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経験の理想




「フィオ様……こ、これはどういう事なんでしょう? は、はは裸で介入なんて――」



《ご指名だぞ、ご主人様。責任を取れ》


《いざとなったら、またワシらが助け出してやるのじゃ。安心して散るが良いぞ》


《フィ、フィオ先輩……隠して、隠してください! 私がエイリーン様に見つかったら……あうぅ》



 私ですか……本当に私ですか? 相手はあのエイリーンさんですよ?

 ここで私が長期間の監禁でもされてしまったら、計画に支障が出る事間違いなしですよ?

 『【重鎖】乱心』を思い出してください。あの惨劇を繰り返すおつもりですか? ああ、エイリーンさんの鎖が怖い……献身的な介抱が怖いです。



《あの時一番手こずったのは、渋るご主人様を連れ戻す事だ。まったく……胸が大きければ誰でも良いのか》


《くくっ、やっとの思いで【重鎖】を突破したというのに、主人様ときたら『帰りたくありません』じゃからのう?》


《どうせ監禁中にいやらしい事でもしてたんだろう。オレ達が救出に向かわなければ、一線を越えていたに違いない》


《エイリーンは直情型じゃからな……主人様との相性も良い。長いこと一緒に居ったら、仲が進展してもおかしくは無いのじゃ》


《随分好き勝手言ってくれますね……いいでしょう。以前とは違う、進化した私をお見せしましょうか》



「エイリーンさん、これにはきちんとした理由があるのです」


「そ、そうだったのですか……いえ、フィオ様が意味も無く脱ぐ訳ありませんよね」


「その通りです。リーリアさんから聞きましたよ? 介入の成功率が低いそうですね?」


「うっ……申し訳ありません。エイリーンの管理が行き届いていないばかりに、今や成功率は半分以下です」


「管理の問題ではありません。決してエイリーンさんのせいではありませんよ」


「フィ、フィオ様……ありがとうございます! まだエイリーンをお見捨てにはならないのですね⁉︎」


「見捨てるだなんてとんでもない。私は後輩を見捨てる様な真似はいたしませんよ?」


「こ、後輩だなんて……リーリアと同じ様な扱いは困ります! エイリーンはフィオ様の隣に立ちたいのです!」


「……後輩でも隣には立てると思いますが」


「いえ、その……『妻』としてっ!」



《カリン様にも伝えておこう》


《命知らずじゃな。ワシらが居るというのに……宣戦布告かの?》


《うぅ……あ、あの! フィオ先輩! フェリス様が来ます!》



 ここにフェリス姉さんが来るのは不味いですね……場所を移しますか。

 リーリアさんは姉さんへの対応に残って貰うとして……私を含めて四人ですね? 《強制転移》します。

 場所はどこが良いでしょうか? いえ、私の領域であることは確定しているのですが、今はカリンさんがお茶会をしていますからね……他の七階位と鉢合わせするのは避けましょう。


 ……決めました。やはり寝室ですね。困った時はベッドの上――《強制転移》です。






***






「お帰りなさいませ。我がクソ主人と……は? 色魔?」


「ただいま帰りました。そして、ここは私の寝室ですが……トゥアエさんは何を?」


「見て分かりません?」


「ベッドの上で横になって……本を読んでいますね」


「そう、ベッドの寝心地を確かめるのもメイドの仕事。これも仕方なくですから」


「なるほど」



「いや“なるほど”じゃないぞ⁉︎ ……トゥアエ、サボるとはいい度胸だな?」


「何よ? 狼。掃除だって終わってるし、お茶汲みはウーナがやってるんだもの……仕事なんて無いわよ」


「ご主人様が帰って来ただろう⁉︎ 主人の帰りを横になって迎えるメイドがどこに居る⁉︎」


「ここに――あー、はいはい。分かったから睨まないで」


「メイドとは忠を尽くす者だろう⁉︎ 特に! ご主人様のメイドとして、何処へ出ても恥ずかしくない様――」


「はぁ……もう貴女がメイドやりなさいよ」



 ウルもよくメイドになっていますよ? 夜になるとメイド服を着てご奉仕してくれるのです。

 最初は嫌がっていた仮装も、近頃は積極的に着てくれる様になりましたからね……私も衣装を用意するのが楽しみになっています。

 ああ、そう言えば『ご主人様に夜這いされる使用人プレイ』を提案したのはウルではありませんでしたか?

