深い罪
《なんじゃ? 雑兵共が動かなくなったのう?》
《こ、壊れちゃったんでしょうか? でも、今がチャンスですね!》
「……」
《むぅ……せっかく色の違う輩が出たというのに、戦わず終いとはつまらんのじゃ》
《あ、安全第一です! もしかしたら精神攻撃系の能力を持っているかもしれませんよ⁉︎》
「……」
《主人様。白の雑兵は要らん故、青い装甲の兵器だけ持ち帰って貰えんかの?》
《異世界からは物を持ち帰れませんよ⁉︎ 今のフィオ先輩は精神体ですからね⁉︎》
「……」
《それもそうじゃったな……時に主人様、ずっと黙っておるがどうしたのじゃ?》
《も、もしかして精神攻撃ですか⁉︎ すみません! 気付かなくて――》
「いえ、ある意味では精神攻撃に近いですが……もう済んだ事です。移動を再開します」
一瞬、この世界に姉さんの聖力を感じました。そして、それを切っ掛けに動かなくなった自律型兵器……介入されましたか。
これは私が一騎当千の活躍をする、という事への『邪魔』になっていませんか? いえ、無駄な戦闘が省けたとも捉えられますね……グレーゾーンです。
しかし、こんな事をする理由が分かりません。『誓約』が怖く無いのでしょうか? 抑止力になっていないのなら、今後の動きも考えなくては――
《オレが探りに行くか?》
《……カリンさんの言う事を信じるなら、私が居ない時に姉さんと対面するのは控えた方がいいでしょう》
《バレない様にやるさ……それとも、オレが信用できないか?》
《信用も信頼もしています。だからこそ、危険を冒して欲しく無いのです》
《そ、そうか? あ、いや……分かった。大人しくしてる》
《……言いたい事があるのならどうぞ》
《な、無いぞ? うん……いいんだ。これでいい》
《勘違いの無い様に言っておきますが、私は使徒を見た目で選んだりしません。もちろん、皆さんの容姿が整っていたのはこの上ない僥倖でしたが、人格に信頼が置けるからこそ――》
《分かった! 分かったから! ……そ、そんな急に褒めるな》
《分かれば良いのです》
《はぁ……それで? 何をそんなに動揺している》
ふむ? なかなか鋭いですね? これでも悟られない様、別の事を考えて誤魔化していたのですが……仕方ありません、正直に話しましょう。
実のところ、姉さんがこの世界にどう介入しようと不安要素にはなり得ません。
ウルの能力で相手側の戦力は把握できましたし、『大罪人』と思わしき人物も発見しましたからね? 姉さん本人が敵にでも回らない限り、この介入は成功したも同然です。
そして姉さんは『誓約』があるので私の邪魔をできない……敵として出て来るなんて事はあり得ないのです。
《つまり、フェリスはご主人様の味方をしに来たんだろう? 良い事じゃないか》
《ここに来れてしまった事自体が問題なのです》
《……うん?》
《ふぅ……いいですか? ウル。私は魔界へ行った時の様に介入用の空間から隔壁を越えるか、装置を使う事でしか介入ができません》
《なら、フェリスは隔壁を越えたんだろう。オレは介入部に居るからな、流石に装置を使われたら気付く》
《それでは天界が崩壊した事になりますね》
《……そうか》
《はい。姉さんと天界は繋がっていますから……隔壁を越えた時点で、天界は消滅しているはずです》
《一応言っておくが、天界は健在だ》
《そうでしょうとも。姉さんが能力の完全制御に成功したのか、私の知らない能力を使用したのか……どちらにせよ大問題ですが、できれば後者であって欲しいですね》
未知の能力なら……【経験】で何とかなるでしょう。
姉さんと私は同じ【経験】の使い手、姉さんにできる事は私にもできるはずですから……どんな能力を使ったのかさえ判明してしまえば対策は容易です。
ですが……姉さんが能力の完全制御に成功した場合。
こちらはほぼ打つ手がありません……今後は姉さんがする事に対して、常に受け身に回らなければいけなくなります。
何をするにしても『もしかしたら姉さんが……』と、警戒しなくてはいけません。計画にも支障が出てしまうでしょう。
《自分の姉だろう……何とかならないのか?》
