水精霊は焦る
『次でラスト』と言っておきながら、長くなってしまったので二分割しました。
申し訳ございません……
「シクティス、早く話をまとめましょう。フィオが新しいベッドを作ったらしいわ?」
「ん……すごく興味が無い」
「なぜかしら? 貴女も使う事になるベッドよ?」
「い、いや……私は大丈夫だから……」
「そう。外でする時は周囲の目に気を配りなさい? フィオとしている所を見られたら――」
「んん! 大丈夫と言った! ……は、早く話す」
早く話をまとめたいのは、私――シクティスも同じ。
エイリーン様には『急用でしばらく席を外す』と、伝えてあるけど……あまり長くここに居たら、不審に思われてしまうかもしれない。
《念話》は通じるけど、天界に私の姿が無いと知れたら――うん、早く戻ろう。エイリーン様は怒らせると怖いから……
「まぁいいわ? キリリスもそわそわしてるし、ここは不問にしてあげる」
「ん……キリリス様?」
チリン、チリン――
「ふふ……新しい寝具……わちきの初めて――」
「キリリス? 自分の仕事を忘れてはダメよ?」
「おや、カリン嬢。わちきの仕事とは……シクティス嬢を斬る時が来んしたか?」
「んん⁉︎」
「それはまだね? けど、もう一つの仕事があるはずだわ?」
「もう一つ……ああ、安心しておくんなし? ちゃんと視ておりんす」
「そう? ならいいのよ。逐一伝えて頂戴ね?」
「カ、カリン? ……私は味方……『誓約』もした」
「ええ、分かってるわ? だから斬らないのよ?」
で、でも……さっきは“まだ”と言っていた。私を斬る予定がある様にしか聞こえない……
いや、私に物理攻撃は効かないのだけど……キリリス様の刀というのが怖い。七階位が普通の武具を持つはずが無いし、何よりキリリス様の武勇はこの天界に轟いている。
曰く、万を超える魔族を一人で退けた……とか、大魔王を一刀の元に斬り伏せた……とか。
そんなキリリス様なら、水精霊の体が斬れてもおかしくない。
「ふふ……」
「私はもう、協力すると決めた……やるからには最善を尽くす」
「……いいわ? 話を続けましょう。『フィオの今後について』ね」
「ん……」
「いつもなら、わたくし一人で考えるのだけど……今回はシクティスの知恵も借りるわ?」
「任せる……計画の立案は得意」
「助かるわ? じゃぁ早速なのだけど、フィオを干渉局から移動させる方法を考えてくれるかしら?」
「ん――んっ⁉︎ も、もう移動させるの?」
「ええ、わたくしも早過ぎると思うわ? でも、フェリスとの接触はできるだけ避けたいのよ」
「そ、そう……」
「これはわたくしのミスよ……フェリスが異世界に介入できるとは思わなかったもの」
「ん……私も驚いた」
「今回も『総括官』さんに頼れたら楽なのだけど?」
「む、難しい……」
フィオドールを干渉局に復帰させる時、かなり無茶な通し方をしたから。エイリーン様に不信感を抱かれているかもしれない。
彼が干渉局で活躍したのなら、また話は変わって来るのだけど……聞いた限りでは、美味しい所はフェリスに持って行かれている。
栄転、という訳にもいかないし……臨時の助っ人だった事にする?
