孤児院 3
マキナさんに翌日また来る事を伝え、僕はグンセさんの店へと戻ってきていた。
「——何だと?栗生組の奴らとやり合った?」
いつになく真剣な表情をしたグンセさんが、僕から詳細を問い詰める。
「……栗生組の頭は執念深さが半端じゃねえ。それに下っ端が組の名前を出した以上、ヤクザには面子ってもんがある。絶対にケジメを取らせに来るぞ」
グンセさんの焦った様子に、僕は行動の浅はかさを悔やむ。
僕の行動は、力を見せびらかしたかっただけ?それじゃ、僕を虐げてきた奴等と何も変わらないじゃないんじゃないのか?
——けれど、それを今更後悔しても遅い。
「……すみません。でも、グンセさんには迷惑を掛けません。明日……自分で責任を取ってきます」
「俺が動けは組同士の抗争に発展しちまう。だから俺は動けねえ。……薄情に思うかもしれねぇが、自分で撒いた種だ。テメェ自身で何とかしろ」
グンセさんは悔しがるように奥歯をギリっと噛み締める。
「……はい」
二階へと登り、ベッドに身を投げ出す。
そして、頭の後ろに手を当てながら思考する。
僕の強さは良くてスチールランクDH程度。そんな僕が組全体と戦えるのだろうか?
いや、多分——無理だろう。
最近ではどこの組も積極的にDHを勧誘していたり、組員をDHとして育成したりしている。栗生組もアイアンやスチールランク程度なら当然囲っているだろうし、もし同時に戦うことになれば僕に勝ち目はない。
けれど、このまま逃げたらマキナさんに迷惑がかかる。
——それだけは避けないといけない。
僕は、明日への不安を拭いきれないまま眠りにつく。
ーーーーーー
——翌日の朝9時頃。僕は孤児院を訪れていた。
孤児院の広くは無い庭、周辺の道路には明らかに堅気では無い人達が集まっている。
そして僕の姿を見るや否や、まるで逃げ場を無くすかのように取り囲み、僕が歩くと背後からついて来る。
僕を無能と罵る者、死ねと罵倒する者、己の武器を道路や地面に
叩きつけて威嚇する者。
僕はそれらを無視して、孤児院の敷地内へと入っていく。
敷地内に入ると庭があるのだが、その庭には何かを叩きつけられ壊された遊具、ボロボロに切り刻まれたぬいぐるみ、孤児院の中にあったはずの机や椅子が真っ二つになったものが散乱している。
——そして庭の中央には。
見るからに高そうな紺のスーツを着た長髪の男と、その隣にはナックルをつけたガタイの良い大男。
更にその周囲を数十の構成員が守るように囲っている。
長髪の男は拳銃の引き金部分に指を入れくるくると回しながら、ガタイの良い男は腕を組み仁王立ちをしながら、僕の事を鋭い目で見据える。
僕を見つけた、長髪の男が話し始める。
「君、偉いねぇ。ちゃんとあの女との約束を守って来るなんてさ。来たら死ぬのが分かって無い、ただの馬鹿かもしれないけどねぇ」
「……」
「理解出来ないかもしれないけど、ヤクザにはメンツってもんがあってねぇ。君のようなガキに良いようにやられた噂が立つと、お金の回収に支障が出ておまんまが食べられなくなるんだよねぇ」
そこで——男は拳銃をくるくる回すのを止める。
「……マキナさんは?」
「一応、まだ無事だよ?」
長髪の男が自身の後ろに顔を向ける。
そこには——後ろ手に縛られ、猿轡をされたマキナさんの姿。抵抗したのか服装に多少の乱れはあるが、怪我はなさそうに見える。
僕は、その事にホッと胸を撫で下ろす。
「まず……今回は本当にすみませんでした」
僕は頭を砂の地面につけてその場に土下座する。
謝っただけで済むのならそれで良い。
殴りたければ殴れば良い——どうせ殴られるのには慣れてる。
「……ふーん。この状況で足掻くほど馬鹿では無いって事か。でも、それじゃあ、足りないんだよ、ねぇ!!」
長髪の男の蹴りが、土下座している僕の脇腹に直撃する。
「かハッ……」
蹴られた衝撃で、僕の肺から空気が漏れる。
「ま、謝ったし君は半殺しで許そうかな。でもこの孤児院とこの女はダメ。元はと言えば、この女が唆したみたいだしねぇ?」
「なっ……!」
僕は思わず顔を上げる。
「顔はまぁまぁだったし、どこかに売ろうかねぇ」
長髪の男はげ下卑た笑いを浮かべ、マキナさんを見つめる。
——そこで僕はフラフラと立ち上がる。
このままじゃダメだとそう思った。
「ん?まだ立っていいなんて、言ってないんだけどねぇ?」
「……」
僕はそのまま長髪の男を睨みつける。
「ねぇ、何その顔?このまま、許そうと思ったんだけどねぇ……」
長髪の男は明らかに不機嫌な顔をして僕を睨みつける。
この状況が怖くない訳がない。
聖剣を持ったとしても、僕の根本は弱い無能のままで今まで人との戦いなんてした事が無い。
——でも。
「彼女を……離せ」
マジックバックから聖剣を取り出し、両手で構える。
長髪の男はぼくの行動を見て額に青筋を浮かべる。
「はあ。やっぱり、コイツただの馬鹿だわ。馬鹿なら死んだ方がいい——おい。てめぇら、コイツを殺せ」
長髪の男が僕を指差し、指示を出す。
それとほぼ同時に、構成員達は一斉に襲いかかって来る。
僕はそれに身構え、聖剣を持つ手を強く握りしめた。




