正義の仮面
「ふっふっふ……そんな攻撃、正義には通用しない!」
「くそっ、どうなってる? 揃いも揃って防御に秀でた者ばかり……」
「防御だけじゃないよ? この右手は正義の鉄拳……当たれば君なんか一瞬で消滅するね」
「はっ! そんな大振りな攻撃、当たる方が難しいな」
「……んー? なんか変だなぁ……そんな簡単に避けられる訳無いんだけど」
早くも『誓約』を破った影響が出ていますね。素晴らしい能力の弱体ぶりです。
あの姉さんの攻撃が、たかが小世界の住人に避けられているのがその証拠……しかも本人の自覚無しとは良い仕事をしてくれます。
どうしましょうか? 仮に姉さんを討つなら今が好機……天界総ハーレムにはなりませんが、今後の計画は遥かに進めやすくなりますね。
《……討つべきだろう、ご主人様。ここは心を鬼にするところだ》
《ワシは反対じゃな。今のフェリスにはどこか違和感を覚える》
《ふむ……それは『誓約』を破って弱体化しているからではないのですか?》
《違うのう。ワシなら絶対に仕掛けん程に強烈な違和感……罠の類じゃ》
《言われてみれば……動く度に揺れる胸も、ローブがはだけた時に覗く肌も、私を誘っている様に思えますね》
《あ、主人様よ、その手の罠では無いぞ? 確かにワシも主人様の前で戦う時は、見られている事を意識して動くが……》
《やはりそうでしたか。ニールさんの戦いには華がありますからね……いつも見えそうで見えないのです》
《くくっ、露出の激しい衣装だからこそ、肝心なところを見せてはならんのじゃ!》
《……話が逸れていないか?》
《ウルも今度はニールさんとお揃いの衣装にしませんか? スタイルも似ているので、良く映えると思いますよ?》
《オ、オレはいい! あ、あんな破廉恥な衣装を着て戦うのは無理だ!》
《むっ、ワシの魔王装束をバカにするか⁉︎》
《ち、違いますニール様! これはニール様にしか似合わないという意味で――》
ウルにも似合うと思うのですが……元主人の前で着るのは恥ずかしいのでしょうか?
でしたらウルの番にでも着せてあげましょう。二人きりの時ならば、ウルも色々甘くなってくれますからね……
ニールさんと同じサイズの衣装を着せる事で、胸の大小を意識させるのも良い刺激になりそうです。きっと悦んでくれるでしょう。
《フィオ先輩! 正義の味方さんが押されてます!》
「……ふむ?」
《ど、どんどん動きが鈍ってるんです! このままじゃ……》
「どれどれ?」
「ふはは! さっきまでの威勢はどうした? 偽りの正義よ!」
「あー、体が重いなぁ……誰か一緒に戦ってくれないかなー? ……ちらっ」
「これで分かっただろう? 本当の正義は私にある! いや、この楽園にこそ正義はあるのだ!」
「このままじゃやられちゃうなー、助けに来たのにピンチだなぁ……ちらっ」
「そこの元同志も覚悟しておけ! 私こそが真の楽園の管理者……管理者ゼロだ!」
「うーん、ここで一緒に戦って貰えたら好感度すごい上がるのになー? 何だったらローブとか脱ぎ捨てちゃうんだけどなー? ……ちらっちらっ」
《ほ、ほら! すごい助けて欲しそうにこっち見てますよ⁉︎ 具体的には『助けに来たのに何でこいつ動かねぇんだ?』って感じで見てます!》
「本当にそうでしょうか? 私には服の脱ぎ所を探す痴女にしか見えませんが……」
《な、なんて事言うんですか⁉︎ せっかく助けに来てくれたんですよ⁉︎ どの世界の住人かは分かりませんが、ここは共闘して『大罪人』を倒すべきです!》
「はぁ……では、私が脱ぎますか」
《なんでっ⁉︎》
ここに来るまでに海を泳ぎましたので……ローブが水を吸い、重いのです。
このまま乾かすつもりでいましたが、姉さんが脱ごうとしているなら話は別……脱がれる前に脱ぎます。
これ以上、私の見せ場を奪わせたりしません。どの戦場においても一番注目されるのは私……私ではなくてはいけないのです。
《ちょっ⁉︎ フィオ先輩⁉︎ い、今はそんな場面じゃありませんから⁉︎》
《……何か始まった様だな?》
《良いぞー! 主人様ー! 見せ付けてやるのじゃー!》
「脱衣……完了です」
「えっ? な、なんでフィオちゃんが脱いでるの?」
「む、守りを捨てたか⁉︎」
「いかにも。ここからは常に私の手番……存分に見惚れて構いません」
「う、うん? 一緒に戦うって事でいいの? フィオちゃ――フィオドールくん」
「フィオドール……でいいのだな?」
「失礼、まだ名乗っていませんでしたね。私は『ケイレムが天位七階位、【経験】のフィオドール』……いざ、参ります」
「良し……来い!」
「【雷光貫手】」
「それは効かんと――」
「っぶなぁ⁉︎ えっ⁉︎ ……な、なんでこっちなの⁉︎ 敵は向こうだよ!」
「次こそは……【天雷】」
「それも効か――」
「ぃひゃあああああ⁉︎ ビ、ビリってした! ビリビリって!」
「……効きが悪いですね」
ウル、どうやら討つのは難しい様です……私が中位天使の体である事を失念していました。
しかし、能力を打ち込んでも反撃して来ませんね? ニールさんが懸念していた罠の可能性も低いのでは?
