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閑話 『本音花』②




「フィオ? ちょっといいかしら?」


「ん……覚悟する」


「おやおや、シクティスさんまで……ここは私の寝室。ついにこの時が来ましたか」



 私――シクティスとカリンは彼の寝室へ来た。

 いや、これは寝殿? 宮殿の一部ではあるけれど、ここ自体が一つの建造物として機能している。


 恐らくここを中心に領域を広げたのだろう……もしかしたら宮殿は副産物なのかもしれない。そう思わせるほど、ここは彼の聖力で満たされている。

 普段の彼を見る前にここへ訪れていたら平伏していた……圧倒的な聖力差を感じる。


 しかし、それだけ聖力で溢れた空間なのに何も無い。あるのは大きなベッドだけ……広大な部屋の中心にポツリと佇んでいる。



「苦労したわ? フィオ、まずはお茶にしましょう」


「ん……飲む」


「ふむ、会話でその気にさせてみろ……という事ですか」



 彼が勘違いしていそうだけど、好都合。ここはカリンに合わせて共同戦線を張ろう……でも、ここには椅子もなければティーセットなんて――



「どうぞ、こちらへお掛けください……お嬢様?」


「んっ⁉︎」



 いつの間にか現れた椅子を彼が引いている。傍には品の良いテーブルとティーセットまで? 何をしたのかまるで分からない……勧められるがままに座ってしまう。



「わたくしは動かないわよ? フィオ」


「……なるほど。では、失礼します」


「あっ……」



 彼がカリンをお姫様抱っこで席まで運んでいる……私も動かなければ良かった。



「ぁ……ありがとう、フィオが淹れてくれるの?」


「それも良いのですが……給仕の方も欲しいですね」


「ん……トゥアエ?」


「トゥアエはしばらく動けないわ? わたくしが一撃入れてきたもの」


「んん⁉︎」



 私が見ていない所でメイドが沈んでいる……それじゃ『本音花』を仕込めないのでは? 彼のお茶にだけこっそり入れる? む、難しい……



「そうなのですか? ウーナさんには私が仕事を頼んでいますので……」


「ならトリスに任せましょう。フィオ、呼び鈴は?」


「少々お待ちを……ああ、ありました」


「……ん?」



 彼が取り出したのは何の変哲も無い呼び鈴……銅製? 鈍い輝きを放つそれからは聖力を微塵も感じない。

 まさか小世界から持ち込んだ? 物を持ち帰るのは禁止されている……これは見過ごせない。注意しなければ――



リンリン――



「お呼びっすか⁉︎ 呼んだっすよね⁉︎ トリスのこと呼んだっす!」


「っ⁉︎ ……だ、誰?」


「はい、呼びました。トリスさん」


「相変わらず元気ね?ただ、爛漫過ぎてついつい消したくなってしまうわ?」



 現れたのはまた黒髪のメイド……ただトゥアエより髪が短い。黙っていれば貴族の令嬢にも見えそうな容姿なのに、快活な性格がそれを邪魔している……おてんば娘?



「むむっ……給仕っすね? トリスの目は誤魔化せません!」


「はい、お願いしてもよろしいでしょうか?」


「まっかせて下さい我が主人! トリスはお茶を淹れるの得意っす!」



「……お茶にはこれを使ってちょうだい」


「んん? 何すかこの花……あれ? これ『本音――がはっ」


「っ⁉︎」



 トリスと名乗ったメイドがいきなり吐血した……カリンが何かしたのだろうか? そんな事したらフィオドールに怪しまれてしまう……か、彼の反応は?



「……」


「……ん?」



 気にした様子も無い……それどころか顔を向けてすらいない。ずっと私の方を見て……どこを見てる? 目を閉じているせいで視線が分からない。


 そもそも彼は視覚で物を見ているのだろうか?



「フィオドール……目を開ける」


「……よろしいのですか?」


「っ……何かあるの?」 



 そうか……魔眼、聖眼を持っている可能性を考慮していなかった。恒常的に能力を発揮するものなら周囲に影響が出る……それでいつも目を閉じていたの?


 でも……彼の瞳が見たい。滅多に見れないから……



「いい……私に見せて」


「……分かりました。悪い影響があったら言ってください」


「ん……」



 数は少ないけど彼の瞳を見た事が無い訳じゃない。その時には影響なんて何も無かったし、私のには効かない……もしくは抵抗できる程度の物なのかもしれない。


 露わになった彼の碧眼を直視する……やはり影響なんて無い。



「ん……平気みたい」


「そうですか? 私は複数の聖眼を所持しているのですが……」


「ふふ……私には効かない……残念?」



 彼程の実力者が扱う聖眼に抵抗できる……ここに来るまでに喪失しかけた自信を取り戻すことができた。ふふ……七階位だから……抵抗できて当然。



「では魔眼に切り替えて見ましょう」


「……ん?」



 切り替える? それに魔眼も持っているの? 複数の聖眼を所持しているだけでも異常なのに……やはり彼は別格の――



「んんっ⁉︎」


「やりました……絶景です」



 突然体が痺れだした。思考もぼんやりとして何も考えられない……

 緊急時用に待機させていた聖術を発動――聖力の循環を高速化、肌の表面を氷で覆う……



「我が主人! お茶っすよ――って何してるんすか⁉︎ 目開いてるっすよ⁉︎」


「許可をいただきましたので……お茶、いただきますね?」


「ぐっ……平気……」


「いや全然平気そうに見えないっすよ⁉︎ いかにも最終防御形態って感じっすよ⁉︎」


「楽しそうね? フィオの魔眼で遊んでいるの?」


「ん゛……七階位の戯れ」



 まだ……まだ耐える。彼がお茶を飲もうとしている……片時も私から目を離そうとしない。つまりお茶の中を窺い知ることもない……ふふ、これで私の勝ち。


 彼がカップを口へ運び、その喉が今――動いた。



「わ、我が主人……トリスは悪くないんすよ? カリン様に脅されて……」


「飲んだわね? フィオ、わたくしの質問に――」


「待つ……まずは私が聞く……一番頑張った」


「ふむ、美味しいですね。流石はトリスさんです」


「えへっ……やだなー我が主人! そんな褒めないで欲しいっすよ! もう一杯どうっすか?」


「いただきましょう」



 『本音花』を使ったお茶だと知らずによく飲む……そろそろ効いた? まずは軽めの質問で様子を見る……



「フィオドール……今発動している魔眼を教える」


「魔眼ですか? そうですね……まずは【麻痺の魔眼】」


「ん……体が痺れたのはそのせい」


「次に【発情の魔眼】」


「あ、危なかった……」



 思考がぼやけたのは発情していたから? 緊急用の聖術を組んでおいて本当に良かった。なんて危険な魔眼なの……彼に持たせちゃいけない代物。



「あとは【透視の魔眼】ですかね」


「……変態フィオドール……どこまで見えてる」


()()淡い水色の下着までしか見えていません」


「……私が氷を纏う前は?」


「白雪の如き玉肌を堪能させていただきました。もちろん、丘の果実も――」



「【氷嵐】ッ!」



 思わず能力を発動させて彼の視界を遮ってしまう。私を中心に氷晶の舞う嵐を生成……これで魔眼の効果も打ち消せるはず。

 そ、それにしても見られすぎている……流石に恥ずかしい。まだ私にそこまでの覚悟は無い……見せるなら本契約の時に――ッ⁉︎


 私の腕に鈍色の鎖が巻き付いている……【氷嵐】で凍らない? 加減しすぎた……

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