孤児院 1
翌日、グンセさんに古い箱産の装備を鑑定して貰った。
スーパーレアのミスリル装備以外は、どれも破格の性能らしいが……ユニークレアが初装備の僕にはよく分からない。
——ただ、有用な装備が何個か有った。
まず、隠蔽の指輪(LR)——これは、ステータスや装備を他人から鑑定されるのを防ぐというもの。
もしこの隠蔽の指輪を突破して鑑定するには、装備自体レアリティである伝説級を超えた、神級以上の鑑定スキルが必要となるが——そこまでの鑑定スキルが使える、という人はグンセさんでも聞いた事がないらしい。
僕のようなステータスバレが怖い人に、贈ると喜ばれる一品。
身代わりの指輪(LR)——致命傷をこの指輪が肩代わりする。効果を発揮しても壊れるわけではなく、時間が経つ事で再使用可能。
装甲が紙な僕には、まさに救世主のような装備。いつか、両手の指に10個嵌めれば、不死身プレイが出来るかもしれない?
全能の神環(GR)——全ステータス+10。僕はまた一つ強くなってしまった。
ヘル服(GR)と奈落のマント(LR)——黒く、地味な装備だが、高い防御力に加え…属性耐性、状態異常耐性(小)まで付いている。
服は一見ゴッドレアとわからない程で、ダンジョンに行かない時でも普段着にしている。汚れにも匂いにも強く、洗濯要らずの優れものだが、グンセさんにはちゃんと洗えと言われた。
ミョルニル(GR)——ATK +300で雷属性付きの高性能武器だが、必要筋力が80いるという玄人装備。恐らく僕が装備することは——一生無いだろう。
持ってみたら重すぎて持ち上げる事も出来なかった。現状では使い道も無く、漬物石にも使えないが……グンセさんが欲しいそうでプレゼントした。
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ムノ Lv.8
才能/なし
筋力 1 +30
体力 1 +30
敏捷 1 +30
知力 1 +30
スキル/剣術(初級)、光弾、属性耐性(中)、状態異常耐性(中)
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新たに分かった事は、どうやら耐性等のスキルは小二つで中へとランクアップするようだ。
今のステータスである30なら、スチールランクのDHと同等って所だろうか?
それと、才能無しはレベルが上がりにくい、というデメリットも有るようで……スライム3万狩って、この数週間で他も色々倒しててレベル8。——どうせレベルが上がっても、ステータス何一つ増えないんだけどさ。悲しきかな。
「これだけレアを装備してても、スチールランク並って……」
「16でスチールランクなんて、聞いたことはねぇけどな。精々DH免許取ってブロンズランクが良いとこだろ」
「うーん。友達居ないんで分かりませんね」
「悲しい事サラッと言うんじゃねえよ…こっちが気を使うわ」
「大丈夫ですよ。言った後に、僕の心に深く突き刺さりましたから」
「完全な自滅じゃねぇかよ。オレを巻き込むんじゃねぇよ……」
グンセさんは慰めるように、僕の肩をポンポンと叩く。
「……そうだムノ。金に余裕が出来てから数週間経ったが、何かしたい事は見つけたか?」
「……僕、ガチャがしたいです」
「流石に限度が有るだろ。ワールドエンドのせいで、DHギルドの掲示板が更に荒れまくってるぞ。中には世界の終わりだ!なんて自暴自棄になって、金を全部使い込んだ輩までいる。……それが収まるまで、1か月位は置いたらどうだ?」
「うーん。他には何かしたい事、あるかな……割と、今の生活に満足してるっていうか」
「まあ、今までの生活を考えりゃ分からないでもねぇが……テメェはまだ16だぞ?やりてぇ事をやれ」
「——それなら……寄付かな」
「いやいや。なんで急にそこまでぶっ飛ぶんだよ……寄付なんて。——いや、ああ。そういう事か」
「孤児院にお世話になった人が居るので、寄付のついでに顔を出してみようかなと。その人以外は、絶対に会いたくないんですが……」
「会いたくねぇなら、渡してきてやっても良いぞ?」
「——いや、自分で行ってみます」
「……そうか。なら金一封、封筒に入れて準備してやる。その孤児院の名前は何だ?」
「それは——」
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——三鷹にある、公園の近くの築30年程の建物。その建物は、外壁だけは新しくされているが、他の部分からはやはり年季を感じる。
ここは、僕が物心ついた頃から生活していた場所——聖ラリンス教孤児院。この孤児院はその名の通り、ラリンス教の日本支部が運営していて、孤児の数は30名ほど。そして成人するか、自立するまでを条件に保護を行っている。
そして——孤児はそのまま、ラリンス教徒となることが多い。
ラリンス教は、アメリカに本部を置き、ダンジョン発生後の才能による差別を問題視したことから始まった。そして人類皆平等を掲げて活動し始め、その結果……瞬く間に世界中へと広まっていったそうだ。
——そして僕は、その人類皆平等と掲げていた、ラリンス教が運営している孤児院で虐げられていた。
差別を問題視?人類皆平等?……笑わせるなよ?
