無限の私
「ふむ、一通り見て回りましたが……」
《一番槍は……一番槍は嫌です》
「人が出入りできそうな扉はありませんでしたね」
《槍玉に挙げられます……非難轟々です》
「唯一の成果はこの小窓ですか」
《袋叩きです……し、死んじゃいます》
「……そろそろ戻って来ませんか?」
サターニャさんと一計を案じてからというもの、リーリアさんが悲嘆に暮れています。
お陰でリーリアさんの性感帯を知ることができましたが、このままではいつまで経っても介入が終わりません。
私は早く帰ってリーリアさんを撫で回したいのです。もはやこの異世界には微塵も興味がありません。
《私にとっては死活問題なんです! 抜け駆け厳禁なんです!》
「ふむ? 何かあっても私がお守りしますよ?」
《……本当ですか? 天界中の天使を敵に回しても守ってくれますか?》
「当然です。いずれ皆さん私のものになっていただきますから」
《そ、そうで――はっ⁉︎》
「お守りします」
《き、聞き捨てならない発言があった気がします!》
「聞き捨ててください。口が滑りました」
《無理ですよ⁉︎ フィオ先輩、まさか天使全員をハーレムに――ひっ⁉︎》
「……リーリアさんの為を思っての発言ですよ?」
《わ、分かりました! 何も聞いてません! だ、だからソレを見せないでください!》
「賢明な判断です」
《うぅ……脳裏に焼き付いてます……せめて下着は履いてください》
私としたことが……迂闊な発言をしてしまいましたね。いくらリーリアさんをほぼ手中に収めたとはいえ、計画を共有するにはまだ早いです。
計画について知りたければ……私と一夜を共にしていただきます。寝物語にて計画の全容をお教えしましょう。
いけませんね……閑話休題です。話を戻しましょう、このままでは長期介入になってしまいそうです。
「リーリアさん、小窓がありました」
《え、はい……それが何か?》
「いえ、小窓がある以上はただの壁ではありませんよね?」
《……そうです! 施設だって言ったじゃないですか! わ、忘れてました》
「私では中の様子まで窺えません。お願いできますでしょうか?」
《は、はい! ……生体反応ではなく、熱源で探知してみますね!》
「それが良いでしょう。この異世界に生物がいるとも限りません」
《えへ、私だってそれくらい考えて――え?》
「何かありましたか?」
《い、いえ……フィオ先輩の周囲にすごい数の反応があるんですが……》
「ふむ、囲まれているのですか」
《そんなレベルじゃありません! う、埋もれてます!》
「私が見破れないとは……高度な不可視化ですね」
知覚領域には反応がありません。まさかウル以外にも私の索敵能力を突破する者がいるとは……
いくら仮初めの体とはいえ、私の自尊心も傷付きました。この罪は命をもって償っていただきましょう。
埋もれる程の数がいるのなら、狙いを定める必要もありませんね。【天雷】の全方位放射です。
「【天雷】」
《わぁ⁉︎》
「……今度はどうしたのです? まさか『全方位に放射できるんですか⁉︎』とは言いませんよね?」
《い、言いませんよ⁉︎ 熱源探知をしていたので、映像が真っ白になったんです! 驚いただけですから⁉︎》
「それは失礼しました……反応はどのくらい減りましたか?」
《あ! しょ、少々お待ちください……》
「いえ、攻撃されて反応が無い以上、結果は分かりきっていますね」
いくら自律型兵器でも、攻撃されて無反応という事はないでしょう……掃除完了です。
しかし、数を揃えて何がしたかったのでしょうか? まさか……全機で偵察を? 私を全方位から観察する為に? ……あり得ますね。
これだけ美しい天使を見るのは初めてでしょう。ファンになってしまったのかもしれません。
困りますね……私はあなた方を消滅させなくてはいけないというのに……
《フィオ先輩! 反応が減ってません!》
「……あり得ません」
《あ、相変わらず埋もれてます! でも……なんで何もして来ないのでしょうか?》
「やはり広範囲の殲滅は【炎域】に限りますね。フレイアさんと介入していたら……」
《うぅ……【天雷】は悪くありません! 私でも七階位になれる優れた能力です!》
「本人が言うと説得力が違いますね」
《……そこは否定して欲しかったです! そんな事より、囲まれてますよ⁉︎》
「ふむ……それなんですが、先程の【天雷】に手応えがありませんでした。故に私は『熱源は地下から説』を提唱します」
《地下……地下ですか? 確かに盲点でしたが……》
「確かめて見た方が早いですね……【天雷】」
《ひゃぁ⁉︎》
二度目でも反応してくれるリーリアさん……可愛いですね。学習はしないのでしょうか?
それはそれとして、地面に【天雷】で穴を開けました。これで何もなければ次は上――空を探さなくてはいけません。
地下とは違ってこの目で見えていますから、私が《不可視化》を見破れていない事になってしまいますね……仮にそうだとしたら、異常なまでに能力の発達した異世界です。
流石にこの体でそんな集団を相手にしたくないのですが――杞憂でしたね。
「お出ましです」
《ね、熱源が動いてます! 一箇所に集まって――》
「リーリアさん、もう通常の映像で見た方が分かりやすいですよ。自律型兵器の大群です」
《うぇ⁉︎ ……な、何ですか、この数》
「どうやら地下施設があった様ですね……開通しました」
《地下施設……フィ、フィオ先輩⁉︎ いくらなんでもこの数は!》
「面倒ですね? 聖力が保たないでしょう」
《ですよね⁉︎ た、退却……退却しましょう! この異世界へは不干渉とします!》
それだと未知の能力者が魔界へ堕ちる事になりますが……次は本来の体で相手をしなくてはならないのですか。
魔界での生存競争に敗れる可能性もありますが、それでは介入した意味がありませんね。
まさか、これは介入失敗ですか? この私が……失敗?
それだけ認めません。こんな所で私の神話に傷を付ける訳にはいきません。
「……戦闘を開始します」
《フィオ先輩⁉︎ 無理ですよ⁉︎ 肉体が消滅しちゃいます!》
「構いません。例えこの体が朽ちようと、そちらの私には何の影響も――閃きました。【天雷】」
《ちょちょ⁉︎ 戻って来てください! 肉体の崩壊が始まってますよ⁉︎》
「【天雷】、【天雷】、【天――【激憤】……やはり効果的ではありませんね」
《も、もうダメです! 強制的に介入を終了します!》
「そして第二、第三の私が現れる訳です」
《ふぇ⁉︎》
私は気付いてしまったのです……リーリアさん。この『介入補助装置』の使用に耐えられるだけの体があれば、何度でも介入できますね?
そして本来の私は無敵です。精神的な苦痛など問題になりませんから、ここに無限の私が誕生します。
『目には目を』相手が人海戦術ならこちらも人海戦術……そうですね、ウルを呼んでもらえますか? 次の私には探索能力を持たせてあげたいので。




