二つの楽園
「性別……ああ、この体が気になるのだな?」
「その通りです。私はあなたの体に興味津々ですね」
「ふっ、流石は同志。良いところに目を付けるではないか……説明しよう!」
「お願いします」
「同志は見た所、人間の肉体を使っている様だが……それでは長く楽園を管理する事などできない。どれだけ延命に努めようとも、いずれは種族としての限界が来てしまうのだ」
「ふむ……一理ありますね? 楽園を作れても、管理できなくては意味がありません」
「そうだろう? そこで私は機械の体に着目したのだ。定期的な整備が必要になるが、各部品を規格化してしまえば手間でも無い……自らの体をも管理してしまおうとな」
「なるほど。理解できなくもありません」
私も天使では無かったら、候補の一つくらいには挙がりそうな発想です。
生物の体とは、特別な状態にでもならない限り死滅と再生を繰り返してしまいます。どれだけ足掻こうとも肉体の限界……種族としての疲弊からは逃れられません。
それを規格化した部品を交換し続ける事で克服しよう、と考えたのでしょう……自分という存在を保ち続ける上では悪くない手です。
しかし、決定的な部分を欠いていますね……全身機械の体では性行為が出来ませんよ? いや、生殖器だけ残すという方法も……
《ほぇー……フィオ先輩が難しいお話をしてます》
《ワシならもう殴っておるのう。面倒な事は拳で語れば良いのじゃ》
《ニール様はともかく……リーリアは理解しておくべきだろう。こういう時のご主人様は、天界でもあまり知られていない情報を溢す事もある》
《うぅ……でも、難しい話は理解できなくて――》
「そこで同志にも機械の体を勧める。良い品質の核がいくつか残っていてな……それに人格を移せば直ぐにでも機械化できるぞ」
「お申し出はありがたいのですが……私、種族という概念を超越しておりまして」
「種族を……超越? ど、どういう事だ? まさか、本当に天使――」
「それにもう一つ。機械の体では性行為も出来ないのではないでしょうか?」
「――ではないな。色に溺れる天使など居まい……して、性行為だったか? 同志は見掛けによらず俗物なのだな」
「やはり楽園の主人として、特権は行使するべきでしょう」
「う、うーむ……確かにこの体で事には及べん。だが、私達は楽園の平和を守るのが最優先だ。自らの利益など二の次で考えるべきだろう」
「いえ、最重要案件ですが? 私と致せない者は楽園に入る資格を持ちません」
「んなっ⁉︎」
《あ、段々と理解できるようになってきました……》
《そうじゃのう? この話題はワシらの得意分野じゃ》
《……もう聞く必要は無いぞ、リーリア。ここから先は重要な情報など何一つ出て来ない》
聞こえていますよ? ウル。私の楽園――ハーレムに入る為の条件が重要な情報では無いと言うのですか?
今、天界で最も需要の高い情報ですからね……リーリアさんも喉から手が出るほど欲していた事でしょう。
そして、ご安心ください。なんとこの条件……強制ではありません。
私に魅力を感じなければハーレムに加入する必要は無いのです。高嶺の花を貫くも良し、孤高の存在を貫くのも良しです。
尤も、それが私の諦める理由にはなり得ません……そういった方々を堕として行くのもまた一興ですからね。
私は努力します。全ての女性から好かれる為に……全ては私のハーレムの為に。
《それを言葉に出さなかったのは評価するぞ、ご主人様》
《ワシは良いと思うんじゃがな? 強者には強者の特権があって然るべきじゃ》
《あ、あの……何の話ですか?》
《リーリア……嫌でも分かる日が来る。七階位では一番最初の被害――理解者になるだろう》
《い、今『被害者』って言いかけませんでしたか⁉︎ 私何されちゃうんですか⁉︎》
《どう変わるのか楽しみじゃのう……いや、案外そのままかもしれんな?》
《か、“変わる”って何ですか⁉︎ ……えっ、どうしてここで目を逸らすんですか⁉︎ ニ、ニールさん⁉︎》
「さて、そろそろ答えを聞かせていただきましょうか」
「こ、答えだと?」
「『あなたが女性か否か』の答えです」
「そ、それに何の意味が……」
