【黄昏】と猟犬
「うん? これ僕の能力じゃないね?」
「は、離してくれご主人様! 見られてしまう!」
「……嫌ですか? ウル」
「くぅ……二人きりがいい!」
そうですか……まぁウルは恥ずかしがり屋ですからね。こうして時間を止めないと素直になってくれない訳なんですが……
時空系統の使い手がいると私も好き勝手出来なくなってしまいますね。
「……来ましたか。ウル?」
「んっ⁉︎ ……キ、キスだけなんて……」
「ここだぁー‼︎ ……ん? ……んん⁉︎」
「お元気でしたか? クレフスさん」
「え……本物?」
「私と貴女以外で時を止められる方は……あまり居ないと思いますが」
「……名乗って貰おうかな? つい先日、魔族に侵入されたばかりでさ」
「構いませんよ。抱擁の準備をさせていただきます」
「んん! 僕は『ケイレムが天位六階位、【黄昏】のクレフス』さ!」
「私は『ケイレムが天位七階位、【経験】のフィオドール』です。用心深くて――」
「フィオ兄さーん‼︎」
「おっと」
【黄昏】のクレフスさん。小柄な体躯に特徴的な髪色……頭頂部は夜色なのですが、毛先へ行くにつれて茜色に変色しています。
そして抱きしめた時に感じる確かな膨らみ……あります。しっかりとありますね。
「んー! フィオ兄さん! 干渉局に来てたなら声を掛けてくれてもいいじゃないか!」
「これから全ての部署を回るところだったのですよ」
「なぁんだ、そうだったの? 僕のこと忘れちゃってたのかと思ってたよ」
「忘れてたな……」
「うん? ウルも久しぶりだね! 今日もお散歩かい?」
「オレは狼だ……いや、すぐに忘れるか」
「失礼な。僕は『僕と同じ時空で動ける人物』を忘れたりしないよ」
「……今までのはわざとだったのか⁉︎」
「あはっ……追いかけっこだね? こっちさ! 僕を捕まえてごらんよ!」
元気ですね? 長い時間を生きた天使は、段々と落ち着いた性格になって行くはずなのですが……
彼女の能力が影響しているのでしょうか? まるで子供の様な無邪気さを保ったまま……しかし、先程の様に用心深い一面もあります。
【黄昏】……時を止めるだけでは無さそうですね。
「くそっ! 狼より速いとはどういう事だ⁉︎」
「ふっふっふ……止まって見えるよ? ウルくん」
「……殺す許可をくれ、ご主人様。時空狩りの【猟犬】を放つ」
「あれは犬ではないと思うのですが……不許可です」
「ちっ……《瞬身》!」
「遅すぎるとも! これが……僕の! 最・高・速! だよフィオ兄さん!」
「っと、また腕を上げましたね?」
「ふふっ……フィオ兄さんはいい匂いがするね」
クレフスさんも良い匂いがしますよ。どこか哀愁を誘うこの香り……もしや前世で私達は本当の兄妹だったのではないでしょうか?
なるほど、ようやく会えましたね……私の妹よ。さぁ、兄にその成長を見せる時が来ました。
「あっ……ちょ、ちょっとフィオ兄さん? お尻に手が――」
「私としたことが……ご不快でしたか?」
「嫌じゃ……無いんだけどね? ほら、ウルが見てるからさ」
「ウル……ウル? 何故そんな部屋の隅にいるのですか?」
「見てくれご主人様。この角度なら呼べると思わないか? ほら、鋭角だぞ」
「ふー……【猟犬】か。狙われなくなって久しいから、体が鈍ってないか心配だよ」
「ふむ、ウル……失礼します」
「何を……んんっ⁉︎」
《何してるんだご主人様⁉︎ クレフスが見てるのに――し、舌まで⁉︎》
私達の熱烈な口付けを見せつけるのです、ウル。
クレフスさんは貴重な時空系。ここで堕とすのは無理だとしても、せめて異性を意識させる為に嫌でも付き合っていただきますよ。
《……》
《……ウル?》
「フィオ兄さん? ウルは……どうなっちゃたの?」
「無理が祟ったのでしょう。事切れてしまいました」
「う、嘘……キスで死んじゃうんだ」
「い、生きてる……」
「生きてた!」
《ご主人様……ダメだ。扉が見える。開けちゃいけない扉が……》
また嗜好が増えるのですか……使徒の中でもウルだけですよ? そんな複数の性的嗜好を抱えているのは。
カリンさんは血液と加虐趣味。ニールさんが束縛と被虐性欲で……ウルが仮装、羞恥、窃視、体臭……そして露出ですか?
