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閑話 『吸血姫と五人の王子』①




「このシーツを洗って、次は廊下の掃除して――ああ、もう! 天界に行く準備もしなくちゃいけないのに!」



 なんで私――トゥアエがこんな事しなくちゃいけないのよ……


 これも全部、あのクソ主人とクソ吸血鬼のせい。

 私は、天界に紛れ込んだ吸血鬼を狩ろうとしただけなのに……なんでメイドになってんのよ!

 吸血鬼、吸血鬼よ⁉︎ 見付けたら即討伐が基本でしょ⁉︎ 眷属が増えたら面倒なのよ⁉︎


 くぅ……あの時、私の杭さえ刺さっていれば! 一瞬で灰にできていたはずなのに……今では逆らう事もできないなんて――



「おや、トゥアエ。こんな所で何をしているのですか? 天界へ向かうはずでは?」


「……ウーナ」


「もしや、私の舞を見に来たのですか? 天界へ向かう前に、安全を祈願して欲しい……そういう事でございますね?」


「そんな訳な――ああ⁉︎ 脱がなくていいから!……あんた段々クソ主人に似てきたわね?」


「なんと。私の舞が……我が主人に似ている?」


「ま、舞の事じゃ無いわよ⁉︎」


「ふふっ、照れ隠しにございます」


「クソ主人に似てるって言われて嬉しいわけ⁉︎ あんた……影響され過ぎよ!」


「ふむ、トゥアエ? 私達はもう、天使ではございません」


「はぁ? ……だからなに?」


「変われるのですよ。変わっても良いのです」


「……だからってクソ主人に似なくてもいいじゃない。あんたまで暴走し出したら手に負えないわよ」


「我が主人が一番、私と距離が近いので……自然と似てしまうのですね」


「勘弁して……取り敢えず、服を着なさい! 舞はいいから!」


「む、仕方ありませんね。楽しみはとっておくタイプでございますか?」


「もうそういう事でいいから! ってか舞ってる暇があるなら手伝いなさいよ⁉︎」



 こっちはクソ吸血鬼に扱き使われてるってのに、なんでウーナは何もしてないの⁉︎

 私の記憶が正しければ、ウーナはメイド長……一番忙しい人物のはずでしょ⁉︎


 いや、空いた客室から出て来た所を考えると……掃除をしてたのかもしれないわね?

 ウーナは真面目だから、誰に言われるまでもなく率先して動いてたって訳……あんたそれでいいの⁉︎ かつての高位天使がメイドよ⁉︎ メイド!



「洗濯にございますね? 私にお任せくださいませ……【人形劇】」


「はぁ……いいわね、便利な能力で」


「ふふ、私の【人形劇】にかかれば……シーツだって一人で歩きます」


「いや能力の無駄遣いよ? もっと聖力を大事にしなさい」


「聖力が無くなれば、また我が主人から補充していただけば良いのです。私達は無限の聖力を持っているも同義でございますよ?」


「そ、そうかもしれないけど! ……聖力が無い時に襲撃でもされたらどうするのよ」


「襲撃……でございますか? ふふ、トゥアエったら。私達が誰に襲撃されると言うのです?」


「そんなの決まってるじゃない! クソ吸血鬼よ!」


「……カリン様が? 襲撃される理由がありませんが……」


「そんなの私にだって無いわよ⁉︎ けど襲われるんだもの……対抗するには聖力が無くっちゃ――」



「トゥアエーっ! トゥアエどこーっ⁉︎」


「っ!」


「……呼ばれておりますが?」


「あ、あいつ……まだ酔ってるの⁉︎」


「“また”酔っている、という可能性もございますね。返事をしなくてよろしいので?」


「私はメイドの仕事中なのよ? 洗濯も掃除も終わってないの」


「ふむ、ではこのウーナがひと肌脱ぎましょう」


「え? い、いいわよ……私が頼まれた仕事なんだし――って脱ぐな! また舞うつもり⁉︎」


「いえ、脱いだ方が作業効率が上昇するのでございます」


「あんた……メイド服着てる意味あるの? 何かする時ずっと脱いでるじゃない!」



「ぐすっ……トゥアエ、どこぉ?」


「うぐっ……な、泣いてるし」


「さぁ、行ってください。私達メイドは主人に仕えるのが仕事、主人の望みを叶える義務があります……あなたの主人は誰ですか?」


「いや、クソ主人――フィオドールだけど?」


「そうですね。では、行ってください」


「……はっ⁉︎ 今のやり取りなによ⁉︎ どういう意図があったの⁉︎」



 主人の望みを叶えるのが義務……フィオドールの望みってなによ? それと今の状況に何の関係があるの?

 ダメね……こういう頭を使う系は苦手なの。もっと簡潔に伝えて貰えないかしら?

 『あの敵を討てー』とか『吸血鬼を灰にしろー』って感じで――



「トーゥーアーエー!」


「ああ! もう、ここよ! ここに居るわよク――吸血鬼!」


「っ! ……トゥアエいた!」


「ふふ、それでは……私は仕事に戻らせていただきますね」


「はぁ……なんで私ばっかり」


「トゥアエ! わたくしの為に絵本を読むのよ⁉︎ 早く部屋に来て頂戴!」


「え、絵本? あんた絵本なんて持ってんの⁉︎」


「フィオに描いて貰ったのよ! 吸血鬼のお姫様が、天使と結ばれるお話なの!」


「……あんた達の馴れ初めじゃない! なんでそんなの読まなきゃいけないのよ⁉︎」


「読ーむーのー!」


「わ、分かったから! 引っ張らないで⁉︎ うぐっ……な、なんでこんなに力が強いのよ⁉︎」


「読む!」


「分かったって言ってるでしょ⁉︎ はぁ……読んだらさっさと寝るのよ? いい加減酔いを覚ましなさい」


「……読むの!」


「あ、あんた寝る気無いわね⁉︎ ダメよ! そんな悪い子には、絵本なんて読んであげないんだから!」


「あぁ⁉︎ 寝る! 寝るから! わたくしが寝るまで絵本を読むのだわ⁉︎」


「……それでいいのよ」



 こういう素直な所は可愛いんだけど――いや、何を考えてるの私! このクソ吸血鬼はいつか討つのよ! 愛着なんて持っちゃダメよ!

 ……まぁ、それも今じゃ無いわね。『誓約』で逆らえないし、何より勝てないもの……まだ大人しくメイドするしか無いのよ。


 仕方なく、仕方なくよ? 一緒に寝転がって絵本を読むのも仕方なく――

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