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想起の鍵




「こ、これは夢……夢です……」


「マジか……本当に裸になっちまった」


「申し訳ありません。どうにも感情が昂ぶると能力が制御できず――」


「嘘です! 絶対に意図的です! 確信犯です!」


「な、なぁ……これって子供が出来ちまうのか? すげぇお腹が熱いんだ」


「出来ますね」


「出来ませんよ⁉︎ あ、いえ――わ、分かりません」


「……勉強熱心ですね。リーリアさん」


「あ、兄貴……身体が熱いんだ。これも兄貴の能力なのか?」


「か、介入! 介入しましょう! フィオ先輩!」



 後ろからしっかりと抱き着くサターニャさん、前で必死に局部を隠そうとするリーリアさん……いずれも私と密着しています。

 服を溶かした甲斐がありました。肌と肌が直接触れ合うこの感覚……絹の様に滑らかで、しっとりとした弾力もある魅惑の肌。

 なぜ女性はこんなにも柔らかいのでしょうか? 筋肉は一体どこへ? リーリアさん、ちょっと失礼します……



「フィオ先輩! し、仕事に戻り――あっ」


「え⁉︎ な、何してるんだ? 今の声ってリーリアが出したのか⁉︎」


「ふむ、不思議ですね。お腹も太腿もこんなに柔らかい……これでは歩く事も出来ないのでは?」


「あっ……あぁ……」


「み、見えない……歩けないってなんだ? リーリアは怪我してるのか⁉︎」


「いえ、毛が無いですね」


「あぅっ……み、見ないで――ひゃんっ⁉︎」


「そっか……怪我は無いのか……」


「ですが、もっと隈なく調べる必要があります。特にこの……正体不明の液体について――」


「そ、《操作》!」



 む? 意識だけが引っ張られて行きます……これが装置を使った介入ですか?

 私ともあろう者が、リーリアさんが操作権を持っているのを失念していました。完全に逃げ道を塞いだつもりでしたが……今回はしてやられましたね。



「あ、兄貴⁉︎ 大丈夫かよ兄貴⁉︎」


「問題ありません……私の体をお願いします」


「え、えっと……頑張ってください、フィオ先輩」


「任せてくれ! 兄貴の体は俺がしっかり見とくからな!」


「サターニャさん。リーリアさんをここから出さないでください」


「え……えっ⁉︎」


「任せてくれ! 兄貴が戻るまで、絶対にここから出さねぇからな!」


「頼みます。では、介入開始――の前にやる事がありますね」



 このままでは装置が壊れてしまいます。私以外の二人に怪我でもされたら一大事ですから、さっさと聖力を抑えなくてはいけません。

 四〜五階位相当でしたか? 造作もありません。ですが、能力については祈る他ありませんね……誰に祈りましょうか?

 私の女神であるカリンさんが最有力、邪神崇拝的な意味ではニールさんも良いですね……ウルは? ウルに御利益はありますか?


