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閑話 『本音花』③



「トリス的には……我が主人に危害を加える方はお客様扱いできないっすね」


「……貴女も元天使?」


「詳しいっすね? もしかしてトリスの後釜っすか?」



 黒髪のメイドが嵐を抜けて来る……見た所傷一つない。手には私の腕へと続く鎖を持ち……あれは鎖鎌? また珍しい武器を見た。



「久々のお客様なのに……せっかくトリスがお茶を淹れたんすよ? これじゃ凍って飲めないっす」


「ん……ごめん、ついカッとなってやった」


「うーん、後輩ちゃんにはちょっと反省して貰うっす!……お覚悟っすよ」


「っ⁉︎」



 鎖で引き寄せられ、鎌が振るわれる……でも氷の鎧を貫く程の威力は無い。筋力で負けている以上、この鎖に巻き付かれたままなのはまずい……氷の剣を生成、断ち切る。



「っ……切れない」


「防御は及第点っすけど……水系統しか扱えないんすか? ……ダメダメっすね」


「……侮るな」



 身体を液状に変質させて鎖から逃れる。私は元々水精霊……肉体を持つ方が不自然。天界では物に触れる機会が多いから受肉しているだけで、水精霊としての身体を失ったわけじゃ無い。


 物には触れないけど、私は水精霊の体の方が喋りやすい。懐かしい身体……



「元水精霊の天使っすか……面白い。次はトリスも能力を使うっすよ?」


「本気で来るといい、元天使……七階位の力を思い知らせてあげる」



「あは……()()()元七階位なんですよッ!」


「なん――くぅ⁉︎」



 右腕に鋭い痛みが走る……鎖鎌? 違う。鎌も鎖分銅もこの身体には痛みなんて与えられない……聖力を循環させても異常なんて無い……錯覚? もしくは痛覚だけを刺激する能力。



「元七階位で……天界に尽くしていたのに……それが今はッ!」


「《氷結界》……っ!」



 《氷結界》じゃ防げない……また痛みが走った。今度は両足を切断されたかの様な痛み……相変わらず異常は無い。どうなってるの……



「天からは見放され……種族すら奪われ……あまつさえッ!」


「くっ……《大氷連槍》!」



 来ると分かっていても硬直してしまう……彼女の武器を無力化できる身体じゃなかったらとっくに仕留められている。


 氷の槍も難なく避けられる。点ではなく面で攻撃するべきか……



「討とうとした変態に……身体を弄ばれるッ!」


「それは……」



 同情して攻撃が鈍ってしまう。無理矢理は良くない……彼女も何故か攻撃して来なかった。


 恐らく、先に仕掛けたのは彼女達なのだろう……フィオドールのした事は正当防衛。けどあの騒動からずっと罪を償い続けている……もう赦されて良いのではないだろうか?



「それが……それが何よりも一番……」


「ん……私から口添えしてみる」



 もうこのメイドから戦闘の意思を感じない……辛かったのだろう。誰かに分かって欲しかった……気づいて欲しかったのね?


 もう大丈夫。私が次の天議会で議題に――



「いっちばん気持ちいい‼︎」


「《氷爆風》」


「ぶはっ⁉︎」



 ……そんな気はしていた。彼のメイドを務めているし……絶対に何かあると思っていた。けど最低なことには変わりない……私の同情を返して。



「ちょっと()()()! せっかく途中まで格好良かったのに台無しっすよ!」


「仕方ないじゃない()()()! 私達は体も心も正直なのよ!」


「それでも時と場合によるっす! あぁ……現七階位を倒せそうだったのにぃ!」


「精霊の身体は相性が悪いわよ……種族が残ってたら勝てたでしょうけど」



 打ち所が悪かったかもしれない……一人二役で話し始めてしまった。

 ど、どうしよう……フィオドールにメイドを壊した事で嫌われてしまうかも……



「はいはい……そこまでよトリス、トリア?」


「カ、カリン……」


「ありがとうシクティス。わたくしは十分聞きたいことが聞けたわ?」


「ん……けどメイドが……」


「メイド? あの二人がどうかしたのかしら?」


「……二人?」



「言ってなかったわね? トリスとトリア……彼女達は二人で一つの肉体を共有しているの」


「……二重人格?」


「違うわ? 彼女達は元から別々の個体……二人で一つなのであって、一人が二つに別れた訳ではないの」


「種族? それとも個人?」


「両方ね? もう種族は失ってしまっているけどそのままだし……◼︎◼︎族って――はぁ」


「な、なに? 今の……」


「フェリス……ここまでしなくともいいでしょう?」


「フェリス様? ……もしかして……」


「ええ、種族を……天界から存在を消したのはフェリスよ? 種族名まで消されているとは思わなかったけど」



 種族名が消される? それは同じ種族だった他の天使も困ってしまうのでは――待って。そんな……まさか……



「ねえカリン……種族を消すって……」


「気付いたかしら? そうよ。彼女達と同じ種族の天使、使徒は皆消されたわ? 誰の記憶にも残らずね?」


「嘘……」



 そんな事が……いくらフェリス様とはいえ一天使に可能なの? それに騒動に加担していない天使達まで消されている?



「もう覚えているのはわたくし達……【経験】を持つ者だけ」


「何故……フェリス様は……」


「再犯防止だそうよ。良かったわね? 精霊族が加担していなくて」


「……笑えない」



 冗談にもなっていない……精霊が『フィオドール討滅戦』に参加していたら、私まで消されていた? 背筋が凍る……もしかしたら、私の親しい人物も消されているのかもしれない。



「当然、フィオは消されそうになった者達の保護を申し出たわ? けど、救えたのはたった三人……いえ、トリスとトリアは別々だから四人かしら?」


「誰も……思い出せない」


「言っても無駄でしょうけど……貴女と仲の良かった◼︎◼︎◼︎も――ほらね?」


「い、や……嫌ぁっ!」



 消されてる……何も覚えてない……“仲の良かった”? 天使……それとも私の使徒?

 思い出せない。消えてしまっている。なんで……どうしてそんな酷い事ができるの⁉︎



「フェリス……許せないっ!」


「わたくし達は、フェリスの独裁を崩す計画を立てているの……協力してくれるわね?」


「無論……絶対に報いを受けさせる」


「ありがとう、シクティス」


「ん……敵討ちだから」



 知らなかった……カリン達がそんな計画を立てていたなんて。きっと秘中の秘……私を『経験の園』へ連れて来たのもこの話をする為?


 何にせよ、この信頼を裏切ることは出来ない。絶対にフェリス様――いや、フェリスを……討つ。

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