聖剣
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『「 」さんがユニークレアの"聖剣エクスキャリバー"を入手しました。』
その通知は、世界中のダンジョンハンター(DH)なら、誰もが持っているDH端末全てにメールとして届けられた。
今までも、端末に通知がメールで届く事はあった。それはダンジョンが完全攻略された際に、パーティーの名前と攻略されたダンジョン名が通知されるというもの。
だが、今回は色々と違う。
まず、レア取得で通知が来る事自体が初めての出来事だ。
今までレジェンドレアを入手した際にも、このような通知が来る事は無かった。となれば、それだけレア等級が高く性能が良いということが予想出来る。
そして、もう一つは名前の欄が空白という事。
DHとして登録されていれば、初心者だろうがデータベースに登録することとなる。名前やパーティー名は、そのデータベースを参照にされて通知されている事は、既に検証済みだ。
そして、名前が空白という事。それは、データベースに登録されていない"誰か"が、現状の最高レアであるレジェンドレアを超えた、ユニークレアの聖剣エクスキャリバーを入手したという事。
そして、突如送られたこのメッセージにより——DH協会は大きく混乱する事となる。
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——日本DH協会の東京本部。メッセージから数時間後、ここでは10名の役員達による会議が開かれていた。
「例の通知について何か分かった者はいるか」
上座に座った男性が役員達に声を掛けるが、誰も答えようとはしない。
「…であれば、ユニークレアについて推測出来る情報は有るか」
その質問に一人の眼鏡を掛けた男性が挙手をし、その口を開く。
「ユニークレアはゲームでは最高となるレア等級に分別される事が多く、他の等級とは性能面では比べ物になりません。基礎性能だけでは無く専用のスキルが付与されているケースも多いです」
「……という事は、今回のユニークレアはレジェンドレアよりも上のレア等級で、レジェンドレアとは比べ物にならない性能を持っている可能性が有ると?」
「レジェンドレアで通知が来ていない事を考えれば、ほぼ間違いなくレジェンドレアよりも上位のレア等級と思われます」
「その点に関しては、皆同様の意見か?」
その言葉に役員達はそれぞれ頷く。
「であれば、早急に入手した者を探さなければならない。他の国よりも先にユニークレアを確保しなければ、今までのパワーバランスが崩れて我が国が脅かされる可能性がある」
「ですが、我が国にいる確証も無いのでは?」
「いや、通知の届いた時間のズレを調査した結果、日本の何処かにいる事は間違いないそうだ。いいか、他の事は捨て置け!日本DH協会の持てる力全てでユニークレアを確保しろ!!」
「「「「はっ!!」」」」
慌ただしく部屋を退出していく役員達。
——部屋に残った男性は、一人呟く。
「……私にも運が回って来た。今まで強国のアメリカに媚び諂っていたが、ユニークレアを入手出来れば日本が最上位に立ったも同然。そうすれば……全てが私の思うがままになる。ハッハッハッ…」
——日本DHギルドの東京本部の一室。そこで、男性の低い笑い声だけが部屋の中に響いていた。
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※ムノ視点※
「……何だこの剣?」
輝く箱を開けた僕の手には長剣が握られていた。
「ゴッドレアなんだろうけど、想像してたよりも地味だな。それに錆びてるし…」
握られた長剣は刀身が錆びついていて、とても切れ味が良いようには見えない。けれど、不思議と手に馴染むような感覚を覚える。
「取り敢えず、"鑑定"」
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□聖剣エクスキャリバー( I )□
等級:ユニークレア(成長型)
持ち主と共に成長する聖剣。持ち主のステータスを上げる効果を持っている。所有者:ムノ
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「えっ?ユニークレアって何?」
何度鑑定をし直しても、表示は変わらない。ユニークレアで間違い無いようだ。
(えーと、確か古い箱からはゴッドレア以上が出るって表示されてたから……もしかしてゴッドレアの上!?)
何度考えても、ユニークレアの等級についてはそれしか思いつかない。ゴッドレアでもどれだけの値段になるかが分からないのに、更にその上のレア等級……?
「こ、これは不味いかもしれない。これを売りに出したら殺されて奪われるんじゃ……」
比較的日本が安全とは言え、数千万を超える物があると分かれば人を殺してでも奪い取る連中はいる。最近のニュースでもDHを殺してアイテムや装備を奪ったDHが逮捕されていた。
それに、DH協会自体も黒い噂はある。ある日、レジェンドレアをオークションに掛けた人が殺され、そのレジェンドレアが行方不明となった事件があった。——その出品者の情報は、DH協会しか知らないはずなのに。
巷ではDH協会が奪ったのでは無いかと噂されている。
(ましてや僕は身分も無いような孤児で、おまけに無能だ。DH協会が僕一人消すのなんて簡単な事だろう)
先程まで死ぬか迷っていたというのに、ユニークレアを入手したからか命がとても惜しい。そしてユニークレアを誰かに奪われるなんて、絶対に嫌だ。
「だったら、僕がこの剣を使おう…」
これだけレア等級の高い武器だ。僕のような無能が使っても、その性能だけで弱い魔物なら倒せるかもしれない。防御面が不安だけど、そこは努力と経験でカバーしていくしか無い。
(——死なずに、この剣を使って生きて行こう)
僕は、右手の錆びた剣を握りしめて、深く心に誓うのだった。