幸運少年と大企業 5
怒られた翌日、僕とグンセさんはは店の中で木製のカウンターを挟んで計画について打ち合わせをしていた。
丁度良いのでグンセさんに聖剣の鑑定をお願いした。
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□聖剣エクスキャリバー(Ⅱ)□
等級:ユニークレア(成長型)
持ち主と共に成長する聖剣。持ち主のステータスを上げる効果を持っている。所有者:ムノ
ATK +150
装備条件 / なし
装備特性 /
聖属性、全ステータス向上lv4、剣術補正(中)、光弾、
セイバーレイ、収納、魔封(小)
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全ステータス向上と、剣術補正は予想通りだった。それでも段階毎に全ステータス+20の伸びは異常だ。
ステータスと剣術補正が伸びた事によって、僕が体感したように、見える世界が変わる程の変化が有る。
そして新規スキルと魔法が三つも追加された。
セイバーレイは掌から光線を放つ魔法で、横に切るように放てば弱い敵なら一掃する事も可能。焼き払え!が小規模で出来る。
収納は聖剣を念じただけで収納、出現させる事ができるスキル。どこに収納されてるかは不明なのだが、これを改良出来ればアイテムボックスも可能なのでは。
魔封(小)は魔法や魔素を打ち消す効果を持つ。(小)なためか魔法を完全に打ち消す程の効果は無いが、魔法が弱まってる事は分かる程度。攻撃魔法を防御すれば弱体、防御魔法に攻撃すれば貫通効果。
「テレビのショッピング番組じゃないけど、これ一本で簡単にシルバーランクDHデビューですね」
「流石にこれはやり過ぎだろ……」
「これについては僕に言われても」
「そりゃそうなんだけどよ……」
グンセさんはもうお手上げとでも言うかのように両手を上に振り上げた。
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「さて……計画の方に話を戻しましょう。取り敢えずシャドウウルフの皮は集まりました」
「……明らかにやり過ぎだったけどな」
1日経ったというのに、グンセさんは皮に押しつぶされた事をまだ根に持っている。その証拠に彼はまだ不貞腐れたような顔のままだ。
「まあまあ。結果集まったんだから良かったじゃないですか。で、グンセさんの方はどうです?」
「はあ……皮の件は既に手配済みだ。それとムノが古い箱から出したレジェンドレアを売って、資金もまだ充分とは言い切れねえがじきに集まるだろう」
僕達の計画は今日までは順調に進んでいた。
「なら次は……」
「武器の弾数の準備なんだが……」
武器の数を揃える事は、計画を進める上でどうしても必要となる。シャドウウルフの皮によって防具の数は充分となったが、武器はそうは行かない。
元々DHが扱う武器の種類は多い。剣、槍、斧、杖といった物から、弓、銃、槌など、人によって違う才能やスキルによって使い分ける。中には鞭やブーメランなんて物を扱うDHまで存在している。
剣でさえ短剣、長剣、両手剣と種類が分かれている。だが、それら全てを充分に集めなければ、計画が破綻してしまう可能性が有る。
僕達の最初の計画では、古い箱を開けてレア、スーパーレアの武器を準備するつもりだった——だが。
「はあ……これじゃどうにもならん」
僕達の目の前には素材の山。これらは全て古い箱から出た物だ。
——本来の作戦としてはこうだった。
まず僕が最下級や下級の箱を開け、中級や上級へとランクアップする。
そして、そのまま僕が開けてしまうと伝説級以上が出てしまう恐れがあったので、中級や上級の箱をグンセさんに開けてもらい、武器や防具を確保するつもりだった。
だが結果としてグンセさんが開けた古い箱からは素材ばかり出て、武器や防具、アクセサリーと言った装備品がほとんど出なかった。
その結果がこの素材の山だ。
「グンセさん……」
僕は目を細めてグンセさんを見る。
「す、すまねえ……け、けどな!これが普通なんだからな!!装備品しかでねえムノがおかしいんだよ!!」
グンセさんはそう必死に訴えるが、運がもう少し良ければ計画は上手くいく筈だった。
「はあ……武器をそのまま落とす魔物とかは居ないんですか?」
「居るには居るんだが、計画に合う等級なのが長剣と槍だけなんだよな……」
「それだけだと、難しいですよね?」
「人気のある二種類の武器では有るが……他の武器の在庫を大量に確保していた場合に逃げ道にされかねねえな。だが、マジックやレア武器を作れるのは腕の良い武器職人だけで、更には防具のように素材が有れば作れる物でもねえ」
「……なら、僕が箱を開けてもう少し資金を貯めますか。ドロップ武器も出来るだけ集める形で」
「そうするしか無いな」
残る日数、この問題を解決するだけの画期的なアイデアは浮かぶことは無く、僕は魔物が落とす武器を可能な限り集め、グンセさんは資金繰りと武器集めに奔走した。
僕達は、出来ることは全てやり切った。
——そして僕達は僅かに不安を残したまま、遂にJHW崩壊計画実行の日を迎える。
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グンセさんの店の中から外へと出ると、眩しい太陽の光が僕を照らした。雲一つ無い快晴とはいかなかったが気持ちの良い晴れた空。
僕はその空を見上げる。
「ヒメさん……」
ここには居ない彼女の名前をそっと——静かに呟いた。




