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氷の乙女




「な……なんだと⁉︎」



 奴は一体何をした⁉︎ 俺――アグラの周囲から魔力が散って行く……それにこれは……聖力⁉︎ それも想像を絶する程の量が生み出されている。

 体が重い……先程までは手足の様に扱えていた魔力が上手く練れない。何だ……何なのだこれは!



「ようこそ……私の箱庭へ」


「ッ⁉︎」



 奴の声が上から降り注ぐ。いつの間に飛翔したのだ……周囲の聖力に気を取られ過ぎていたか。

 急ぎ見上げると、俺の視界に金色の翼を広げた奴の姿が映る。天から降り注ぐ光に七対十四枚の翼、これが……天使か――



「さて、残念ですが……ここから貴方の手番はありません」


「……随分と強気だな?」



 体は重いが、俺自身の魔力が無くなったわけではない。徐々に感覚も戻りつつある。

 初めて体験する異常事態で、後手に回ってしまったが……今まで俺が有利だった事を考えると未だ五分。


 だが、これ以上奴に動かれる前に叩くべきだ。空を飛べるのが自分だけだと思うなよ?



「《飛翔》」



「《空域支配(私の空)》」


「なん――ッ⁉︎」



 《飛翔》が強制的に解除された⁉︎ 魔術の妨害……? いや、《私の空》奴はそう言ったな……

 つまり、奴以外の滞空を認めない?……何てふざけた聖術だ! 俺は遠距離攻撃だけで奴と戦わねばならないのか⁉︎



「《飛翔》……チッ!」


「大地はあげますので……次です」



 ……次だと? これ以上奴に聖術を使われるのはまずい……出し惜しみしている場合では無いな。

 『中央都市』の崩壊よりも、俺が討たれる事を避けなくては……使うしかあるまい。

 俺にのみ許された、我らが祖龍様の象徴……【龍火砲(ドラゴンブレス)】。


 俺の魔力を全て注ぎ込んだ最大火力……塵も残さん!



「消えろ……【龍火砲】」






***






《――ッ⁉︎ おい!【龍火砲】だ! 避けろ!》



 避けろと言われましても……視界一面が【龍火砲】で埋め尽くされているのですが?《転移》でもしますか?

 あえて受ける事で耐性を獲得するのも……いや持ってますね私。【龍火砲】の耐性持ってますよ? ウル。



《え……そ、そうか。すまん、心配でつい……》



 まあ龍種と戦わないと耐性を獲得できませんからね。しかも彼らかなり渋るんですよ……【龍火砲】を放つの……お陰でなかなか耐性を獲得できず、苦労した覚えがあります。

 今回は思い出せたので良かったですが……私自身、何の耐性を持っているのか把握しきれていませんからね。


 時間のある時にでも整理しなくてはいけません。



「【時間停止】」



《……ん? 何で時間を止めたんだ? まさか……今から持っている耐性を調べる気か⁉︎》



 そんな訳ないでしょう……調べ終わるまで時間を止め続けたら、流石の私でも聖力が尽きますよ。

 ほら、シクティスさんが観測しているでしょう? だからこの【龍火砲】を格好良く受ける準備をするのです。



《……【経験】の耐性じゃダメなのか?》



 それも悪くないのですが、できればシクティスさんの見たことが無い聖術……それか能力で受け止めたいですね。後、【経験】の耐性では地味です……芸術点が低いんです。


 そうですね……どうせなら彼女の得意な氷結系の聖術を使いましょう。その方が理解しやすそうですし……ここは大きな私の氷像で受けて止めて――



《いや、それはやめておけ。絶対に引かれるぞ》



 ……そうですか? 元が美しい私の氷像なら、見栄えが良いかと思ったのですが……【龍火砲】そのものを凍らせますか?

 しかし、それくらいならシクティスさんも出来てしまいそうですね。やはり氷像……ふむ、私のものでは無ければ良い話です。



《……何をするつもりだ?》


「強く、そして美しい……《戦乙女招来》を使います」


《オレも知らない術だ……》



 そうでしょう。これはまだ私の使徒が居なかった時に使っていた聖術ですからね……簡単に説明すると、物質に仮初めの魂を宿す聖術です。

 と言っても彼女達は喋ったりしませんし、感情もありません。ただ自身の全力を持って敵を討つ……柔軟な対応のできる自動人形(オートマタ)と言った所でしょうか。



《よく分からんが……強いのか?》


「彼女たちの体となる物質、注ぎ込む聖力によって左右されますね。そして核となる依り代も必要です」


《……詳しく教えてくれ》



 そもそもこの術は使用した者が望めば望む程、強い戦乙女が呼び出せます……生み出せると言った方が正しいかもしれませんね?

 しかしそれには膨大な聖力と、彼女達の力に耐えられるだけの体を用意しなくてはなりません。

 仮にその辺の土で体を作ろうものなら、歩いただけで朽ち果ててしまうでしょう。



《なるほど。強そうだが……相手は大魔王だぞ? どれ程の聖力を注ぎ込むのだ?》


「そうですね……私の最大聖力量の半分を注ぎ込み、過去最高の戦乙女にしようと思います」


《それは……大丈夫なのか? とんでもない化け物が出来そうだが》



 折角ですからね。それにカリンさんが言っていました……私が疲れるくらいの聖力を使用しろ、と。今となっては使わない聖術ですし、もしかしたら強さの上限があるかもしれません。この機会に試しておくべきでしょう。



《そ、そうか……オレを巻き込まないでくれよ?》


「流石に影の中まで被害はないと思いますが……いきます。《戦乙女招来》」



 久々に味わう強烈な疲労感……ですが、その甲斐もあって目の前に美しい女性の氷像が形作られていきます。

 取り敢えず、術はちゃんと発動した様ですね? 強さに上限が無ければ良いのですが――



《……ん? そういえば依り代とは何だったのだ?》


「依り代は然程重要ではありませんよ。人間で言う心臓の様なものです」


《いや、結構重要じゃないか?……破壊されたら死ぬという事だろう?》


「それはそうなんですが……体が失われればどの道戦闘不能ですからね。そこまで拘る意味も無いのです」



《うーむ、手を抜くべきでは無いと思うが……今回は何にしたのだ?》


「御守りにしました」


《そうか……ん゛⁉︎ 御守り⁉︎》



 ふむ、ついに氷像の戦乙女が完成しました。私が彼女に命じたのは二つ……【龍火砲】の処理と、目の前の魔族を討滅する事。【時間停止】を解除すれば、直ぐにでも取り掛かるはずです。


 後は彼女の実力次第ですが――



《依り代! 依り代を変えてくれ! 氷像では中が透けて見えてしまう!》


「流石にこれだけの《戦乙女招来》をもう一度使うのは難しいので……」


《くっ! 油断していた……オレがもっと早く気付いていれば……いや、【龍火砲】を防げなければ依り代も消滅するか? 頑張ってくれアグラ!》



 ウルはどっちの味方なのですか……ダメですね。疲労で【時間停止】の維持も面倒に思えてきました。

 もし戦乙女がアグラを討てなかったら、《私の右手》で討つ事にしましょう……あれはただ聖力を手に纏わせるだけなので、楽に使用できますから。




「では……【停止解除】」




 さて、頼みましたよ氷像の戦乙女……貴女の強さを見せてください。



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