「あなたの運命が決まります。正直に答えてくださいね? 嘘を通せるとは思わないでください」
「……私は性別を捨てた」
「【天雷:纏】」
「っ⁉︎」
「過去のもので構いません。どちらの性別をお捨てになったのでしょう?」
「そういう……事なのか?」
「女性であって欲しいですね」
「同志――いや、貴様! 楽園とはそういう事か⁉︎」
「楽園? 私の楽園が何か?」
「そんな……そんなものと! 私達の楽園を一緒にするな! 《機神励起》!」
これは……戦闘の意思ありと見て良いのでしょうか? 装甲が黒く光り輝いていますね。
私も戦うのは構わないのですが、せめて性別を答えてからにしていただけませんか? 手心を加える必要があるのかどうかで大分違うのですが……
こんな時に【識別】があれば……やはり能力が少ないのは不便です。観測からも性別は判断できないでしょうし、ここは一度倒してから考えましょう。
「【雷光貫手】」
「くっ――無駄だ! 粒子砲、掃射!」
「《転移》……少し面倒ですね」
「ふん、貴様が雷を扱うのは知っている。対雷装甲を使うのは当然だろう」
「【腐は――いえ、これでは死んでしまいますし……」
「掃射!」
「《転――聖力の無駄ですね」
「……やはり効かないか。だが、これならどうだ! 粒子レーザー……斉射!」
「初めて見る攻撃――ですが効きませんね。避けるまでもありません」
「ちっ……面倒な」
「これでお互い様ですね」
【天雷】が効かず、かといって【腐敗】では威力があり過ぎてしまう……
リーリアさん、この【天雷】はもう少し何とかなりませんか? 簡単に対応されてしまっていますが……隠された能力は無いのですか?
能力が持ち主に似てしまっていますね……単純――ちょろ過ぎます。
《ああ⁉︎ フィオ先輩のあの顔……絶対失礼なこと考えてます!》
《ほう? 正解じゃ。やるではないか、リーリア》
《えへへ……あ、あれ? 喜んでいいんでしょうか?》
《ふむ、私の使徒でも無いのに……素直に驚きましたよ? リーリアさん。『フィオドール検定』準二級に認定します》
《あ、はい! ありがとうございます! ……『フィオドール検定』?》
《な、なんだその悍ましい検定は……》
《この中ではウルが一番適性が高そうじゃな?》
《そうですね。ウルには一級をあげましょう》
《い、いらん! そんな検定を受けた覚えは無いぞ⁉︎》
《強制受検です》
《便利じゃのう?》
《め、迷惑過ぎる……というか、ちゃんと戦ってくれ! ご主人様!》
《そ、そうですよ! フィオ先輩なら【天雷】で倒せますよ!》
《……物理攻撃の方が効きそうじゃが?》
《ふむ……》
【天雷】でも倒そうと思ったら倒せますよ? 対雷装甲といっても、完全耐性では無い様ですから。
全力で【天雷】を発動し再介入……この繰り返しになりますね? 芸術点が低過ぎて、シクティスさんにダメ出しを受ける様な戦いになってしまいます。
かといって【腐敗】でも美しい戦いにはなりません……主に死体が残るせいで。
やはり聖力を込めて、物理で殴る。これしかありませんか――
「お困りの様だね? フィオちゃ――フィオドールくん」
「っ⁉︎ だ、誰だ貴様⁉︎」
「……」
「私かい? ふふ、私は通りすがりの天使……君の敵だよ」
「天使だと? 貴様、仮面なんぞ付けて……正義の味方気取りか?」
「……」
「いやいや、正義そのものさ。ただし、世界でたった一人の弟――じゃなくてフィオちゃ……もういい! 行くぞ悪党!」
「意味の分からん戯言を……いいだろう、貴様から片付けてくれる!」
「……」
「食らえ! 《お姉ちゃ――正義の右手》!」
「甘い! 《電磁障壁》!」
「……」
《ふわぁ……正義の味方って本当に居るんですね》
《くくっ……阿呆じゃ、阿呆がおる!》
《良かったな? 今回は味方らしいぞ》
これは……何ですか? いつの間にかヒーローショーが始まっているのですが?
私を庇う様に立つ正義の味方……見慣れた後ろ姿です。隠す気がありませんね? フェリス姉さん。
しかも、タイミングといい第一声といい……監視していましたね? そして今の介入で『邪魔』判定です。報いを受けて貰いましょう……