幸い、彼は万能性が高い。問題の発生した部署に、その都度派遣される仕組みを採用すれば……『特派』になってしまう。
既にその仕組みは部署として確立されている。なら、なんで最初から『特派』に入れなかったのか問い詰められてしまう。
「『特派』……いいんじゃないかしら?」
「ま、待つ。移動する理由が弱い」
「理由? 『フィオの能力を活かせる部署を探しているから』じゃダメなのかしら?」
「彼は『特派』に居た経歴がある……」
「それは干渉局も同じじゃない。『来た道をなぞっている』とでも言えばいいんだわ?」
「うっ……んん」
チリン――
「ふふ……わちきは賛成でありんす。フィオ坊と同じ部署……」
「キリリスもこう言ってるわ? ここで反対したら……わたくしは止めないわよ?」
「一刀両断でありんすえ?」
「んん⁉︎ ぶ、武力に訴えるのは良くない……話せば分かる」
「なら、フィオを『特派』に入れて頂戴? 賢明なシクティスにならできるでしょう?」
「カリン……『総括官』は私だけじゃない」
「エイリーン嬢も斬りんしょう」
「エイリーン……エイリーンね? 彼女をどうにかしたら、フィオは『特派』に入れるのかしら?」
「ん……他に問題は無い」
「……そう。ちょっと待っててくれるかしら? 今呼んで来るわ?」
「ん⁉︎」
“呼んで来る”って……エイリーン様が『経験の園』へ来てるの⁉︎ き、聞いてない……
エイリーン様まで来てしまったら、誰が『総括官』の仕事をしているの? いや、ここでお茶を飲んでいる私が言える事では無いか……
カリンが行ってしまって、キリリス様と二人きり――じゃなかった。この場にはもう一人、気配を消して佇んでいるメイドが居る。
「ウーナ……元気?」
「はい、ウーナは元気一杯でございますよ。シクティスは……ちゃんと寝ていますか? 沢山食べて、良く寝ないと大きくなりませんよ?」
「んん! 天使は成長しない!」
「そうでした……ごめんなさい。私は天使ではございませんから、最近胸がきつくて――」
「ん⁉︎ ウ、ウーナ……まだ大きくなるの?」
「え? ……はい。あまり運動もできませんので、肥えてしまわないか心配です」
「そ、そう……気を付けて」
「それに、運動と言っても……舞か、我が主人との性行為くらいで――」
「聞いてない! い、言わなくていい!」
「では……わちきが聞きんしょう」
「あぁ、キリリス様。このウーナ……キリリス様が味方についたと聞いて、『これは舞わねば』と思っていた所でございます」
「ふふ……カリン嬢から話は聞いておりんす。わちきの記憶からも綺麗さっぱり……」
「左様でございましたか……キリリス様も覚えていらっしゃらないのですね」
「まさかフェリスがあんな凶行に及ぶとは……わちきも予想外でありんした」
「……他の子達を救えなかったのが、唯一の心残りでございます」
「ふふ……慎重でありんすね?」
「っ……やはりその目は――」
「そこまでよ。キリリス……何を勝手に動いているのかしら?」
カリンが戻って来た……せっかくうち解けてくれたウーナも、素早く元の位置に戻ってしまっている。
さっきの話……もう少し続きが聞きたかった。あの後ウーナは何て言おうとしたのだろう? “その目”……キリリス様の目?
カリンに、何か隠し事をしてないか聞いた方がいいかもしれない。情報を秘匿されては、いざという時に後手に回ってしまう。
「カリン、何か隠し事を――ん?」
「束縛系色魔――エイリーンを連れて来たわ? 見ての通り、今は自分が束縛されているけど」
「んん〜‼︎ ん⁉︎ んんんん⁉︎」
「カ、カリン? なぜエイリーン様が簀巻きに……」
「当然の報いよ? フィオを勝手に連れ出そうとしたんだもの」
「ふふ……またでありんすか?」
「んんんん……んん⁉︎ ん〜⁉︎」
「煩いわね? まともに話す事もできないのかしら?」
「せ、せめて口枷を取って欲しい……話にならない」
「……いいわ? キリリス、口枷だけ斬れるかしら?」
「ふふ……もう斬りんした」
「ひっ⁉︎ な、なんで……なんでキリリス様……それにシクティスも⁉︎」
ここで素直に答えるわけにはいかない。エイリーン様が敵か味方か……私には分からないから。
カリンはどうするつもり? ここに連れて来て……何か考えがあるのは間違い無いんだろうけど、私にも伝えてくれないと合わせ難い。
……信頼されて無い? 私がまだ本契約をしてないから? ……い、急がなくちゃ。このままじゃ彼の役に立てず終わってしまう。