ラリンス教徒の職員であろうが、裏では僕を無能と嗤っていたのを知っている。それをしなかったのは……マキナさんだけだったんだ。
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そして、僕は孤児院の入り口にある門で立ち尽くしていた。
「はぁ…やっぱり入るのやめようかな。ここを出てからもう2年近くになるし、マキナさんもまだ残ってるか分からない。よし、やっぱり——」
僕は門の前で怖気付き、やはり立ち去ろうと思った——その時。
「ムノ君?」
後ろから不意に声をかけられ……振り返ると、そこには。
「マキナさん……」
修道服を着た茶髪の優しい表情をした女性——マキナさんが立っていた。
「やっぱりムノ君だ。久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりです。良かった、まだここに居たんですね」
「ええ。あなたを待ってたの——なんてね。教会の指示だから、まだ移動してなかっただけ」
マキナさんはそう言いながら優しい表情で笑う。
「はは……お元気そうで何よりです」
「ムノ君も。二年前に比べて少し背も伸びたし、筋肉も付いたかな?」
「ええ、まだDHになるのを諦められなくって」
「退学の件……聞いたよ。全く、DH教育学校には呆れるわ。でも、思ったよりも随分と健康そうね?……良い仕事でも見つかった?」
「あー……詳しくは言えないんですが、お世話になってる人が良くしてくれていまして。そのお陰で何とか食べていけてます」
実際はダンジョン潜ってスライムを乱獲してたんだけど。
「それは良かったわ。それと、ムノ君と同世代の子はみんな外へ出ていってしまったわね。でも、その中にはあまり良くない仕事をしてる子も居て……」
マキナさんは表情を暗くし、少し俯く。
「良くない仕事って何です?」
「どうやらヤクザの下っ端になって、使いパシリをやらされてる子が居るみたいなの」
「あはは……」
それなら僕も似たようなものかもしれない。表面上は笑ってはいるが正直笑えない。
「あ、そうだ。孤児院ではマキナさんにお世話になったので、今日はこれを渡しに来たんですよ」
そう言うと僕はマキナさんへと封筒を差し出す。
マキナさんは少し不思議に思ったようだが、封筒をすぐに受け取る。
「あら、ありがとう。何かしら?」
「ちょっと恥ずかしいので戻ったら開けて下さい。……それじゃ、僕はこれで帰ります」
「あ……ちょ、ちょっと待って!」
マキナさんがとても焦ったように僕の服の袖を掴む。
「え?どうしました?」
「ムノ君。——ひとつお願いが有るの」
マキナさんはそのまま僕に顔を近づける。
その顔が近すぎて、僕は戸惑ってしまう。
「な、何でしょう。僕に出来ることなら構いませんが……」
マキナさんが僕から離れ、その事に安堵する。
そしてマキナさんは真面目な顔を僕に向ける。
「ムノ君、お願い。孤児院を守って欲しいの」
「孤児院を?……どういう事ですか?詳しく聞かせて下さい」
——この時は、完全にマキナさんの力になる事しか考えておらず、僕に頼むという違和感に気付かなかった。




