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魔界散歩




「しかし、警戒されているとなると、この姿で道を歩くのは不味いですね。【擬態】しましょうか」


「そうね? 髪と……服装も変えたほうがいいでしょうね」


「いっそのこと獣人に【擬態】してはどうじゃ? ぱっと見では分からんじゃろ」



 そうですね。では髪は黒く……服装は白から灰色のローブへと変えてしまいましょう。

 ですが、目の色と種族まで変える必要がありますかね?



《お前は普段目を閉じているからな、聞いた限りでは目についての噂は無かったぞ》



「フィオ? 種族は吸血鬼にしましょう。わたくしとお揃いの赤い目よ?」


「獅子の獣人が良いぞ? 主人様。ワシに似てさぞかし雄々しい姿になるじゃろう」


《……狼の獣人はどうだ? オ、オレと同じ種族は嫌か?》



 今回は……そうですね――



「【擬態】」



「いい? フィオ……次、次は吸血鬼になるのよ?」


「なんじゃ……主人様の獣人姿も見たかったのう」


《お前……それは……》



 ええ、【帝王】……アグラでしたか? それと同じ龍人です。

 初めて龍人になってみましたが……手と足が黒い鱗で覆われていますね。それと細身ながらずっしりとした尻尾。ふむ……こちらも動かせますね。

 翼も生えていますが、これで飛ぶ事は出来ない様です。頑張れば浮けるでしょうか……



「のう、主人様……ワシはどうするのじゃ?」


「そうですね、ニールさんには【擬態】を掛けられませんから……」


「フィオ、ここに首輪と鎖があるわ? 捕らえたことにしましょう」


《お、お待ちくださいカリン様! いくら何でもそれはニール様の誇りが――》



「くっ……首輪じゃと? はぁ……それに、鎖? ……はぁ、はぁ……」






***






「ではニールさんの準備も出来ましたので、捕虜に偽装して連れ歩きます」


「似合っているわよ? ニール……いえ、この発情猫」


「んんっ!」


《ニール様……もう、オレの知っているニール様はいないのですね……》



 ではニールさんが保つか分かりませんが、『都市』へ向かいましょうか。

 カリンさん、鎖はお願いします。私が持つと両手が塞がってしまいますので……



「任せて? フィオ。ちゃんと捕虜に見える様に扱うわ……ほら、行くわよ? 雌猫」


「や、やめ――あっ……」


《ニール様は常に凛々しく、堂々とした振る舞いでオレ達を導いてくれた……それが……それが、こんな……》



 奇しくも『魔界散歩』になってしまいましたね。犬ではなく、猫の散歩ですが。






***






「おう、龍人の……兄ちゃんか? いい物持ってんじゃねえか」


「こちらですか?」


「いや、その手に持ってるのも気になるんだがな? 俺が言ってるのは……そっちの獣人だ」



 道を歩いていると、魔族の方に声を掛けられてしまいました。しかも男……消しますか?

 そうですね、女性ならまだしも男の魔族は必要ありません。運が悪かったですね?《雷――



《待って、フィオ。一応情報が得られないか話を聞いてからでも遅くはないわ》


《カリン様の言う通りだ。こいつは『都市』側から来た魔族……何かしら知っていてもおかしくない》


《そうですか……? では、私が話を聞いてみましょう》



「ああ、これですか? これは私が捕らえた侵入者です。ほら、聞いていませんか? 天使が現れたとか言う話です」


「おお! 知ってるぜ? すげえ噂になってるからな……ってことは、それはアグラ様に献上するって訳か? もったいねえなぁ……」


「私もそう思います。ですが、アグラ様には逆らえませんからね」


「そうだな……おっと、忘れてた。一応やっとかねぇとな……『魔界に?』」


「……はて?」


「お、おい冗談だろ? 魔国アグラの民なら知らない訳がねぇ……『魔界に?』」


《『王は一人』だ》


「『王は一人』……すみません、最近は部下としか話していなかったもので」


「び、びっくりさせんじゃねぇよ……そんで? この先は『闘技都市』だ。アグラ様に献上するなら……『帝都』に行くんじゃねぇのか?」


「ええ、ですが『帝都』の場所を忘れてしまいまして――」




()()()()()()()()……この侵入者がッ!《闇――」


「《雷撃掌》」


「なっ⁉︎ 速――」



 ふむ、最後は一杯食わされてしまいましたね。これが【帝王】による知能強化によるものなのか……それとも先の魔族が元から持ち合わせていたものなのか……


 カリンさん、どう思いますか?



「そうね……どちらにせよ、これ以上聞き込みでの情報収集は難しいわ。アグラは思っていたよりも更に用心深いわね」


《すまない……オレがもっと早く符丁を伝えていたら、怪しまれずに済んだかもしれない》


「符丁以外に仲間内で確認する手段があっても不思議じゃないわよ。だから貴女のせいではないわ? そう気を落とさないで」


「しかし、『魔国アグラ』ですか……」


「自分の名を国の名前にしているのは触れないにしても、本当に国と呼べるだけの領域を支配しているなら……【帝王】を見つけるのは難しいわね」


《運に自信は無いか? ご主人様。闘技場にはアグラも来るらしい》



 【幸運】は持っていますが……実感した試しがありませんね。【不運】と相殺されているのでしょう。私に【不運】を【経験】させた魔族が憎いです。



「とりあえず、一つ一つ手掛かりを得るしかないわね。行きましょう? フィオ」


「そうですね……おや、猫を忘れていますよ? カリンさん」


「あら? うっかりしていたわ? こんな所に置いていかれては……魔族共の慰み者になってしまうわね?」


「っ〜〜〜!」


《ニール様は悔しくてその身を震わせているのだ……そうだ、そうに違いない……》



 もし『都市』で何の手がかりも得られなかったら……ニールさんの言う通り、いくつか街を落とした方が早いかもしれませんね。

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