閑話 『本音花』④
「そういえば、もうすぐ貴女と仲の良かった人物が帰ってくると思うわ?」
「……へ?」
「……何かしら? 消滅したとは一言も言っていないわ?」
「い、生きてる……の?」
「生きてるわよ? 今はウーナと名乗っているのだけど、貴女はいつもウーナを姉の様に慕って――」
「う゛……よ゛……良がっだ!……良かったぁ!」
「……ふふ、ウーナも貴女を見たらきっと喜ぶわ?……ね、フィオ?」
「ん゛⁉︎」
「ええ、ウーナさんも喜び……舞ってくれるのではないでしょうか?」
「フィオドール……み、見ないで」
泣き顔を見られるのはダメ……恥ずかしい。
それに舞うって何? 私が慕っていた人物ならそんな真似しない……はず。
「ウーナさんの舞はいつ見ても素晴らしいものですからね……もしかしたら記憶が戻るのでは?」
「ただ今戻りました――私の話ですか? 舞……と聞こえましたが」
「おかえりなさい。ウーナさん……シクティスさんが来ていますよ」
「シクティス……シクティス⁉︎ あぁ……シクティス!」
「むぐっ⁉︎」
《転移》で現れた長い黒髪のメイド――ウーナという人物に抱き締められた……く、苦しい。けど、彼女の匂いは落ち着く……不思議。
顔を動かし、何とか呼吸できる空間を確保する――胸が大きい……敵では?
「シクティス……あぁ、こんなに大きく――なっていませんね?」
「【氷嵐】!」
「ふふ……ごめんなさい、冗談ですよ。天使は成長しませんからね」
「むぅ……」
私の【氷嵐】が全然効いてない……それに、ウーナはこのやり取りすら懐かしんでいる様な素振りを見せている。何故か私も懐かしい……知らないはずなのに……
「ウーナさん、ここは是非……あれを」
「はっ⁉︎ そうでした……僭越ながらこのウーナ、舞わせていただきます」
「ほ、本当に舞うの……」
「ウーナの舞は久しぶりね? 楽しみだわ?」
「カリンさんはどの楽器にしますか? 私は笛にしようと思うのですが……」
「そうね? わたくしは……打楽器にしようかしら。シクティスは?」
「え……何?」
「決められないの? なら弦楽器から適当に選んでちょうだい」
「いや……え?」
「カリン様! トリスも打楽器がいいっす!」
「いいわ? 一緒に奏でましょう」
「トリア的には弦楽器が良いのだけど――あ、ちょっとトリス! 勝手に体を動かないで!」
「な、何これ……」
「では……参ります!」
そして突然始まった演奏会……いや、演舞会? 皆が思い思いに音を奏で、ウーナがそれに合わせて舞う……
打ち合わせもしていないから統一感なんて無い。お陰でウーナは舞を合わせるのにも苦労している様だ……
「み、見ていられない……私に合わせて」
フィオドールが用意したであろう弦楽器の一つを手に取り、私も演奏へ参加する。舞というくらいだから……きっと曲調はゆったりしたものが良い。
私が参加したことで徐々に演奏組が形になって行く……打楽器の一部――トリスが抵抗していたけど、途中から綺麗に合わせて来た。多分トリアに体の主導権を奪われたのだろう……
私が奏で、ウーナが舞う……なぜ? 自然と涙が溢れる――
「ふふっ……」
「ん……」
ウーナが目で感謝を伝えてきた……い、いいから舞に集中する! 私が参加したのに、下手な演舞でもしたら許さないから……
でも……メイド服じゃそれも難しいか――
「ふっ!」
「んん⁉︎」
と思ったらウーナが脱ぎ出した。思わず手を止めてしまいそうになる……けど私が演奏を止めたらまためちゃくちゃに――
「はっ!」
「っ……」
とうとう下着姿になってしまった。いくら舞い難いからってそれはどうなの? フィオドールもいるのに……彼は――ああ⁉︎ やっぱり見てる! 目を見開いて凝視してる!