 くっ、意識が遠のいて行きます……祈らねば……ウルにしましょう。大穴狙いです――






***






《――ぱい! 先輩! 聞こえますか⁉︎ フィオ先輩⁉︎》



「……誰ですか?」


《そんな……き、記憶が⁉︎ ……リーリアです! 後輩のリーリアですよ!》


「リーリア……さん?」


《そ、そうです……私の事、忘れてしまったんですか?》


「くっ……お待ちください。この様な可愛らしいお声の持ち主、忘れる訳がありません」


《あぅ……か、可愛らしい……》



 私の名前はフィオドール。この異世界に介入する為、『介入補助装置』を使ってここに来た事は覚えています。

 しかし、頭の中に響くこの声……この声の持ち主が思い出せません。私の後輩? これでも私は古参の天使、つまり後輩だらけなのですが……

 ダメですね……後一歩のところで思い出せません。状況を整理してみましょう、何かの拍子に思い出せるかもしれませんから。



「……リーリアさん。こちらの観測は出来ていますか?」


《あ、はい! 見えてます! フィオ先輩を中心に、上空から見渡してる感じです!》


「了解です。では、地形情報からお願いします」


《はい! フィオ先輩の周囲は……見て分かる通り、一面が荒野となっています》


「また魔界……というオチではありませんよね?」


《ご安心ください! 件の反省を活かし、『魔力計測器』を使用しています! それによれば……周囲の魔力濃度は『低』、ちゃんとした小世界です!》


「なるほど……荒廃した異世界、という訳ですね」


《えっと、フィオ先輩が一番難しい介入先を選んでしまったので……お、覚えてますか?》


「はい。私のとった行動は記憶に残っています。ただ……どうしても人物像が思い出せません」


《記憶障害……一時的な物だといいんですが……わ、忘れられてしまうのは嫌です》


「ええ、私の直感も貴女を忘れるべきでは無いと告げています。記憶の想起にご協力ください」


《わ、分かりました! 一緒に記憶を取り戻しましょう……フィオ先輩!》



 ふむ……この会話に違和感は感じません。つまり、記憶を失う前も親しい関係だったという事。

 後輩と言っていましたから……六階位、いえ五階位くらいの天使でしょうか? 手の早い私の事です、きっと既に肌を重ねているのでしょう。

 意地でも思い出さなければ……リーリアさんはどんな声で鳴きましたか? きっと低身長ながら巨乳、小悪魔系後輩キャラに違いありません。


 思い出せ……思い出すのです私! クスクス笑いながら弄ばれた、あの甘美なひと時を――



《――先輩? フィオ先輩!》


「……申し訳ありません。思い出せそうだったのですが……」


《あっ、ごめんなさい。邪魔してしまいましたか?》


「いえ、構いません。任務に戻りましょう……荒野はどこまで広がっていますか?」


《え、えっと……すごい広がってます》


「……リーリアさん?」


《す、すみません! ちょっと待ってくださいね⁉︎ うーん……どこまでも荒野が続いてて――あ!》


「おや、何かありましたか?」


《はい! 人工的に作られたであろう壁を――》


「思い出しました」


《はっけ――え?……えっ?》


「思い出しました」


《えっと……フィオ先輩? 一応、聞いておきたいんですけど》


「はい」


《何を思い出したんですか?》


「『ケイレムが天位七階位、【裁雷】のリーリア』さんの事です」


《っ……うぅ、良かったです! ちゃんと思い出してくれたんですね⁉︎》



 はい。思い出したと同時に、小悪魔系後輩が消滅しました……いえ、まだ完全に消えた訳ではありません。

 望み薄ですが、リーリアさんがベッドの上で豹変する可能性もありますからね。それこそ、見下す様な嘲笑を浮かべて……

 『あれ〜? フィオ先輩……もう我慢できないんですかぁ? 戦闘ばっかりで、こっちの【経験】は全然足りて無いんですね。ほら、私の足が好きなんですよね? 早く舐めてくださよ』

 と言った具合に――許せませんね。それは許せません。



「リーリアさん」


《ぐすっ……はい、フィオ先輩》


「足でする時は、聖遺物である『ニーハイ』もしくは『ストッキング』の着用をお願いします」


《な、何の話ですか⁉︎》


「それと、私の【経験】はベッドの上でも最強の能力です。絶対に負けません」


《ベッドの――っ⁉︎ ほ、本当に何の話をしてるんですか⁉︎ えっ、記憶が戻ったんですよね⁉︎》


「戻りました。小悪魔系後輩キャラのリーリアさんですよね?」


《誰ですか⁉︎ 私は悪魔じゃないですよ⁉︎ 天使! フィオ先輩と同じ天使ですから!》


「……失礼。記憶が混濁していた様です」


《な、何の記臆と混じったんですか……こ、小悪魔って……あぅ》



 さて、冗談はここまでにしましょうか。予期せず記憶喪失になってしまっていた様ですね?

 原因は……十中八九、私が大量に能力を所持しているからでしょう。こればかりは仕方ありません……肉体が崩壊しなかっただけ良しとします。

 記憶も戻りましたし、早急に介入を終わらせましょう。ここからでは見えませんが、人工的な壁を発見したらしいですね? 詳しく聞くとしますか……



「そう言えば、先程リーリアさ――壁がどうのと言っていませんでしたか?」


《……フィオ先輩》


「この荒野に人工的なリーリアさ――壁。かなり怪しいですね」


《……フィオ先輩?》


「壁さん。人工的なリーリアの方へ案内していただけますか?」


《完全に言い切りましたね⁉︎ しかも入れ替わってます! 怒ります……怒りますよ⁉︎》


「失礼。どうにも記憶が混濁してしまって……」


《本当に失礼です……私だってちゃんとあります》


「……実は、小さい方が好みです」


《っ……だ、騙されませんから。そんなの嘘に決まってます》


「本当です。リーリアさん、『体は正直』という言葉を知りませんか?」


《……し、知りません!》


「そうですか……ではこの機会に学んでください。そちらの私が体現していますので」


《え……ま、まさか――ひっ⁉︎ きゃぁあああああああああ⁉︎》



 ふふ、リーリアさんと戯れるのは楽しいですね。願わくば、いつまでもこうして遊んでいたいのですが……残念ながら時間切れです。


 何かが向かって来てます。数は一つ、なかなかの移動速度です……人間ではなさそうですね。

 いえ、人間かどうかよりも先に確認するべき所がありました……女性ですか? 男性ですか?

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