運命の選択
「なぜ海底に本拠地を構えたのか……私は絶対に許しません」
《まるで深海魚の様に優雅な泳ぎじゃったぞ? 流石は主人様じゃ!》
《フィオ先輩って泳ぐの上手いんですね……すごいです!》
《……結局潜水したのか》
「『水も滴る良い男』と言いたいところですが、今の私は珍しく不機嫌です。何が悲しくて一人で海水浴をしなくてはならないのですか? 女性成分が足りません」
《ワシも行きたかったのう……『水着』とやらを着てみたかったのじゃ》
《わ、私はいいです……泳げないので》
《潜るのは得意だぞ。泳ぎにも自信がある》
「皆さんの水着姿ですか……いいですね。帰ったらやる事が増えました。水着回です」
《おお! それは名案じゃな! ……しかし、海はどこじゃ?》
《えーっと、確かシクティス様の領域にありましたよね? わ、私は参加しませんけど》
《オレの記憶が正しければ、あそこは雪が降っていたな。寒中水泳か……》
「私の領域に新しく海辺を生成します。貸切ですよ?」
やるからには徹底的に環境を整えましょう。海水浴に最適な気温、日差し……そして私が選んだ水着を着て貰います。
普段から露出が少ない方には、際どい水着を渡して肌を――閃きました。フレイアさんを誘いましょう。
流石に騎士鎧のまま泳いだりはしないでしょうからね。とうとうあの鎧を剥がす方法を思いついてしまいました……
《うーむ、主人様の領域に海は似合わん気がするんじゃが……》
《フィオ先輩の領域……ひ、広過ぎて何があるのか分からないです》
《海を作ったら庭園の管理が大変にならないか? カリン様は嫌がりそうだな》
「そうですか? でしたら天界のどこかに作ってしまいましょう」
《うむ、その方が良いじゃろうな!》
《いや良くないですよね⁉︎ 勝手に海なんて作ったら怒られますよ⁉︎》
《安心しろ、リーリア。ご主人様は以前にも無断で温泉を作ったことがある……つまり、経験済みだ》
《え、えぇ……何一つ安心できる要素がありませんよ? そもそも、ここ敵の本拠地ですよね? こんなに無駄話していて大丈夫なんでしょうか……》
「肝心の敵が一切姿を現しませんからね……話に花が咲くのも仕方のない事です」
海を泳いで辿り着いた施設には、兵器どころか人の姿も見当たりません。
苦労してここまでやって来たのですから、せめて美しい女性にお出迎えして欲しかったのですが……私の知覚領域には『大罪人』のものと思わしき反応のみ……
まさかこの世界には女性がいない? いや、まだ諦めてはいけませんね。『大罪人』が女性である可能性を秘めています。
《しっかし、兵器以外は何も見掛けんかったのう? 海を泳いだというのに魚すらおらんとは》
《もう……遅かったのかもしれません。過去の介入では現地人との接触もあった様ですが……》
《兵器達に滅ぼされた、という訳か……名に恥じない働きをしているな、その『大罪人』とやらは》
「なるほど。この世界の女性は既に……許せませんね」
《一歩間違ったら、ワシも同じ様な事をしていたのやもしれんな》
《そ、そうなんですか? ニールさんの小世界時代ってどんな感じだったんでしょう?》
《くくっ、ワシより強い者がおらん世界でな? 退屈で退屈で……世界そのものを食らってしまおうとしたのじゃ》
《ま、間違いなく介入案件です! 失敗してたら魔界へ一直線ですよ⁉︎》
《あの頃のニール様は輝いていた……常に陣頭に立ち、世界を手にするあと一歩の所まで来ていたのだ》
「そして、カリンさんに叩きのめされていましたね」
《……未だに思うんじゃがな? あれは主人様の血に負けたのであって、カリン本人に負けた訳では無いと思うのじゃ》
《ニ、ニールさんよりも強いんですね……カリンさんって》
《どちらが強いかは別にしても、逆らわない方がいいのは確かだな……》
「カリンさんはベッドの上でも強いですからね。私も気を抜けません」
《むぅ……ワシは主人様に勝てたことがないのじゃ。すぐに果ててしまう》
《あ、あれ? 何だか話がおかしな方向に――》
「ふふ、ニールさんは使徒の中で最弱ですからね」
《んんっ! あ、主人様……今、なんと?》
「ニールさんは使徒の中で“最弱”です」
《はぁんっ……や、やめよ……こんな所で気持ち良くするでない》
《え、えっ?》
《始まってしまったか……》
「あのウルですら私と良い勝負をするというのに……いつもよがり狂って恥ずかしくないのですか?」
《んっ……んん!》
《ニ、ニールさん? どうしたんですか?》
《ご主人様! せめて人目に付かない所で――くっ、装置の中だと人目には付かないな》
「まさか、リーリアさんの前で詰られて感じているのですか? 救いようのない変態猫ですね」
《ぅあ……こ、これ以上は……だ、だめじゃ!》
《んぐっ⁉︎ ニ、ニールさん……押されると苦しいです》
《何か……何か止められる手段は無いか⁉︎ このままではニール様が――》
「き、貴様……なぜここに居る⁉︎ あの兵器の大軍を突破したとでも言うのか⁉︎」
誰ですか? 私に兵器の知り合いはいないはずですが……いえ、惚けるのはやめましょうか。
ニールさんを詰るのに夢中で気付きませんでした。この方が今回の標的である『大罪人』でしょう……
私とニールさんの情事を邪魔するとは、まだ罪を重ね足りないのですか? お仕置きが必要な様ですね。
見た目はこれまで戦って来た兵器と似ていますが、装甲の色が黒いですね? 恐らく性能も段違いなのでしょう。
そして何より重要な性別は……判別不可能です。聞くしかありませんね。
《す、すみませんフィオ先輩! 観測していたのに接近に気付けませんでした!》
《助かった……今、一つの罪が償われたぞ》
《はぁ……はぁ……罪深いのは主人様なのじゃ! ワシをこ、こんな身体にして……》
「さて、あなたが件の『大罪人』とお見受けしますが」
「『大罪人』だと? ……私は『管理者』だ。その不名誉な呼び方はやめて貰おうか」
「これは失礼しました。管理人殿……しかし、『大罪人』と呼ばれた過去をお持ちで?」
「……昔の話だ。今ではそう呼ぶ者など誰もいない」
「なるほど……ここで何をしていたのです?」
「……楽園の管理だ。全生命の夢を管理しているが……ふんっ、どうせ貴様も――」
「それは素晴らしい」
「なっ⁉︎」
「私も楽園を作っている最中でして……いえ、お恥ずかしながらまだ十名にも満たない小さな園ですが」
「そ、そうだったのか……まさか同志だったとは。すまない、私は誤解していた様だ」
「誤解も何も、最初に攻撃したのはこちらですから……それで、大切な事をお聞きしたいのですが?」
「ああ、何でも聞いてくれ。ここは先達として質問に応えようではないか」
「あなたは……女性ですか?」
「……は?」
《と、途中まではいい感じだったんですけど……》
《リーリア、扉を開けてオレにも観測映像を見せてくれないか? ご主人様がやらかした事を、カリン様に報告しなければならん》
《この『管理人』とやら……悪人をするには素直すぎるのう》
皆さん、少しの間静かにしていただけませんか? 私はとても大切な質問をしているのです。
仮にこの方が女性だった場合、新しい使徒にするのも悪くありません。世界を支配できる程の能力者ですからね……戦力としては上々です。
今は兵器の体ですが、使徒になる際は受肉していただきましょう……さぁ、選ぶのです。
私との甘美な日々か……魂の終息か――




