龍人の誇り
《あはは! 何だこの身体⁉︎ バカみたいに力が湧いて来やがる!》
アグラと戦っている戦乙女から《念話》が飛んで来ました。
彼女は今、アグラの抵抗を躱しつつ感触を確かめる様に技を繰り出しています。そのどれもが彼女の姿が霞む程に速く、アグラの体には無数の凍傷が残像と共に刻まれていきます。
《フィオドールの旦那! 具体的な希望は無いのか⁉︎ アタシの好きに決めちまうぞ⁉︎》
《……お任せしますよ。くれぐれも美しくお願いします》
突然《念話》まで使い出した戦乙女に混乱してしまいましたが、今はアグラを討つ方が先決ですね。
それに彼女がどの様な技で決めるつもりなのか、少なからず興味があります。
過去に招いた戦乙女は武器の要求なんてしませんでしたから……
《よし! 折角だからこの力、全部使い切ってやんよ!》
《そんな技があるのですか?》
《アタシの体も砕けちまうが……あんたならまた呼べんだろ。龍人の旦那に呼ばれたんだ、今使わなきゃいつ使うんだって技があるぜ?》
……龍人? ああ、私【擬態】したままでしたね。
それにしても、私の聖力で作られた体が崩壊する程の一撃ですか?それは是非見せて貰いましょう……
【経験】の足しにもなりそうです。例え体が壊れても……彼女の言う通り、私ならまた呼べるでしょうから。
《念の為、ちょっと離れときな? この槍……【龍殺し】っぽいからな。核に届いたら死んじまうぞ?》
《ああ、私は龍人ではございませんので、この位置で大丈夫です。むしろ巻き込んでくれてもいいですよ?》
《……ひょ、ひょっとして旦那……変態なのか?》
《よく分かりましたね。次は肉のある体で呼びますから、覚悟しておいてください》
《そういうのは得意じゃないんだ……本当に巻き込んじまうぞ?》
《構いません。やってください》
《あ、待て待て! オレは巻き込むんじゃないぞ⁉︎》
ウルを忘れていました……まあ大丈夫でしょう。何事も経験ですよ? ウル。
***
「忌々しい槍だ……」
氷像の持つ槍が氷で覆われていく。既に幾度となくこの身に受けたあの槍……俺の龍鱗を容易く貫き、氷の力を流し込まれている。
氷像自身の動きも一段と良くなっている……強化された目を以ってしても、残像しか捉えることが出来ない。
攻撃を受けた瞬間の反撃を試みてはいるが……一度も成功していない。
状況は不利……果たして魔力の回復まで耐えられるだろうか……
「う、け……て……みろ」
「ふん……当然、そう来るだろな」
これまで速度で圧倒して来た氷像が、初めて溜めの動作を取る。
今までは俺に反撃の手段が無いことを確かめていた、という事なのだろう。
奴が次に放つは渾身の一撃……魔力は心許ないが、最悪《転移》で逃げる事も視野に入れなくてはな。
「ふ……ぐっ……」
「……なんだと?」
槍を覆った氷が氷像の体をも包み込んでいく……あれではまともに槍を振るう事など出来まい……いや、それだけに止まらんだと⁉︎
氷の侵食は止まらず、今度は奴の体との境界線を越えて新たな氷像へと体を造り替えている。
みるみる氷像は形を変え……その姿は何倍にも膨れ上がっていく。
俺の背丈などとうに越え、徐々に精巧な姿へと変化する氷像……今のうちに攻撃してしまうか?
いや、だが……この姿は――
「く、龍……け、ん……現」
「ふはっ……ふははは!」
やはり、やはりそうだ! 俺がかつて拝んだ赤龍様と姿は違うが……間違いなく龍を模している。俺の知らん祖龍様なのだろう……
どの色を司っているのだろうか? フィオドールが黒い鱗を持っていたから……黒龍様か?
奴に聞いてみたい気もするが……ここまでの物を見せられて、間を挟むのも無粋だな。
龍を模した事で初めて感じる威圧感……無機質な眼差しもそれを引き立てている。そうか……この氷像はそれだけの力を持っていたのか。
そしてそれを操るフィオドール……奴もまた七階位に恥じない実力を持っているのだろう。
これは……はぐれ者扱いした事を謝らねばなるまい。
「見事だ。『龍人』フィオドール」
「ち、れ……」
氷で出来た龍がその身を躍らせる。顎を開き、俺を一飲みにするつもりなのだろう……だが避けん。
これは奴と俺の誇りを懸けた勝負なのだ。これは奴の龍人としての誇り。ならば俺は自身の誇りを以って受けるのみ。
「【龍火砲】!」
俺の全霊を込めた一撃は氷の龍に当たり――虚しく散らされた。
次の瞬間に激動する視界、体の熱が一瞬で奪われていく感覚……そうか、負けたか。
だが魔界に堕ちて、他の祖龍様を拝むことが叶うとは思わなかった。
感謝するぞ……フィオドール。最期にお前の様な龍人と戦えて、良かっ――




