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狐の魔眼、吸血鬼の誤算




「ちょ、ちょっとフィオ兄さん⁉︎ ここでやるのは不味いって!」


「そうだぞご主人様! と言うか今はまだ――」


「ふふ……《領域生成》」


「おや、その程度は私が負担しようと思っていたのですが……」


「わちきも伊達に長く天使をやっておりんせん。さぁ……ここは戦場(いくさば)になりんす故、巻き込まれたくなかったら《転移》しておくんなし?」


「そ、そんな……リーリア様を呼んで来ます!《転移》!」


「あっ、待ってセリー! て、《転移》!」


「うーん、僕は見てようかな。七階位同士の戦いとか滅多に見れないし……流石に僕なら大丈夫だよね?」


「私は退避した方が良いと思いますが……」


「わちきもそう思いんす」


「そ、そんな……七階位ってそんなにヤバイの? 僕には【黄昏】もあるんだよ?」


「……狐は時空ごと切り裂くし、ご主人様は能力を無効化できるな」


「ふーん? ……て、《転移》!」



 何もそこまで脅さなくても良いではありませんか。私もキリリスさんも、関係ない者にまで危害を加えたりしませんよ?

 それに《領域生成》も使っていますし……被害は最小限に抑えられるはずです。



「被害が出ないに越した事はないだろう」


「ふむ、そうですね……ウルはどうしますか?」


「止めても聞かん様だからな。実力行使に出る」


「なんと……ウルも加勢してくれるのですか」


「馬鹿を言え。カリン様を呼ぶんだ――《転移》!」



 なるほど、カリンさんを……これは時間が無くなりましたね。

 始めましょうキリリスさん、ウルが戻って来る前に決着をつけます。



「随分と強気でありんすが……どこまで加減いたしんしょう?」


「加減は必要ありません。今の私を見てください」


「……【魔眼】も使って良いんでありんすか?」


「ええ、私も人型に戻りましょうか……【憑依解除】」


「そう……わちきの事、嫌わないでおくんなし?フィオ坊」


「あり得ませんね。さぁ、来てください」



「……【操心の魔眼】」



 キリリスさんが閉じていた右目を開きます。透き通った紫色の左目とは対照的な、濁り澱んだ黒い右目……

 この魔眼を見るのも三度目ですか……そろそろ慣れても――無理ですね。憎いです。

 あの狐耳が憎い。派手な着物が憎い。動く度に鳴る鈴の音も憎い。見せつける様に開かれた胸元が――憎い。



「死んでください。【消滅の魔眼】」


「っ……フィオ坊!」


「速いですね? 大人しく消えてもらえませんか? 【雷神顕現】【風神顕現】」


「フィオ坊! もう目は閉じておりんす!」


「……【全解除】」



 三度目では耐性を獲得できませんでしたか……あと少し、あと少しで抵抗できたというのに。

 胸を見た辺りでもっと気を強く持っていれば【操心の魔眼】を克服し、キリリスさんと愛し合う条件が整っていたはず……くっ、着物を剥ぐどころか理性すら保てないとは。



「良いのでありんす……フィオ坊。わちきの魔眼は制御不可能……いっそこの眼を潰せれば――」


「もう一度です。キリリスさん」


「……フィオ坊?」


「四度、私の【経験】を貫いた能力はありません。次こそは必ず【操心の魔眼】に抵抗し、貴女を私のモノにします」


「……そんなの――」


「私の心を読んでも構いません」



 心を読めるキリリスさんになら分かるはずです……私は嘘を言っていません。

 かつて対峙したどんな能力も、【経験】を貫いたのは三度まで……先程使用した【雷神顕現】は『神』の名を称するに相応しい能力でしたが、この身を焼いたのは三度。それ以降は傷一つ付きませんでした。



「確かに……先の能力には肝を冷したでありんすが……」


「そうでしょうとも。『神』の一部ですからね」


「でも、わちきは抵抗を無力化する『宝具』を身に付けておりんす」


「関係ありません。私と……私の想いを信じてください」


「…………」


「このフィオドールにお任せください。必ず貴女を愛してみせます」



「そ……【操心の魔眼】」



 応えなさい私の【経験】……ここで恥を晒す様な真似だけは許しません。彼女の忌み嫌う魔眼をも愛し、私の想いは本物であると証明するのです。


 これは――憎い、憎いですね。



「フィオ坊……」


「はい……」



 ()()()()()()()()です。



「っ……フィオ坊ぉー!」


「っと……キリリスさん、泣かずとも良いではありませんか」


「うぅ……わちき、この目で……ひっく」


「大丈夫です。私にはもう魔眼は効きません」



 やはり四度……私の【経験】は四度目の敗北を知りませんね。キリリスさんの全力が込められた魔眼に抵抗できたのは良い経験になりました。

 そして……至福の時です。これがキリリスさんの胸……抱き着かれているはずなのに全身が密着していません。私とキリリスさんの間に隙間ができているのです。



「フィオ坊っ……フィオ坊……ぐすっ」


「はい、キリリスさん。貴女のフィオドールです」


「わ、わちきを……わちきをっ!」



 これは……いけますね? 明らかに感極まっている様子……そしてこの空間には私達だけ。

 さぁ、キリリスさん……脱いでください。それとも脱がされたいですか?



「わちきを抱いて――」


「ちょっと待つのじゃぁああああ‼︎」


「……キリリスさん」


「あっ……フィオ坊……んっ」


「んん⁉︎ ワシの声が聞こえとらんのか⁉︎ ま、待てと言っておろうに!」


「ふふ……わちきは初めてでありんすから、フィオ坊が導いておくんなし?」


「もちろんです。こちらに寝台を用意いたしました……どうぞ」


「和の物が好みではありんすが……これはこれで立派な寝具にありんすね」


「防諜結界か⁉︎ じゃがそんな気配はどこにも……」


「何でしたら、今からキリリスさんのお屋敷へ移動しても構いませんが……」


「野暮なこと言わないでおくんなし、フィオ坊。わちきはもう……」


「……失礼しました。では、力を抜いてください」


「のわぁあああああ⁉︎ 致すのはダメじゃ主人様⁉︎ ワシがカリンに殺されてしまう!」


「――ニール様! ご主人様は……な、何をやっている⁉︎」


「ウル! 防諜結界じゃ! ワシの声が届いておらん!」


「……いえ、ニール様。防諜結界は張られておりません」


「な、何じゃと⁉︎ ワシの知らん能力か⁉︎」


「その可能性もありますが……恐らくは無視されているだけかと」


「……ぐすっ」



 ウルまで戻って来てしまいましたか……これは場所を移す他ありませんね。

 キリリスさんをこれ以上待たせるのも可哀想です。私の寝殿――にはカリンさんが待ち伏せていそうですから、やはりキリリスさんのお屋敷へお邪魔しましょう。



「キリリスさん、貴女のお屋敷へ――っ⁉︎」


「フィオ坊……赤い天幕でありんすか? わちきはもっと落ち着いた色が……」

 

「いいえ……私の仕業ではございません。これは――」



「やってくれたわね?フィオ――いえ、フィオドール?」



 カリンさん……怒っていますか? ですが仕方の無い事だったのです。キリリスさんは堕ちてしまいました……

 しかし、まだ未遂です。その辺りに情緒酌量の余地がありませんか? あわよくば許可を頂けませんか? せめて一度だけでも……む、無理そうですね……

 62部『狐の狐乗り』より前に投稿した部分の表記を修正しています。

 内容に変更はございません、ご迷惑をお掛けします。


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