「やっ!」
「すとっぷ‼︎」
「くっ……良い所で止めますね? シクティスさん」
あ、危なかった……まさか下着まで脱ごうとするなんて……フィオドールも分かってて止めなかったの? この変態……
「もう、シクティス……舞はこれからが本番なのですよ?」
「ウーナ……何故脱ぐ」
「もちろん、その方が気持ち良くなれるからでございます」
「っ……フィオドール!」
「私は何もしていません。ウーナさんは元からこうでした」
「嘘っ――ではない……か」
フィオドールは『本音花』入りのお茶を飲んでいた……今の彼は嘘がつけない。じゃあこれは変態二名による共演? いや、よく考えたらここは変態だらけだった……
「まずはウーナさんが脱ぐんすよ! その後は――」
「トリスさん、少々黙っていて貰えませんか?」
「むごっ」
「……フィオドール? 説明する」
「いえ……ただ一人ずつ裸になって全員で一体感を出す、というか私と一つになってしまうだけで……ふむ、何かおかしいですね?」
「へ、変態がすぎる……」
彼が自分の発言を訝しんでいる様だけどもう遅い。どうやら私はとんでもない演舞会に参加していたらしい……こんなので涙を流してしまった自分が憎い。
このままここに居ては変態達に汚される――
「さ、シクティス? 分かったら続きをいたしましょう」
「いや、ウーナ……私は――んん⁉︎」
か、体が勝手に楽器を手に取ってしまう……何故⁉︎
辛うじて動かせる顔で周囲を見渡す――見えた! 私の体に光る何かが絡み付いている……これは……糸?
「ふふ……【人形劇】でございます。私の射程圏内に留まったのは愚策でしたね?」
「に、【人形劇】?」
「はい。今のシクティスは私の操り人形……そも、存在を消されては知る由もありませんでしたか……」
「くっ……【氷嵐】!」
「無駄でございますよ? シクティス。これだけ近ければ貴女の聖力も操れますから」
「そ、そんな……」
「ぷはっ! 続けるんすか⁉︎ よーし、トリスも脱ぐっすよ! こう見えて脱いだらすごいっすから!」
「知っていますよ。トリスさん、着痩せするタイプですからね?」
「あぅ……せ、積極的っすね我が主人! 今日はトリスからっすか⁉︎」
「いえ、何故か思った事が口に出てしまいまして……」
「ねぇ、フィオ? わたくしの事はどう思っているのかしら?」
「もちろん、心の底から愛おしく思っていますよ。私の女神」
「んぁ! いい……いいわ! わたくしを抱いて! フィオ!」
「せっかくです、シクティスは最後に抱いてもらいましょう……私も付き添いますよ?」
「ま、待って……」
このままでは本当に最後まで至ってしまう……は、初めてがこんな多人数でなんて……
私の初めて……初めては――
「初めては二人きりで、彼に甘やかされながら契約したいの!」
「なっ……」
「二回目は少し強めに責めて欲しくて、三回目は私が責めたいの!」
「シ、シクティス……?」
「四回目からはアブノーマルなプレイがしたい!正直こんな風に縛られて興奮してる!」
「シクティス? す、少し落ち着いてくださいませ……」
「っ……わ、私……なんで?」
まさか『本音花』が今更効いてきたの? 少量だから効果が発揮されるのが遅かった? ……し、死にたい。
彼の前でこんな発言……変態なんて罵っていたのに。
「彼のこと変態って罵る度に興奮してた。逆に言われてみたいとも思ってる……殺して」
「シクティスさん……最高です」
「見ないでフィオドール……【発情の魔眼】なんて無くても、私は貴方に見られるだけで発情してしまうから……早く殺して」
「私が腹上死してしまいそうです……シクティスさん」
「その時は私も一緒に死ぬ……でもいっぱい気持ち良くして……誰か助けて」
「シクティス……もう【人形劇】は解除しております」
「ウーナ……三人でするのも悪くないと思っ――《転移》!」
***
「行ってしまいました……結局何だったのですか? カリンさん」
「そうね……『本音花』って知っているかしら?」
「ええ、名前くらいは知っていますが……なるほど?」
「耐性が獲得できるまで付き合うわ? フィオ」
「ありがとうございます。カリンさんもいかがですか?」
「貴方の前で飲んでも変わらないと思うけど……そうね? 耐性が付くまで頑張ろうかしら?」
「ふふ……今度はニールさんやウルも誘ってお茶会をしましょう」
「楽しそうだわ? 絶対にわたくしも呼んで頂戴ね?」
「もちろんです。『本音花』……有効活用しなくてはいけませんね」




