二正面作戦
《フィオ先輩! 『機械人』じゃ無いって――》
「はい。判断に時間が掛かってしまいましたが、間違いありません」
《ど、どういう事なんでしょう……見た目は機械人そのものですよ?》
「良く出来た作品だと思います。私も一目では見抜けませんでしたからね」
《“作品”……機械人を模した自律型兵器ですか》
「その通りです。完成度は高いですが……機械人の方々に知られたら、怒りを買うでしょうね」
その光景は容易に想像できます。
『我らの姿を模した兵器だと?……下等生物が。良い趣味をしているではないか、死ね!』
ふむ……女性型の方にでしたら、一度くらい殺されても良いかもしれませんね。無論、戦場はベッドの上に限定しますが。
《で、でも、どうやって見分けたんですか? もしかしたら本当は機械人の可能性も――》
「それはあり得ません。私は彼女達が用いる《信号》を会得していますから」
《え、えっと……フィオ先輩? “信号”って何ですか?》
「私達が使用する《念話》と同じ様な物ですね。しかし、《信号》は機械人にしか扱えない……と思われていますので、必ず反応があって然るべきなのです」
《ほへぇ……》
「さて、そろそろこの兵器を壊してもよろしいでしょうか? 一体だけでやって来た所を見るに、偵察型でしょう。これ以上私の情報を流されるのも面倒です」
《あ、はい! やっちゃってください!》
「了解です。やっちゃいますね」
これで探知系の能力があれば、この兵器の製造場所や所属する拠点まで割り出す事も出来たのですが……仕方ありませんね。
そんな事よりも、今は【天雷】でどう倒すかを考えましょう。リーリアさんはいつも放射型しか使用していませんから、ここは身に纏う方で行きますか。
効果は身体能力上昇、雷属性付与……そして追加能力の獲得。
「【天雷:纏】」
《て、【天雷】です⁉︎》
「しっかり見ていてくださいね?……【雷光貫手】」
《なっ⁉︎ 何ですかそ――》
光速の貫手です。しかし、ただ速いだけではありません。
雷を纏う事で威力を上げ、貫手を放つ瞬間に【天雷】を零距離で放っています……つまり、不可避の二連撃ですね。
当然、自律思考の兵器程度に避けられる事もありません。装甲ごと心臓部を貫き、核を焼き切ります。
「ただの処理に【天雷】は勿体無かったですね」
《え、えっ? 今の【天雷】なんですか⁉︎》
「そうですが……分かりにくかったですか? 貫手を放った方とは逆の手で、指を鳴らした所とか――」
《そんな事してたんです⁉︎ いや、違います! 【天雷】って雷を放つ能力じゃ無いんですか⁉︎》
「……リーリアさん」
流石に自身の能力くらいは把握しておくべきではないでしょうか? 好んで放射していたのではなく、まさか知らなかったとは……
私が鍛錬に付き合うべきでしょうか? そうですね……リーリアさんがハーレムに加入したら、お祝いで能力を解説してあげましょう。
「一先ず、処理が終わりました。後続の確認をお願いします」
《うぅ……なんか悔しいです……確認します》
「安心してください。今度私が解説して差し上げますから……ベッドの上で」
《け、結構です! もう、どうしてエッチな事ばっかり言うんですか⁉︎》
「自分に正直なだけです。今の私はリーリアさんしか見ていませんので」
《っ……そ、そうですか。こ、後続はいません》
そしてリーリアさんの後ろにはシクティスさんが見えます。ジト目で私を睨んでいますね? 『私の番はまだ?』と言っている様です。
む、想像のシクティスさんがますます睨んで……そんなに待ち遠しいのですか? あと少しの辛抱ですよ。干渉局のお手伝いが終われば、次はシクティスさんの下へ行きますから。
《フィオ先輩? 後続はいませんよ?》
「失礼、少々考え事をしていました……では、人工的なシクティスさ――壁の下へ案内を」
《……怒られます。怒られますよ? フィオ先輩》
「……怒られますかね?」
《私、絶対にシクティス様の味方しますから。フィオ先輩を許しません》
「大丈夫でしょう。私とシクティスさんの仲ですから」
《……わ、私も怒ってます》
「案内をお願いします」
《うぅ……私しか見てないって言ってたのに……右手側に進んでください》
おや、妬いていたのですか? そうならそうと言って貰えれば、いくらでも構ってあげたのですが……案内はしてくれる様ですね。
リーリアさんのそういう物分かりの良い所が好きです。ウルと同じ匂いがしますね……もしや多重性癖の持ち主でしょうか?