《私の姉だからこそ、どうしようもありませんね》
《例の【退化】はどうだ?》
《いえ……私の考えが正しければ、あれで姉さんの関心を引いてしまったので》
《……はぁ》
《くっ! 私の幼年期が愛らしいばかりに……一匹の獣を檻から解き放ってしまいました》
《のう、さっきから何をコソコソ話しておるのじゃ?》
《似た者姉弟に振り回される事になりそうです。ニール様》
《姉さんのショタ好き深度を見誤ってしまいました……》
《……さっぱり分からんのじゃ!》
《フェリスが色に狂って暴走しています》
《これも私が背負うべき罪なのでしょうか……実の姉すら魅了してしまうとは》
《……フェリスが何かしたのかの?》
《一時的に天界からご主人様の居る異世界へ介入した様です》
《姉さんを責めないでください……これは私の罪、幼い姿が愛らし過ぎたが故の罪なのです》
《なっ⁉︎ 幼いご主人様の話かの⁉︎ ワシもまた見たいのじゃ! ……つ、次はあの姿でしてくれんかのう?》
《……いいんだ。ニール様は頭脳担当では無い。情報の共有さえ出来ていればそれで……》
そうでした……ニールさんも【退化】に魅了された者の一人でしたね。
それも、あの姿の私に性交渉まで求めるとは……良いでしょう。ニールさんの『ご褒美』はそれに決定です。
後はウルの『ご褒美』ですが……きっと『もう少ししっかりしてくれ』とか『カリン様に迷惑を掛けるな』という面白味の無いものでしょうね。
《ああ、忘れておったのじゃ。ワシの分もウルに褒美をやってくれんかの?》
《なんと》
《いえ、オレも二つは思いつきませんでしたから……ニール様がどうぞ》
《む、むぅ……魅惑的な提案じゃが……否! 一度言った事は撤回せん!》
《そうですか……では、ニールさんの要望は次の機会で》
《ほ、本当によろしいのですか? ニール様?》
《うぐっ……ワシを惑わすのは止めよ! 褒美くらい自ら勝ち取ってみせるのじゃ!》
《天晴れですね。その心意気に免じて、特別に褒美を――》
《あ、あの……フィオ先輩? 目的地に着きましたよ?》
《ぬわぁああああああ⁉︎》
《ひゃぁああああああ⁉︎ な、何ですかニールさん⁉︎ 急に叫ばないでくださいよ⁉︎》
《……今のはリーリアが悪いぞ。いや、内々で話してたから仕方ないんだが》
「ふふ、お陰で気持ちが楽になりました……行きましょうか」
《えっ⁉︎ わ、私が悪いんですか⁉︎ 目的地に着いた事を知らせただけなのに⁉︎》
《ワシの……ワシのご褒美が……》
《ニール様……やはりオレの分を――》
《それはならん! ええい、リーリア! お主はワシに恨みでもあるのか⁉︎》
《ふぇえ⁉︎ 無いです! 恨みなんて無いです! あ、やめ――あはははは! くすぐった――あはははは!》
「楽しそうですね。帰ったら私も混ぜて貰えますか?」
《ご主人様は帰ったらカリン様と作戦会議だ。彼方でも進展がある事だろう》
そうでした。カリンさんにはシクティスさんを任せていましたね? きっと上手く言いくるめて奴隷にでもしているに違いありません。
私が寝室に入ると、そこには麻布一枚を纏ったシクティスさんが……おやおや、大事なところが隠れていませんよ? 私の手で隠して差し上げましょう――
《妄想もいいが、どうやって海底まで行くつもりだ? かなり深いんだろう?》
「ふむ……濡れるのは嫌ですね」
《せめて転移系の能力を持ち込めていたらな……》
「中位天使の体でも、全聖力を使えば《断界》くらい使えるでしょう。『大罪人』を討つのは八体目の私に任せます」
《ご主人様が八人か……悪夢だな》
「淫夢です。《断界》」
《……上手く行ったか?》
「はい。やはり体が保ちませんが……次で仕留めます」
海を割り、悠々と海底に降り立つ私……絵になりますね。
目の前には何の変哲もない岩しか見当たりませんが、これが偽装である事は既に見抜いています。
体が消えてしまう前に中へ入らなくては……流石に中まで海水で満たされていたりはしないでしょう。
……入り口はどこですか? 不味いですね、このままでは体が――あ。