誰かの為に集めているのでしょうか……配るのですか? それともあと二つで願いが叶ったり……
《すまない……しばらく動けそうもない》
《仕方ありませんね。そこで休んでいてください》
「フィオ兄さん、ウルは大丈夫なの?」
「ええ。私の口付けが刺激的過ぎたのでしょう」
「そ、そんなすごいんだ……うん。確かに気持ち良さそうだったよ」
「興味がおありですか?」
「や、やめておこうかな! ……ウルが耐えられないんじゃ僕も無理だろうし」
「そうですか……でしたら私と時間を潰しましょう」
「いいけど、何するのさ?」
「猟犬と追いかけっこがしたいのでしたね? 私が猟犬になりましょう」
確か形は持たないのでしたね、そして四足歩行……悪臭はやめましょう。
毒は……服のみを溶かすことにしましょうか。クレフスさんの匂いは先程嗅ぎましたから、覚えていますよ?
「な、成れの果て⁉︎」
《私が触れたら服が溶けていきますので》
「ひ、卑猥すぎないかな? まぁ……僕は簡単には捕まらないよっ!」
《ふふ……まずは一枚》
「……っ⁉︎ フィ、フィオ兄さん?」
《何でしょうか? クレフスさん》
「どうやって……ローブ越しに下着を溶かしたのさ?」
《今の私は、時空を超越していますから》
「ウ、ウル! 早く起きて⁉︎ 僕が剥かれる!」
「くくっ……いい気味だ。クレフス……」
「薄情者ぉ! 狼は仲間意識が強いんじゃないのか⁉︎」
「案ずるな……お前は仲間だ。クレフス」
「っ……ウル! 信じていたよ……さぁ! 一緒にフィオ兄さんを止めよう!」
「いいや、仲間だから一緒に剥かれてやる……見ろ。オレはもう……」
「い、いつの間に――わぁ⁉︎」
《二枚目……》
これで残すは純白のローブのみ……滾ってきましたね。
クレフスさんはローブを抑えているせいで速度が落ちています。むしろ押さえつけている事で強調されているのに気付いていない? 眼福です。
「ふっ……流石だねフィオ兄さん。まさか僕をここまで追い詰めるとは」
《観念しましたか? クレフスさん。大人しくしているのなら、丁寧に剥いて差し上げます》
「残念だけど、僕はそこまで安い女じゃ無いんでね……【黄昏】!」
「時空系ですか? 無駄です。今の私は猟犬……おや?」
《またねー! フィオ兄さん! 今度は二人きりの時に誘ってよ!》
能力の強制解除? 【擬態】が解けてしまいました。クレフスさんの居場所も追跡できない……
ウルはどうですか?
「少し待て……ダメだな。この付近には居ない」
「《転移》を使用した形跡はないのですが……あれが【黄昏】ですか」
「初めて見るのか?」
「いえ、見たことはあります。ただ私自身に対して使われた事がありませんでしたので……」
「……“使われた”と認識できたのか」
「ええ、しっかり【経験】させていただきました」
「やってくれ。このままじゃ剥かれ損だ」
「影の中へ入りますか?」
「いや、衣服を編み出す……よし。いいぞ?」
「では……【黄昏】」
***
「まったく。フィオ兄さんはエッチなんだから……あと少しで襲われちゃう所だったよ」
「「……」」
「でも、僕にはこの【黄昏】があるからね! フィオ兄さんは【経験】だから、そう何度も効かないけど……少なく見積もってあと二回くらいは遊べるかな?」
「「……」」
「にしても、ウルの胸大っきかったなぁ……それに僕の前であんなキスまでしちゃってさ。羞恥心ってものが足りないよ」
「……」
「でも僕だって脱いだらすごいし? フィオ兄さんが見たら、我を忘れて求めちゃうだろうなぁ……ふふっ、僕は罪な女だよ」
「誘惑する時は……こう? いやもう少し角度をつけた方が色っぽく見えるかな? 後は下着も際どいの用意しないと。ローブの丈も――」
「やってくれ、ご主人様」
「【麻痺の魔眼】っと【発情の魔眼】」
「――んぐっ⁉︎」
「さて……“罪な女”クレフス。お前の羞恥心が試される時だ」
「んぁ……フィオ兄ぃ?」
「どこまでやりましょうか?」
「堕とす直前までで良いだろう。仮にも六階位だ……そこそこ影響力がある」
加減は苦手なのですが……うっかり堕とさない様に気を付けねばいけませんね。
クレフスさんには申し訳ありませんが、今回はウルも一緒に責めます。恨むのならご自分の発言を恨んでくださいね?
「ふぃ……ふぉふぃ?」
「おい、効き過ぎじゃないか?」
「魔眼は調節が効き難いので……麻痺を解きます」
「好きだ! フィオ兄さん!」
「【影縫い】」
「んっ⁉︎」
「初めからこうしていれば良かったですね?」
「そうだな……早速始めるぞ」
まだ案内の途中ですからね。【黄昏】も燃費の良くない能力の様です……早めに切り上げましょうか。