これは、小悪魔系リーリアさんが現実味を帯びて来ましたか? 早く介入を終わらせて、確認を急がなければ……
***
「誰が壁か」
「どうかしたのかしら? シクティス?」
「ん……邪な気配を感じた」
「そう。緊急じゃなさそうなら、話を戻してもいいかしら?」
「ん……ごめん」
私――シクティスは、カリンとの会談中にフィオドールの声を聞いた。しかも『壁』がどうとか……いや、所詮は幻聴……被害妄想かもしれない。
いけない。今はこの会談に集中しないと……『経験の園』へ行ってから、隙あらば彼の事を考えてしまっている。
けど、実際に会う勇気は無い。今の私が彼の前に立って、どんな発言をしてしまうのか……どんな顔をしてしまうのか、自分でも怖いから。
「そうね。そろそろ返事が聞きたいわ? シクティス……フィオの契約精霊になる決心はついたかしら?」
「ん……んん……」
「悩み過ぎは体に良くないわ? 盗聴も気にしなくていいわよ? 万全の結界を張ったもの」
「まだ……迷って――」
「返答に気を付ける事ね。わたくしは構わないけど、キリリスが黙っていないわよ?」
チリン――
「ふふ……」
「くっ……」
おかしい。絶対におかしい……なぜキリリス様がここにいるの? どうして彼の味方をしているの?
カリンとの会談は今回が初めてでは無い。何度か話して、私が『まだ迷っている』と伝えればそれで解散になっていた。
でも、今回は違う……今までとは何もかもが違う。明らかに脅しにきている……これはとても不自然。カリンらしく無い。
自分で言うのも何だけど、私はもう堕ちる寸前。後は決心さえついてしまえば……私はフィオドールのもの。
いつものカリンなら……こっちを煽り、焦らしに焦らして『やっぱり他の子と契約するわ?』くらい言いそうなのに……
「……理由を聞きたい」
「そうね? 貴女が私達に味方すると確証が取れたら話すわ?」
「……仮契約はしているはず」
「『誓約』が欲しいわね。内容は『次にフィオと会った時、本契約をする』でどうかしら」
「待つ。場所の指定がしたい」
「構わないわ? どこで初めてを迎えたいのかしら?」
「い、言う必要はない……」
私は水精霊だから、他の人とは趣向が異なる……『私の中に入って貰う』なんて誤解されそうで絶対に言えない。
話を整理する。カリンは焦っていると見て間違いない……その理由を聞くには『誓約』を結ぶ必要がある――つまり、彼と本契約を結ぶ事になる。
自分の気持ちに嘘はつけない。この条件を呑むのに抵抗が無い時点で……もう……
「『誓約』成立ね。理由を話すわ?」
「ん……聞く」
「フェリスに計画がバレた可能性があるの」
「……『誓約』を破棄したい」
「やってみるといいわ? キリリスの刀が抜かれるわよ?」
「鎧袖一触でありんす」
「……辞世の句は読める?」
「まだ“可能性”の話よ。諦めるのは早いわ? それに……もうすぐリーリアも仲間になるもの」
「ふふ……七階位でフィオ坊を囲う日も近いでありんすね」
「……天界の終わり?」
「正確には、『フェリスが統治する天界の終わり』かしら」
本気? いや、私もそのつもりではいたけれど……こんなに早く計画がバレてしまったら……
リーリアが仲間になったとしても、七階位が四人。フェリスを除いた残り二人がどっちの味方をするのかにもよるけど、そもそもフェリス単体だけで辛い。
相手はこの天界そのもの。出来る事なら全ての天使を味方につけた上で戦いたい……
「こちらに関与されない限り、隠密重視で計画を進めるわ? バレていないかもしれないもの」
「そう……リーリアはいつ?」
「フィオが上手く事を進めれば、今日中にでも仲間になるわ?」
「……無理そう」
「そんな事ないわよ? きっと今頃はリーリアも完全に堕ちてるわね? それでフィオに寝室へ運ばれているんだわ……羨ましい。今から行けばわたくしも混ぜてもら――」
「……はぁ」
「ふふ……恋煩いでありんすね」
カリンが陶酔状態になってしまった。これでしばらく戻って来ない。
計画を根本から見直すべき……フィオドールの行動に左右される計画じゃ、完遂に何年掛かるか分からない。いっそ彼は動かさず、私達だけで他の天使を仲間に引き入れた方がいい。
カリンが戻って来たらそう伝えよう……今回はどれくらい掛かるかな……




