気になる狼
「さて、どやって都市の中に入りましょうか」
《……? あの列に並ぶんじゃないのか?》
「個人的に、あのむさ苦しい列に並びたくないのです。展開されている結界の種類は分かりますか?」
《対物理、対術、防諜――》
「【識別】」
《……オレにはニール様みたいな趣味は無いぞ。優しいのが好きだ》
ふむ……転移阻害の結界は無いのですか。都市の場所さえ分かってしまえば、《転移》で好きに行き来して良い……という事なのでしょうね。
では、私もお邪魔するとしましょう……壁を越えるくらいなら【空間跳躍】で十分です。
「【空間跳躍】」
***
《こっちだ。件の魔族は、闘技場の受付にいた》
《このまま案内をお願いします ……しかし、本当に人間界の様な街並みですね》
木は魔界で貴重ですから、恐らく土を材料に作られているのでしょう。それでも頑丈そうな建物がずらりと並んでいます。
……おや? この匂い、まさかあれは『酒場』ですか? 嗜好品にまで手を広げているとは……ここが魔界とは思えない程に豊かな生活様式ですね。
《それでも、自らの行いを悔やんで自死する魔族もいるのだろう? そういう者が集まれば――》
《そういう魔族はほんの一握りですよ。この都市に一人いるかいないか……そのくらい少数派だという事は覚えておいてください。魔族によっては、情に訴えかける様な策も使いますので》
《油断するな……という事か、分かった。闘技場へはこの大通りを真っ直ぐ行けばいい、迷う事は無いだろう》
《そうですか。では今のうちに『何故、魔界での《転移》は消耗が激しいのか』についてお話ししましょう》
《ああ、気になっていたんだ……頼む》
《理由は単純です。『魔界では聖力が供給されないから』……これに尽きます》
《そうか……》
《はい……》
《……えっ、終わりか⁉︎ それだけなのか⁉︎》
《何ですか、欲しがり屋さんですね? そう言えば、私はまだウルから返事を貰っていませんね……》
《返事? ……何の返事だ?》
《ほら、以前に私と魔族の違いについて話した時です。私は『愛している』と伝えたのですが……返事を貰っていません》
《き、汚いぞ! そこまでオレの口から言わせたいのか⁉︎》
《いえ、その……いつもはまともな思考が出来ていないウルからしか聞けないので……》
《な、なんだ? 急にそんな弱気になるなよ……分かった……オレもお前を愛している》
《…………》
《な、何か言ってくれ……オレだって恥ずかしいのを我慢して伝えたんだ!》
《私達天使は自身で聖力を生み出していますが――》
《そうなんだが⁉︎ そうじゃ無いんだ! いや、やっぱりそれでいい。変な雰囲気になる所だった……》
《ふふ……私達天使は自身で聖力を生み出していますが、余剰分は周囲へと発散しています。必然的に天使が多い場所では聖力が満ちる事になり、天使達にとって過ごしやすい環境が出来上がるのです》
《聖力が満ちていると天使は過ごしやすいのか……》
《ええ、周囲の聖力を自身に取り込む事も可能です。基本的には自分から発生する聖力で賄えますが……そして、これは悪魔や魔族も同様です》
《なるほど、では魔界は魔力で満ちているのだな?》
《はい、そして聖力と魔力は相反する性質を持っています。なので、魔力が満ちた魔界で天使が《転移》を使おうとすると……》
《周囲の魔力に阻害され、普段以上に消耗する……または使用することができない。合っているか?》
《その通りです。まだ興味があるならシクティスさんに聞くといいでしょう。彼女は知識に貪欲ですから》
《そうしよう。奴なら恥ずかしい告白などしなくても教えてくれそうだ……おい、着いたぞ? ここが受付だ》
おや、闘技場と思わしき大きな建物の手前……こちらの小さな建物が受付でしたか。
ここまで来たのですから、一度闘技場に入ってみたかったのですが……この様子だと女性は居ませんね、周りは男ばかりです。受付も男、早く出ましょう。
《まだ居たな……あの赤い鬼人族の男だ》
周りに他の魔族が居なければ、私も楽ができたのですが……流石にそう上手くは行きませんか。
ウル、一応周囲を警戒しておいてください。耐性を持っている者がいた場合、騒がれないうちに消しますので。
《分かった。いつでもいいぞ》
「【時間停止】」
《……居ないな。誰も気付いていない》
では、後は作業です。早く終わらせてカリンさん達の所へ戻りましょうか。




