能力交代
「それで……どうするんだ? ご主人様。装置には五人も入れないぞ」
「入れませんか?」
「主人様は必ず入らなくてはいかんからのう、ワシとウルも一緒に入るにはちと厳しいのじゃ」
「ニール様の言う通り、オレ達を頼るなら一人ずつだ」
「ふむ……『2リーリアさん』という訳ですか」
「た、体格の話ですよね? 体のごく一部を指した発言じゃないですよね?」
「獣人って発育いいんだな――っと、すまん兄貴! 呼び出し食らっちまった!」
「それは……穏やかではありませんね」
サターニャさんが呼び出しですか? 一体何をしたのでしょう……天界で悪事を働くのはお勧めしませんよ?
『天使は善であれ』なんて、面倒な規定もありますからね……何かしたらすぐに『特派』が飛んで来ます。
六階位でも『特派』を撒くのは一苦労でしょう、ここは大人しく出頭してください。私からもキリリスさんに口添えしておきますから……
「悪りぃな……ちょっと行ってくる! 《転移》」
「な、何をしたんでしょうか……干渉局で問題を起こされると、問い詰められるのは私なんですが」
「覚悟を決めておけ、リーリア。ご主人様がいる以上、問題が起こらないはず無い」
「ワシの知る限り、一番『特派』に追われた経験があるのは主人様じゃ。様々な聖術や能力が飛び交う逃走劇は必見じゃぞ?」
「うぇえ⁉︎ フィ、フィオ先輩? せめて干渉局の外でお願いしますね⁉︎ 局員を巻き込まないでくださいね⁉︎」
「いえ、もう私が『特派』に追われる事はありません。強力なコネを――」
「待てご主人様。それ以上はここで話さない方がいい」
「そうですね……では、介入に戻りましょうか」
「えぇっ⁉︎ そ、そんな中途半端に言われると気になります! ……コネって何ですか⁉︎ 誰とのコネなんですか⁉︎」
「私と寝れば分かりますよ」
「そ、それは……あぅう」
私のハーレムに入り、計画に協力してくれるのでしたらお教えしましょう。今はまだ時期尚早です。
それに、ここにはフェリス姉さんの目や耳があるかもしれません。『邪魔をしない』に観察も含まれているのか微妙なところですからね……
では、気を取り直して介入を再開しましょう。今度こそあの兵器達を根絶やし――ではなく、『大罪人』を討ちますよ。
「まずは自律型兵器を片付けましょうか。その後はウルの能力で標的を探しましょう」
「それは構わないんだが……オレも服を溶かされるのか?」
「む、脱がずとも良いのか? ワシは肌を重ねるつもりじゃが」
「……らしいですよ?」
《待ってくれ! その……オレはニール様の前では脱げない。し、知っているだろう?》
《……サラシを巻いている件ですか。ニールさんなら胸の大小など気にしないと思いますが》
《オレも気にしていない! 気にしていないが……一般的な獣人の誇りなんだ。た、頼む! 例の『ご褒美』を使ってもいい!》
《はぁ……私はそこまで狭量ではありません。『ご褒美』は別のものを考えておいてください》
《か、感謝するぞ! ご主人様!》
獣人に限らず、種族毎の誇りとは不思議なものです。
私は寛容なので特に問題ありませんが、種族によってはこの誇りが原因で対立する事もありますからね……理解出来ずとも受け入れる事が肝心です。
獣人は全般的に強さを誇り、更に女性は胸の大きさも誇ると……ウルも大変ですね。ニールさんより少し胸が大きいだけで……
「どれ、兵器とやらの掃除ならワシの出番じゃな? この装置へ入れば良いのかの?」
「そうですね。私とリーリアさんが先に入りますので、後から詰めて貰えますか?」
「あ、あの……」
「なんじゃ、ワシが前でも良いのじゃぞ? 主人様もその方が気持ちよかろう?」
「リーリアさんが扉側では、逃げられてしまう可能性がありますので」
「あのぉ……」
「うーむ、仕方ないのう。閉所で迫られる『ぷれい』は貴重じゃというのに……」
「今回は我慢してください。どうやらリーリアさんもその様な状況が好みらしくて――」
「ち、違いますよ⁉︎ というか無視しないでください!」
「ふむ……何か?」
「“何か?”じゃありませんよ⁉︎ これもう私要らなくないですか⁉︎ 能力的にも、ウルさんとニールさんの二人で解決ですよね⁉︎」
「あぁー、言いにくいんじゃがな? ワシらは……その、な?」
「『2リーリアさん』なので空間的に入りきりませんね」
「うぐっ……一人ずつ入ればいいんです! それに、お二人がここへ来たって事は、書類仕事が進んでいない訳で!」
なるほど、書類仕事を口実にこの場から逃げようという魂胆ですか……甘いですね。
私が何の為にウルを残して来たと思っているのですか? こう見えても事務処理能力はカリンさんと同等――いえ、勝るかもしれない有能使徒です。
しかし、ニールさんの臣下時代に相当苦労したのでしょう……書類関連の話をする時、ウルの目には光が宿っていません。闇堕ち状態です。
「……リーリア。溜まっていた書類は全部片付けたぞ」
「えぇ⁉︎ ……じ、実は机の下にも書類を隠していまして――」
「それも含めて片付けた。いくら目を背けたくなる量だとしても、実際に隠すのは良くないな」
「こ、こんな短時間で……すごいです! じゃぁ私は目を通すだけでいいんですね⁉︎」
「全てに目を通すのには時間が掛かるだろう……だから報告書を作成して、机の上に置いてある。それさえ読めばどんな書類があったか一目で分かるぞ」
「ほ、報告書まで⁉︎」
「それとな……リーリア。これは経験者として語るが、ご主人様から逃げるのは不可能だ。この期に及んで抵抗するくらいなら……流れに身を任せた方が苦しまずに済む」
「ウルさん……分かりました! 私、逃げません! フィオ先輩にもちゃんと話せば――ひゃぁ⁉︎」
「では早速行きましょうか。ほら、リーリアさんが一番奥ですよ」
「あっ……こ、こんな……お姫様抱っこなんて」
「くくっ、初々しいのう? 裸で抱き合った仲じゃろうに」
「あぅ……に、逃げません。逃げませんよ……ウルさん」
良い演技、そして良い説得でしたね? ウル。リーリアに逃げる気が無くなればこちらのもの……このままお持ち帰りしても良いくらいです。
後は介入を成功させて、リーリアさんの憂いを断つだけ……つまり勝ったも同然です。ウーナさんに寝室の準備をして貰わなければ……
「……演技では無いぞ?」
「ご冗談を。兵器を壊滅させたら次はウルの能力を借りますから、ニールさんと交代で入ってきてくださいね」
「むう……ワシも暴れたいんじゃが、今回は仕方ないのう」
「あ、あの! 降ろして、降ろしてください! ……恥ずかしいです!」
「皆さん準備はできましたか? 介入しますよ?」
「うむ、ワシはいつでも良いぞ?」
「え⁉︎ このまま行くんですか⁉︎ ……む、無理です! 顔が近過ぎます!」
「リーリア……同情しかできないオレを許してくれ」
さてさて……私を撃退した気になっている兵器達と、恐らくそれを見ているであろう『大罪人』に今度こそ引導を渡しましょう。
仮初めの肉体とはいえ、この私に泥をつけた罪は重いですよ? 男なら問答無用で消滅させ、女性なら私の気が済むまで相手をしていただきます。
まさか……兵器だけしか存在しない、なんて事ありませんよね? 一人くらいは生身の女性が居ても良いはず――いえ、居るべきです……頼みますよ?




