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無能の少年と初ダンジョン

「ほらよ。これがDH免許だ」


 厳つい男性が投げて来たプラスチックのカードを、僕は慌ててキャッチする。


「ダンジョンに入るだけなら、そいつを入り口のスキャナーに当てるだけで問題なく入れるぜ。だが、DHギルドを利用するのは辞めとけ。見た目は完璧だが…データベースを詳しく調べられるとボロが出ちまう——って聞いてるか?」


「へっ!?何か言いましたか!?」


 偽造とはいえ、DHカードを手に入れた事で完全に舞い上がってしまっていた。

 大事な事を言っていたようだけど、全く聞いてなかった!


「おいおい…テメェが失敗すると俺も危ねぇんだ。しっかり聞いてくれよ」


「す、すいません…」


 その後しっかりと注意点を聞いてから、僕は店を後にした。


(あ、そういえばまたあの人の名前を聞き忘れた。まあ、素材を持ち込んでからで良いか)


 そうして ——僕が訪れたのは、歌舞伎町の外れにあるダンジョン。


 厳つい男性によると、ここはあまり人気がないダンジョンのようで、入り口を管理しているDH職員もやる気がないらしい。

 基本的にカードを読み込ませるのを見ているだけで、声を掛けてくるなんて事はほとんど無いそうだ。


 僕の今の格好は——錆びた剣を片手に、胴だけ皮で出来た鎧を身につけた、明らかに稼げていない最下級DHに見える格好。


 皮の鎧は厳つい男性がバレにくいようにプレゼントしてくれたんだけど、……確かにボロボロの私服でダンジョンに潜るなんて人は居ないかも。


 でも、こういった稼げないDHの割合は多く、DH全体の一割程度は居る。

 ましてや、不人気でガラが悪い人の多い歌舞伎町のダンジョンなので、僕の格好は浮いていない。



 歌舞伎町ダンジョンの入り口となる建物に入ると、中は駅の改札のようになっていた。どうやら、DHカードを改札のところに読み込ませる事でゲートが開くようだ。


(よし、じゃあ行きますか!)


 チラリと横に目をやると、ゲートの監視をしているDH職員は欠伸をしながらボーッとしていた。

 僕のことなんて、全く意識していないようだ。


 その様子に安心しながら、ゲートの手前にある黒い枠にDHカードを押し当てるが——何故かゲートが開かない。


(えっ……何で!?)


 開かなかったことで僕の頭は真っ白になり、何度もカードを枠に押し当てる。

 それでも開かず、カードを確認すると——表と裏が逆だった。

 

(今の時代でバーコード方式かよ!そこはICチップにしようよ!)


 もしかして…このカードの偽造ってめちゃくちゃ簡単なんじゃないか?300万ってボッタクリ過ぎなんじゃ……僕は今更そう思った。


 とにかく。ついに憧れのダンジョンの中へと入る。


「これが僕のDHとしての第一歩だ!」


 初めて足を踏み入れたダンジョンの中は、芝のような短い草が生える草原。そして入り口から考えられないほどに広く、ダンジョンの中にも関わらず日が差している。


「おお…」


 その現実からかけ離れた光景にはため息しか出ない。地下に行ったはずなのに、その中は地平線が見える程の広い平原なのだ。


「誰がどんな風に作ったんだろ」


 そんな疑問を口にするが、突然世界中に現れたダンジョンの謎は未だに解明されていない。頭の良い人達が調べても分からないなら、当然僕が考えても分かるはず無い。


「"ステータス"」


------


ムノ Lv.1

才能/なし


筋力 1 +20

体力 1 +20

敏捷 1 +20

知力 1 +20


スキル/剣術(初級)、光弾


------


 ステータスの能力値で+20が付いているのは、恐らく聖剣のステータス上昇効果だろう。更に剣術(初級)や光弾とスキルまで付いていたのは大盤振る舞いだ。


 どちらも駆け出しが使うようなスキルだが、何年掛かっても覚えられなかったスキルが表示されていた事に、僕は飛び跳ねて喜んだ。


(あーでも、失敗したなぁ)


 ——と言うのも、能力値の21というのがどれくらい強いのかが、全く分からないのだ。目安として厳つい人に聞いとけばよかった。


「まあ初日だし、スライムだけ倒してよう」


 ダンジョン一階の入り口近くには、基本的にスライムしか出てこない。最弱と呼ばれる位なのだし、ステータスの上がった今なら勝てるんじゃ無いだろうか。


「えーと、スライムスライム…」


 そう言いながら草原を探すと…丸いぶよぶよした青い透明な物体を見つける。そしてその物体は、僕が近づいても動くことはなく、何かをしてくることも無い。


「攻撃しなければ無害なのかな?よし、じゃあ…一発攻撃してから全力で逃げてみよう」


 僕は、手に持った錆びた剣を両手で持ち、全力でそのまま振るう。上がった筋力のおかげか、それとも剣術スキルのおかげか——その剣筋は特に違和感も無くスライムへと届く。


 そのまま、スッと剣がスライムを通過する。


「あれっ?」


 スライムに当たったはずなのに、何の手応えも無かった。

 当たったように見えたのだけど、もしかして…外した?——と思った次の瞬間。突然スライムの体が二つに分かれ、フッと消えていく。


「えっ?」


 そして、スライムのいた場所には、小さなゼリー状の物しか無かった。


「えっ?えっ?もしかして、今ので倒したの?」


 初めてのスライム討伐は、緊張して身構えていた割に——あっさりと終わってしまった。


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