 あの時のウルは終始メイドを演じきっていました……そうですね。丁度ベッドもありますし、今からでも――



「ご主人様⁉︎ 正気に戻ってくれ!」


「ふ、ふーん? い、意外と積極的なのね?」


「やめろぉ! これ以上オレの秘め事を晒さないでくれ!」


「夜這いか……久々にされてみるかの」


「貴女は程々にしないさいよ? 獅子。掃除するの大変なんだから」


「む……すまんのう? 最近は粘液責めに嵌っておってな」


「せめて風呂でやりなさいよ……まぁ、あのクソ吸血鬼よりはマシだけど」


「くくっ、カリンは部屋中を血で満たすのじゃろう?」


「そうよ! ……ったく、私が血液嫌いな事知ってて掃除させるんだから。その点、狼は楽ね」


「こ、この流れは不味い。何か、何か他に話題を……ん? 待て。エイリーンはどこだ?」



「色魔? 色魔なら、さっき凄い勢いでベッドの下へ潜り込んで行ったわよ?」


「おやおや」


「す、姿が見えないと思えば……おい! エイリーン、何をしている⁉︎」


「……あ、あは」


「ワシは何となく察したのじゃ。しかし、一足遅かったのう?」



 ……なるほど。私の『聖なる絵本』を探していたのですね? 残念ながらありませんよ。

 異世界から苦労して持ち帰った本は、全部カリンさんに燃やされてしまいました。私の能力で複写した本もウルに燃やされました。

 理解してくれたのはニールさんだけです……ニールさんだけは一緒に読んでくれましたからね。寛容さは使徒の中で一番です。



「も、申し訳ありません。ここを調べれば、殿方の理想の女性像が分かると聞きましたので……」


「ふむ? 誰から聞いたのですか?」


「あ、いえ……」


「言うのじゃ。さすれば罪も軽くなろう」


「うっ……」


「ご安心ください。別にその方を罪に問う訳ではありません……ただ、私もその知識を学びたいだけです」


「え、えっと……シクティスから」


「『総括官』繋がりか……お前達は何を総括しているんだ? 性知識か?」


「流石は『万象を識る者』ですね。異世界の概念にも精通しているとは」


「知識の偏りを感じるのはワシだけかの? 妙に拗れておる気がするのじゃが……」


「でも……くっ! エイリーンには何も分かりませんでした! フィオ様の理想が……何も!」


「燃やしたからな……取り敢えず、ベッドの下から出て来ないか? あと、ご主人様は服を着ろ」


「……しないのですか?」


「するのは話し合いだ……た、ただ次はメイド服を用意しておけ。いいな?」



 そういう事なら……いいでしょう、ここは引きます。今日は見られたくない日なんですね。

 それで、何の話し合いをするんでしたか……思い出せません。こういう時は記憶を遡るに限ります。

 聖なる絵本の前は……メイド服の話。それよりも前、ここに来る前は……ああ、思い出しました。


 好きな下着の色の話です。



「どこまで遡っている⁉︎ ご主人様の介入中か⁉︎」


「ふむ……」


「……なによ? そんなジロジロ見ないで。クソ主人」


「白に銀の刺繍ですか」


「は――はぁ⁉︎ ちょ、ちょっと勝手に見ないで! 魔眼使ってるでしょ⁉︎」


「目は閉じていますので」


「薄眼開けてるんでしょ⁉︎ 知ってるんだから!」


「では全開にします」


「いやぁああああ⁉︎ ど、どこまで見てんのよ⁉︎」


「全てが見えますね……絶景です」


「ひぃいい⁉︎ ちょ、ちょっと狼⁉︎ 見てないで止めなさいよ⁉︎」


「いや……お前も白なんだな」


「銀の刺繍を忘れないで! ……じゃなくて! 止めて⁉︎ こういうのって狼の役目でしょ⁉︎」


