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吸血鬼は囁く




「くくっ……見渡す限りの魔族、魔族、魔族……しかも、何やらワシらに敵意を向けておるな? 主人様よ」


「カリンさんの言う通り、符丁以外にも判別方法があったのでしょう。ですが、やる事は変わりません。ニールさん、ここは頼みましたよ?」


「構わんが……『中央都市』に【帝王】が居なかったらどうするのじゃ?」


「その時は見つかるまで都市を落とし続けます。防衛組が敗退するのが先か、私達が【帝王】……アグラを討つのが先か、競うとしましょう」


「最高じゃ……最高じゃぞ主人様!」


《カリン様や狐が負けるとは思えんが……リーリアは怪しいな。急ぐぞご主人様》



「ええ、貴女も頼りにしていますよ? ウル。では……始めましょう」



「くくっ……ワシは『ケイレムが天位七階位、【経験】のフィオドールが第三使徒ニール』じゃ! 死にたい奴から掛かって来るがいい! ……もっとも、全員逃がさんがな?」






***






《シクティス? 聞こえるかしら?》


《うん、聞こえてる。戻って来てくれてありがとう……カリン》


《ニールを戻す訳にはいかないでしょう? 七階位が腐ってしまうわ?》


《ごめん。彼と一緒に居たかった?》


《ええ、起きている時は一秒も離れたくないわ。けど……これも必要な事だもの》



 流石は彼の右腕……そして、私――シクティスの友人。フィオドールが絡むと偶におかしくなってしまうけど……基本的には冷静で、私とも思考が似ている所がある。

 カリンが戻って来てくれたなら、第一陣で私が出る様な事態にはならないはず。けど……ここは魔界、相手の領域。何があるか分からない。


 それにもし、フィオドールが【帝王】を討てなければ……



《大丈夫よ。貴女の英雄は負けないわ?》


《……な、何の話?》


《シクティス、わたくしは嬉しいのよ? 貴女がわたくしと同じ人を好きになってくれたんだもの》


《ち、違う! 私が彼に抱いているのは、恋愛感情では無い!》



 きゅ、急にどうしたのカリン⁉︎ こんな時に……いえ、こんな時だからこそ? 私が思い残すことのない様、気を利かせてくれているのかもしれない。

 そう……私の不安はお見通し、という訳。けど残念……この感情は恋でも、愛でもない。

 天使になっても残っている、私の種族としての特性だから……誰にも言えない。カリンにも……フレイにも。



《そう……()()()は大変ね?》


《……ん?》



《あら、どうかしたのかしら? ()()()()のシクティスさん?》


《……んん⁉︎》



 な、なんで⁉︎ どうしてカリンが私の種族を知っているの⁉︎ 誰にも言ってない! 私、誰にも話した事なんて無いのに……

 いや、フレイなら気付けるかもしれないと思っていたけど、カリンには私と似た特性なんて何も無いはず……鎌をかけられた?


 いや、この際そこは気にしていられない。問題は彼女がどこまで精霊について知っているか……



《精霊は生涯、一人としか契約出来ないのよね?》


《そう……らしい》


《そして契約方法は精霊が司る物事により違う》


《そう……だと思う》


《火の精霊は、全身でお互いの熱を感じ取る事。風の精霊は互いの息吹を一日中感じる事。土の精霊は素直な子でね? 隠す事なく「大地の上でエッチしてれば契約できるよ!」と教えてくれたわ?》


《え……》



《フィオは今、複数の精霊と契約しているわ? 早い者勝ちで、同じものを司る精霊とは重ねて契約出来ないなんて……精霊って大変ね?》


《う、嘘……》



 フィオドールが……精霊と契約している? しかも火・風・土の三人と? いや、もしかしたら他の精霊とも契約しているかもしれない。

 でも他の精霊と契約しているかどうかなんて、私が見抜けないはずがない……

 そうだ。今まで彼が他の精霊と契約していないのが分かっていたから、私も安心していた。つまりこれはブラフ。カリン……まだまだ甘い。



《そう。けど、私には関係ない》


《……ふーん? わたくし、水精霊の契約方法にとっても興味があるの。実は今、契約を保留にしている子がいてね? 一途に想い続けている様だから、フィオに契約してあげたらどうか打診するつもりなのよ》


《……そう》


《それ以外にも、フィオの【隠蔽】を見抜けない子が契約を持ちかけて来たりするから――》


《待って》


《もちろん、フィオはその子も優しく抱いてあげるのだけど、やっぱり契約出来ないって分かると――》


《待って》


《だからシクティスが水精霊として契約できるのなら、その枠は残して置こうと思っていたの。でも関係ないのよね? なら――》


《待つ! ちょっと待つ! カリン……【隠蔽】って何?【隠形】じゃなくて?》



《【隠形】は力量差のある相手に自分の姿を隠す能力でしょう?【隠蔽】は自身の情報を隠す能力よ。これも力量差によっては一部しか隠せないらしいのだけど……》


《な、何故そんなものを常時発動しているの?》


《フィオも自分の能力が多過ぎて管理しきれていないのよ……だから、害の無いものは常時発動していると言っていたわ? ……知らなかったのかしら?》



 し、知らない。そもそも能力の常時発動だなんて……天界に居続けたとしても、いつかは聖力が尽きてしまうはず。

 私の前でだけ発動させていた? いや、他の精霊も見抜けていないと言っていたから、それは無い。


 そして力量差。私と彼の力量差は? 契約を隠せる程、私と彼は力の差がかけ離れている? 確かに彼は私よりも強い……それでも、同じ七階位。

 実際に私が指揮した戦いでは、活躍こそしたけれど、それは他の七階位でも可能な範囲だった。


 無論、彼の万能性は他の追随を許さない。数え切れぬ程の能力を持ち、それを十全に扱う彼に並ぶ多様性、適応力などそうそう得られるものではない。

 けど、この世は残酷……力量差とは所詮、『所持している聖力・魔力の差』でしかない。どれだけ多種多様な技を用いようと、自身を上回る聖力や魔力の持ち主には敵わない。



《あら、フィオとの《念話》が繋がる様になったわ? ニールが上手くやった様ね》


《っ!》


《シクティス、こちらにも魔族共が来たわ。けど……どうせ討伐隊の第一陣程度じゃ貴女の出る幕なんて無いでしょう? フィオを見ていなさい。もしかしたら、少し彼の本気が見れるかもしれないわよ?》


《……危なくなったら私も出る。手に負えなくなったら言って》


《過剰評価も良くないけど、あまりわたくしを舐めないで欲しいわね――戦闘開始よ》



 お言葉に甘えて、見せてもらう……フィオドール。今度は私とカリンの知恵比べ。

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