぇ!!コレはスライムの落とすスライムゼリーで間違い無え!そうじゃなくて、俺が言いてぇのはこの量だよ!!」


「えーと…途中までしか数えてませんが……多分100個位だと思います」


「100個だと!?テメェ一体何匹のスライムを狩ったんだよ!!」


「え、これって確実に落とすんじゃ……」


「馬鹿言え!スライムゼリーのドロップ率は良くて30%程度だ!!それが二時間程度の時間でそんなに倒せるわけがねぇだろうが!!」


「いや…剣で一発だったので、割と苦もなくサクサク倒せましたよ?」


「レベル1の駆け出しが、剣でスライムを一発だと!?そんなの有り得るわけがねぇだろ!!」


 僕はありのままを言ってるだけなのに、厳つい男性はそれを全て否定してくる。

 駆け出しとは言っても、僕には能力値の上乗せが有るから……一発で倒せてもおかしくは無いんじゃないだろうか?



「はぁ…良く聞け。さっきも言ったように、スライムゼリーのドロップ率は良くて30%だ。——それと、スライムには武器による物理耐性が有って、筋力がいくら高くても一発では倒せねぇんだよ。もし剣で一発で倒そうとするなら、レア武器の属性武器でも持ってねぇ限り無理だ」


「え……」


「だが——テメェは嘘を言って無い。……と言うことはだ。テメェはスライムを一発で倒す手段を持っていて、おまけに何故かは分からないがスライムゼリーが確定でドロップした」


「……」



 ——これはまずい。ドロップ率については分からないけど、属性武器と聞いて思い当たる節が有る。僕の持っている、この剣はユニークレアで聖剣だ。

 もしかしたら、聖属性などの属性がついててもおかしくは無い。



「……正直に言え。テメェは何を隠してやがる」


「い、いや!何も隠して無いです!本当にこの剣で倒しただけです!」


「……隠して無いってのは嘘だな。俺のスキルに反応があったぜ?」


(しまった——!!)


 僕の頬を冷や汗が伝う。


「おい。その剣を鑑定させろ」


「そ、それは——!!」


 更に良くない方向になってしまった!もしこの剣を鑑定されたら、これがユニークレアという事がバレてしまう。


 ——な、何かこの状況を逃れる術は……っ!そうだ!


「すいません。実は光弾で倒し——」


「——それは嘘だ。言っただろう、俺に嘘は通用しねぇ」


(こ、こうなったら逃げるしか無い!ヤの付く人たちに追われても、ユニークレアがバレて殺されるよりはマシだ!)


「おっと。逃げても無駄だぜ?この周囲には、常に俺の組の仲間が蜘蛛の巣のように網を張ってる。……諦めて隠してる事を話せ。俺は悪いようにはしねえ」


「くっ……」


 頭をフル回転させても、良い打開策は思いつかない。ならば、この厳つい男性を信用して……正直に話すしか無いのか。


「……約束して下さい。理由を聞いても、僕を殺したりはしないと」


「んな事はしねえよ。俺は気になるだけだ。約束してやる——俺は約束を守る限り、テメェに危害を与えたりはしない。男に二言はねぇ」



 ……僕には嘘を見破るスキルなんてものは無いが、虐げられてきた人生の中で、人を見る目だけは有るつもりだ。

 ——その人が、僕に危害を与える人間か、危害を与えない人間か。


 そんな僕の直感が言っている。この人は、危害を与えない人間だと。


 いいように利用されるかもしれないが、それでも命を奪われるような事は無いはずだ。それなら——。



「分かりました。あなたを信用します」


 僕は、手に持った錆びた剣を…厳つい男性に差し出す。


「……"鑑定"」



 鑑定を行った、厳つい男性の眉がピクリと動く。

 僕には……その様子を伺う事しかできなかった。



「な…」


(な?)


「なんだこりゃああああああ!!!おいおいユニークレアってなんだよ!!おまけに聖剣って!!ってかおい巷を騒がせてるユニークレアを入手した空白ってテメェだったのかよ!!いやそれよりもなんだよこの武器!!ステータスアップに剣術補正に光弾のおまけ付き!!それに聖属性武器ダァ!?こんなチート武器見たことも聞いた事もねぇぞ!!!」


「あ、あの…声が」


「ハァ…ハァ…。す、すまねぇ取り乱した……。だが、この武器ならテメェの言ってる事が納得できた。でも、ドロップ率についてはどう説明する?この剣は確かにチート武器だが、ドロップ率アップなんてもんはついてねぇぞ?」



「そ、それについては分かりません。でも……」


「でも?」


「考えられるとしたらなんですけど…」


「考えられるとしたら?」




「僕——運が、とても良いのかもしれません」




「……は?運が良い……?」


 僕の言った言葉に——厳つい男性は、気の抜けた声を出したのだった。

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