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紅信号



 天界中の天使を虜にし、この私――フィオドールのハーレムとして囲う。

 その為には手段なんて選んでいられません。

 全面戦争です。天界中を敵に回してでも私の虜になっていただきます。

 男として生まれたのです、何を迷うことがありましょうか?


 むしろ今までの私がどうかしていました……ちまちま好感度を上げる必要など無かったのです。


 では、参ります――



《待ちなさい。フィオドール》


《おや、カリンさん。何か問題でもありましたか?今良い所なのですが……》



 いざ酒池肉林……と動き出そうとしたところで《念話》が届きました。

 《念話》は双方の許可さえあれば遠距離でも通話可能な技能です。

 習得しようと思えば誰でも使える初歩的な技能ですので、今更【能力】とは呼ばれないでしょう。



《流石に全面戦争はまずいわ? 今の状況では、戦力が足りないもの》


《そうでしょうか?私とカリンさん、ニールさんにウルがいれば、良い勝負は出来るはずです》



 天界の最高位『天位七階位』である私と、各々が単独で魔王すら討滅可能な三人の使徒達。


 無論、数の面では負けていますが……質ではこちらが上回っています。

 それに、今までの戦いも基本的に相手の数の方が多い事ばかりでした。

 つまり私達は一対多の戦いに慣れているのです。問題になりませんね。



《わたくし達を頼りにしてくれるのは嬉しいわ? でも、過剰評価はダメよ。わたくし達じゃ他の七階位を止められないし、何より貴方の姉がいるわ?》


《七階位は私が受け持ちます。姉さんは……余程の事が無ければ起きないでしょう》



 私と同格の七階位……見た目も麗しく、各々が特出した才を持つ天使達。

 彼女達を堕としたいが為に計画を立てたと言っても過言ではありません。

 私を除いた七階位は六人……全員が固有の【能力】を持ち、長い時を戦い抜いてきた天界の実力者達です。


 その中でも私の姉――フェリス姉さんは最古の天使。

 七階位の一人として座してはいるのですが……ここ二万年は寝ています。

 なんでも力の制御が上手くいっていないらしく、緊急事態でも無いと起きて来ません。

 仮に起きて来たとしても……今の私なら勝てます。

 天使として長く経験を積んだ、今の私なら。



《確かに一対一なら貴方が勝つでしょうね。でも七階位全員が協力して向かって来たら? 流石に分の悪い賭けだと思うわ?》


《…………》



 想像してみましょう。

 私の前に立つ六人の天使……そして、放たれる業火。

 私の身は凍てつき、雷が体を駆け抜けます。

 不可視の斬撃に斬り裂かれ、重力に押し潰される。

 まだ……まだ私にとっては致命傷ではありません。想定の範囲内です。


 しかし、準備を終えたフェリス姉さんに勝てる光景が……思い浮かびません。

 私が何をしても傷一つ付かない? そんなはずは……


 何か、何か一つでも姉さんの知らない能力を――



《フィオドール――いえ、フィオ? 分かったかしら。貴方の計画では、天界どころか七階位だって堕とせないわ?》


《……計画は中止、ですか》


《いいえ? わたくしを誰だと思っているのかしら。貴方の第一使徒、カリンよ? わたくしに任せて。必ず貴方の前に、天界中の天使を跪かせてあげ……る……わ?》



 流石です。流石は私の第一使徒……私の最も良き理解者。

 一時はどうなることかと思いましたが、最初から頼っておくべきでしたね?

 カリンさんの『任せて』は今まで私を裏切ったことがありませんから……


 どうも私は元になった天使の影響で、計画を立てるのが下手――やめましょう。

 こんな事で起きて来られたら、悔やんでも悔やみきれません。


 ところで……先程のカリンさん、最後の方は様子が変でしたね。何かあったのでしょうか?



《カリンさん? どうかしましたか?》


《フィオ――いえ、フィオドール》



 何でしょう? 脳内のミニフィオくん達が怯えていますね。

 ふむ……『逃げろ』ですか? 一体何から逃げろと言うのです?


 まさか、さっきの陰口でフェリス姉さんが起きてしまったのですか⁉︎

 無防備に寝ているからと悪戯して来たのがまずかったのでしょうか……



《寝室に銀色(ニール)の髪が落ちているわ?》



 良かった……違いましたね。

 しかし、助かってはいません。どうやらうちのメイド達は仕事がなっていない様です。

 帰ったらお仕置きしなくては……メイドに手を出すのも主人の務めですから。


 ほら……こんな簡単な掃除もできないのですか?

 それではメイドを名乗れませんね……私が丁寧に教えて差し上げます。

 寝室に来てください、ベッドの上で――



「《影縛り》」


「……おや?」



 突然、私の影が意思を持ったかの様に蠢き、足へと纏わり付いてきました。


 不覚ですね。メイド達に色を掛ける妄想をしていたとは言え、この私が先手を許すとは……

 しかし、カリンさんに阻害系の能力は無かったはず……となると――



《おかしいわ……ウルの次は一周してわたくしの番、そうでしょう?》


「逃げるな。この破廉恥お――ご主人様」


「なるほど……おはようございます。ウル」



 声の持ち主を探しに振り向けば、そこにはただ私の影があるのみ。

 しかし、その影からは琥珀色の目が私を睨みつけていました。

 目の持ち主は……影に潜み、影を操る能力者。私の第三使徒――ウルですね。


 こんな時に助けてくれる第二使徒――ニールさんはまだ寝ています……詰みましたか。


 ですが、私も貴女達の主人としてただで捕まるわけにはいきません。

 今までウルの《影縛り》は散々見て来ましたから…… もう耐性を獲得出来る頃合いでしょう。


 耐性を獲得したら真っ先にウルを前後不覚に陥れ、ニールさんを起こし、事態を有耶無耶にする。

 か、完璧な計画ではありませんか……



「おま――ご主人様を止められる技は貴重なんだ。浅はかな使い方はしないぞ?」


《見つけたわ? フィオドール。絶対に逃がさないから》



 カリンさんの《念話》と同時に、紅く艶めかしい蝶が私の肩に留まります。

 ……不覚、不覚です。

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