想い一撃
「シッ――」
「……ほう?」
【腐敗】を発動したワシ――ニールの爪に触れて形を保ったままとは……あの槍、かなりの業物じゃのう?【魔槍】のギグニじゃったか?よく能力を使い込んでおる。
【魔槍召喚】は珍しい能力では無い……むしろ魔族ではありふれた能力と言えるじゃろう。
しかし、召喚される槍は形、付属効果共に千差万別……一つとして同じ物を見た事が無い故、【経験】の耐性には期待できんのう。主人様ならまた話は別なんじゃろうが……
「ハッ!」
「ふむ……」
直槍……素槍じゃな。形状はそこまで厄介では無い。まぁ無手に対しての槍というだけで十分厄介なのじゃが……問題は――
「ッ! セイ! ヤッ!」
「……ちっ」
この『三段突き』じゃ。間合いを完全に見切られておる。この者……槍術家としても優秀なのじゃろう。槍の退きが速く、いつまで経っても間合いを詰められん。
ワシの一挙手一投足に反応し、刻一刻と構えが変わっておる……良い、良いぞ? これはあの【魔槍】の効果によっては、ワシでも討たれてしまうやもしれぬ。やはり闘争とはこうで無くてはな……
「フッ――《火炎球》!」
「それは効かぬ」
「……チッ」
今度は退き際に《魔術》を放ってきおった。なるほど……【経験】以外には良い手じゃ。
近中距離での槍、更に一歩引いた距離からの《魔術》……完全にワシの間合いには入らぬつもりじゃな。
ここは【腐敗】の最高出力でも良いのじゃが……これだけの武芸者を力押しというのも味気ない。
かと言って技を競い、傷を負おうものなら……後でカリンに何を言われるか分からん。あやつは効率重視じゃからのう……
「《雷装》《迅速》……三段突きィ‼︎」
「むっ⁉︎」
「ッ……まだ届かんか」
付属効果と身体強化による変調……多彩じゃな。考え事をしていたせいで、危うく一撃もらう所じゃった。
やはり得物が無いのは不便じゃのう……かと言ってワシの【腐敗】に耐えられる武具など、得ようと思って得られる物では無い。
【天狐】に頼んでみようかのう……奴のような刀でもあれば、また違った戦いが出来るのじゃが……
「ッ⁉︎《強撃》《背水》《集中》《即応》……」
「……多彩じゃの?」
「《風纏》《炎手》《加速》、《決死》!」
「何? ……《決死》じゃと?」
《決死》は次の一撃に自身の魔力を全て乗せる、下級悪魔御用達の魔術だったはずじゃ。効果は威力倍増……破格じゃが、当然代償がある。
それは自身の消滅……故に、天魔大戦で捨て駒にされる悪魔共しか使っている所を見ておらん。
それにどんな一撃でも繰り出してしまえば、当たらずとも効果は発揮される。ワシが避ければ無駄撃ちじゃぞ? 奴は一体何を考えておるのじゃ……
「お主、何を――ッ⁉︎」
「はぐじゃぐ……いまでず‼︎」
此奴――生き残った魔族が居たか⁉︎ 腐った体でワシを拘束するとは……何という執念じゃ。
「【魔槍解放】! うぉおおおおおおおおお‼︎」
「はぐしゃぐ――ゴホッ」
「見事じゃ」
実に美しい一撃じゃ。これに討たれるのなら……悔いは無いのう。
***
手に伝わる衝撃……奴の目を狙った一撃は、部下の助けもあって確かに届いた。
【魔槍解放】は魔槍の効果を解放、発揮するだけの能力……俺の魔槍は傷付けた相手の聖力・魔力を流出させる効果を持っている。《決死》まで使った全身全霊の一撃。例え槍で仕留め切れずとも、槍の効果で致命傷を負わせる事ができる。
結局最後まで情けない姿を見せてしまった……俺の一撃を届かせてくれた部下は、既に光へと変わってしまっている。
俺の体も粒子化が始まっている……《決死》か。まさか自分が使う事になるとは思わなかった。だが……部下と共に逝けるのだ、悪くない。
願わくば――
「……傷くらいは負わせたかったものだ」
「いや、実に見事な一撃じゃった。もう一つの能力が無ければ、ワシは討たれていたじゃろう」
「……貴様に急所は存在しないのか?」
「そうじゃな……思い当たらん。ワシの能力を超える他あるまい」
「伯爵級の《決死》以上か……化け物が」
すまない、お前達……仇を討つ事すら出来なかった。あれだけお膳立てされていながら、傷を負わせる事も出来なかった。
こんな俺でも……お前達と同じ所へ行けるだろうか? もし、また会えたら謝らせてくれ……そして今度こそ、お前達の上官として恥じない活躍を――
「じゃが槍術は目を見張るものがあったのう……次はワシに届く槍を持って参れ」
「はっ、誰が貴様なんかと――」
二度と、戦うものか――