何にせよ、姉さんが正体を現さない内は攻撃の対象です。邪魔された恨みを晴らす機会は逃しません……
「フィオちゃ――フィオドールくん⁉︎ 狙う相手を間違っているよ⁉︎」
「そういう……そういう事なのか?」
「管理者……ゼロさんでしたね? 私はあなたの事情を知っています。しかし、この場に突然現れた第三の人物……『仮面』については何も知りません」
「えっ……ちょ、ちょっと待って⁉︎」
「なるほど……いいだろう。一時休戦だ」
「交渉成立ですね? では、私が前衛を務めます」
「ふっ、私に背中を見せるというのか? ……惜しい男だ」
「うわぁ⁉︎ それお姉ちゃんがやりたかった奴! 『背中を預ける系』の奴だ⁉︎」
「あなたの性別を確かめるまで、死んで貰っては困りますので……」
「性別……性別か」
「っ! フィオドールくん! 私の体を見て! ほら、どう見ても女の子でしょ⁉︎」
「ローブの上からでは判断できませんね? 詰め物をしているのかもしれません」
「じゃ、じゃぁこのローブを脱げば――」
「【雷光貫手】」
「くっ⁉︎ ま、待って! 今脱ぐか――」
「粒子レーザー斉射!」
「っ……もう! 邪魔しないで!」
《せ、先輩⁉︎ 何考えてるんですか⁉︎ フィオ先輩⁉︎》
《まぁ、正体の分からん相手に『味方する』と言われてものう?》
《そ、そんな⁉︎ どう見ても正義の味方ですよ⁉︎》
《……ご主人様が正義じゃないからな。そう考えれば何も不自然じゃない》
《え……フィオ先輩は天使ですよね⁉︎》
そう心配する必要はありませんよ、リーリアさん。
これは姉さんが正体を現すまでのお遊びみたいなものです……全力で邪魔しますが。
そもそも何ですか? あの中途半端な変装……仮面で顔を覆っているだけではないですか。
聖力の質を隠そうともしません……正体を知られたいのか、知られたくないのかどちらなのです?
《ご主人様に気付いて欲しかったんじゃないか?》
《おや、分かるのですか? ウル》
《べ、別に共感する訳じゃないがな……そういう展開を望んでいたんだろう》
《『誓約』があるというのに……無謀ではないかの?》
《ふむ。変装で『誓約』から逃れつつも、私には気付いて欲しい……その結果が仮面ですか? 浅慮が過ぎますね》
《……ご主人様も他人事じゃないぞ? 特に性欲が絡んだ時は思考が単純に――》
「フィオドール⁉︎ 手が止まっているぞ!」
「っ! 隙あり!」
「【天――間に合いませんか」
「ふっふっふ……これで形勢逆転だね? この通り、お姉ちゃ――私は女だよ?」
「くっ!」
「また白の下着……他の色は無いのですか?」
「え、白は嫌い? なら他の色にする――って“また”⁉︎ やっぱり気付いてるでしょ⁉︎」
「このままでは二対一か……い、いけるか? いや、私は楽園の管理者だ。敗北は許されない」
弱体化した姉さん、中位天使の体を使っている私、そして機械化した現地人……
様々な偶然が重なって生まれた均衡もこれで終わりですか……姉さんとは言え女性は女性、味方しない訳にはいきません。
少々、興が乗って悪ふざけが過ぎましたね。リーリアさんが呆れてしまう前に決着をつけましょうか。
「はぁ……仕方ありませんね。姉さん、もう正体を隠す必要は――」
「くっ、待てフィオドール! ……わ、私も女だ!」
「話が変わりました。覚悟してください、謎の『仮面』さん」
「待って⁉︎ さっき“姉さん”って言ったよね⁉︎ 合ってる! それで合ってるから⁉︎」
「ここの地下に私の肉体が保存してある! そこの『仮面』よりスタイルもいい!」
「はぁああ⁉︎ お姉ちゃんの体は完璧だから⁉︎ これが黄金比だから⁉︎ なんだったらフィオちゃんの好みに合わせて姿を変えてもいいし!」
「私はこの星の住人達と知識を共有している! そ、その中にはしょ、娼婦だった者の知識もある」
「んん? それは体を売るって事かなー? 出会って間もない男に抱かれるんだー?」
「く、口と手だけだ! い、一度だけなら!」
「お姉ちゃんは何度でもいいよ!」
「なっ⁉︎」
「むしろ抱かれたっていい! だから……ね? お姉ちゃんだけを見て?」
「くっ⁉︎ ま、待っていろフィオドール! 今私の体を持ってくるから!」
「いえ、私も行きましょう。逃げないとも限りませんからね」
「んん⁉︎ お、お姉ちゃんの告白は無視⁉︎ ……あ、待って! お姉ちゃんを置いて行かないで!」
私を色で誘うには経験が足りませんね? フェリス姉さん……過度の束縛は厳禁です。
危うく食指が動きそうになりましたが、姉さん“だけ”を見る事はできません……私は天界にただ一人の男性天使、全ての女性を愛する事が使命なのです。
さて、ゼロさんに続きましょう。良かったですね? ウル、後輩ができるかもしれませんよ?




