氷晶に響く
「綺麗……」
フィオドールの戦いを観測していた私――シクティスは、思わず呟いてしまった。
情けない事に、彼の使った能力は殆ど私の知識に無いものばかりだった。
何故魔界の空が晴れたのか、アグラの放った【龍火砲】をどう対処したのか。見ていたはずなのに結果しか分からないなんて……
でも……目に映る光景が幻想的過ぎて、そんな事も気にならなくなってしまう。
魔界に降り注ぐ光……それを受けてキラキラと乱反射する氷の結晶……金色の翼を広げる彼。
そして彼の前に佇む氷の像……急に現れたけど、あれは一体……
「……動いた?」
氷像が動いた。彼が動かしている?いや、それにしては動きが妙だ。まるで手足の感触を確認するかの様な仕草……自立しているとしか思えない。
そ、そんな……まさか……《精霊召喚》⁉︎ しかも氷を扱うという事は水精霊……カリンは水精霊とは契約していないと言っていたのに⁉︎
《カリン!》
《あら?シクティス。そんなに焦ってどうしたのかしら?フィオに惚れちゃった?》
《違う! フィオドールが水精霊を召喚した!》
《……ありえないわ? 貴女の見間違いよ》
《う、嘘じゃない保証は?》
《貴女が契約しようとしたら、即座に嘘だとバレてしまうわ? そんな分かりやすい嘘……わたくしが吐くわけないでしょう?》
た、確かに……あの氷像が水精霊なら、私は彼と契約出来ない事になる。そしてカリン程の知恵者がそんな分かりやすい嘘を吐く訳がない、というのも説得力がある。
……私の早とちり? は、恥ずかしい……これでは彼と契約したがっている様にしか見えない。
まさかこれもカリンの策? 私を焦らせて、どんな反応をするか確かめたのかもしれない……ありえそう。
冷静にならなくてはカリンの思うツボ……今は彼の観測を続ける。
《そんなに焦らずとも、ちゃんと貴女の枠は空けてあるわ?》
《か、彼の戦いに集中する》
《そうね? 契約相手をよく見極めるといいわ?》
……言われなくてもそうする。仮に……仮に!彼と契約するにしても、あの氷像の正体だけは確かめなくてはならない。
もし私と同じ氷系統の使い手だとしたら……負けられない。七階位として……水精霊として。
そもそも、あの氷像は何をしたの? 突然現れて、アグラの【龍火砲】を消し去ったのは分かるのだけど……
空中に霧散する氷晶……あれが【龍火砲】だったもの? あの質量を全て氷晶に変えたというの?
もちろん、私にも同じ事が出来ないとは言わない。けど……かなり聖力を消費する事になる。
それが片手間で出来てしまうのだとしたら、あの氷像は私以上の存在だという事になってしまう。
【龍火砲】を消しただけで終わりではないはず、どう戦うのか……見逃す訳にいかない。
***
「動く……氷像……?」
俺――アグラの放った【龍火砲】はどうなった?
『中央都市』はおろか、奴にも傷一つ無い。いつの間にか現れた氷像と、空中に漂う氷晶……け、消し去られたというのか……? 祖龍様の【龍火砲】が?
「命令を付け加えます……『美しく』討ってください」
「ッ!」
奴の言葉と共に氷像の姿が搔き消える。《転移》を使えるのか⁉︎ ……いや、違う!地上に走る霜の跡……辿った先は俺の右側面――
「ぐあッ⁉︎」
左肩に衝撃⁉︎ 痕跡を残したのはブラフ――では無いのか……向き直って見れば、きっちり半円を描く様に霜の跡がある。
【帝王】で強化された俺の動体視力を超える速度だと……? それに周囲の聖力に溶け込んでいるせいで、目視以外での探知も難しい。
「…………」
「おのれ……」
氷像の無機質な目が俺を見据える……魔力を使い切ってしまったせいで碌な攻撃ができん。
だが幸い、氷像の一撃では俺の龍鱗を破れん様だ。衝撃を感じた肩を見ても薄く凍りついているだけで、致命傷には程遠い。
「人形遊びか? フィオドール。こんなものでは俺を討つ事などできんぞ?」
「さて、それはどうでしょうか?」
あくまでこの氷像に戦わせるつもりか? 奴が地上へ降りてくる様子も無い……それを油断と呼ぶのだ、フィオドール。
今のうちに消費した魔力を回復するとしよう……もう一度、今度はこの氷像を破壊してから【龍火砲】を打ち込んでくれる。
まずはこの鬱陶しい聖力を散らし、長期戦に持ち込めば――
「フィ……オ……ド、ル?」
「うおっ⁉︎」
「……はい?」
この氷像、喋る事も出来たのか……チッ!予想外の事で無様な姿を見せてしまった。
だが……何故奴も呆けた顔をしているのだ?これは奴が作り出したものでは無いのか?