「そ、そうだな……おい、ご主人様――」


「ウルは紺色ですか。髪とお揃いでよく似合っていますね」


「っ……そろそろ話し合いを――」


「ですが、どうでしょう? 水色のアダルティな下着というのは? 明るい色で純真さを見せつつ、ウルの持つ妖艶さを引き出してくれると思います」


「……オレに明るい色は似合わないだろう」


「いいえ。私はそう思いません……この下着をどうぞ。私のおススメです」


「……貰う」


「狼! この色ボケ狼! なに懐柔されてんのよ⁉︎ ……いいわよ! 私が止めるわよ!」



 私を止めるとは……大きく出ましたね? トゥアエさん。

 今の私は性の――いえ、下着の伝道者。ここに居る全ての女性に下着を配り終えるまで、決して止まる事はありません。

 皆さんの好みを知り尽くし、その上で私が似合うと判断した下着をプレゼントします。

 私が自らの聖力で手ずから編んだ下着ですよ? 貰おうと思って貰える物ではありません……実用性もさる事ながら、防御性能も保証します。



「トゥアエさん」


「な、なによ……言っておくけど、私は狼みたいに単純じゃないから! 変な下着なんか貰っても嬉しくないわよ」


「黒髪に白の下着……大変良く似合っています」


「ふん、クソ主人に褒められても嬉しくないわよ! 大体、この髪はあんたのせい――」


「しかし、もっと好みを前面に出しても良いと思うのです」


「はぁ? 何が言いたいのよ。吸血鬼の遺灰で下着でも編めって事?」


「いいえ。私が言っているのは銀の方ですね」


「銀……銀ねぇ? 確かに、あれはいいわね。吸血鬼にも良く効くのよ」


「ええ。そこで……こちらをどうぞ」


「なに? まぁ、新しい杭とかだったら貰ってあげても――まぶしっ⁉︎」


「純銀製の下着です」


「着けれるか! それもう防具! 下着じゃなくて防具!」


「今回は防御性能を重視しました」


「比率を考えなさいよ⁉︎ てか何で光ってるの⁉︎ すっごい眩しいんだけど⁉︎」


「銀は聖力が良く馴染みますからね。恐らく私の聖力を吸収し、更に形状を変化させた事で……なんか光りました」


「説明が雑! ……はっ⁉︎ 結局、理由分かってないじゃない!」



 本当になんで発光しているのでしょうね? 以前、トゥアエさんから貰った銀を使ったはずなのですが……

 まぁいいでしょう。主張するのは良い事です……次はニールさんの番ですね? ニールさんの服は下着と一体型ですから、一着丸々仕立てなくてはいけません。

 これは大仕事に――おや? 肝心のニールさんはどこですか?



「こっちじゃ! 主人様!」


「……そんなベッドの陰で何をしているのです?」


「いや、エイリーンが――」


「あぁ⁉︎ い、言わないでください! フィオ様には言わないで!」


「胸がつかえて出れんらしいのじゃ」


「い、言わないでって……言ったのに」


「ふむ……」


「引っ張っても抜けん。主人様の手を借りる他無かろう?」


「うぅ、なぜか《転移》も使えませんし……こんなはずでは……」



 《転移》が使えないのは、ここが私の領域だからですね。天候から物質の創造まで自由自在ですから、一度ベッドを消し――ません。

 これは……頑張った私へのご褒美ではありませんか? きっと天からの恵みでしょう。エイリーンさんを好きにしても良い、と。

 肩から上――いや、下半身という手もあります。くっ、どちらから責めるのが正解なのでしょうか? 天啓、天啓をください……

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