魔界の街
「それでは、私達はカリンさんが見つけた『街』とやらに行ってみます」
「は、はい! ここは任せてください! フィオ先輩……気を付けてくださいね?」
「ふふ……頼りにしているでありんすよ? フィオ坊」
《フィオドール、出発するの?》
《はい、シクティスさん。魔界に街を発見しましたので、まずはそこから調査しようと思います》
《そう……念話は繋いでおくから、何か気付いたことがあったら教えて欲しい。一応カリンとも念話を繋いでる。私は防衛組の観測が主になると思うけど……》
《仕方ありません。二人共、索敵系の能力は持っていないですからね……もしもの時は頼みましたよ? シクティスさん》
《うん……でも、私はフィオドールに戻って来てほしい。お願い――》
《なあ、もしかして……お前でも負ける可能性があるのか?》
いえ、万に一つもありませんね。【帝王】だろうが、龍人だろうが、私が負けることは絶対にありえません。断言しましょう……右手だけで勝ちます。
ただこれを伝えても、シクティスさんには浅慮だと思われてしまうでしょう。ですから、私は最悪の事態を考えて行動している……そう印象付ける必要があるのです。
それに【帝王】が本当に強いのかも怪しいものです……仮に私といい勝負ができる程の実力者なら、天界に攻め込んでいない訳がありません。
尖兵として他の大魔王を送り込む事なんてせず、自身が乗り込んだ方が確実ですからね?
《そ、そうか……いや、お前が負けないのならいいんだ》
《ウルはフィオの事が心配なのよ。ニールとは違って良い使徒だもの》
《ワシだって心配くらいするぞ? じゃが主人様は強者じゃ。心配よりも信頼が勝るのじゃ!》
私も皆さんの事を信頼していますよ。では、そろそろ『街』とやらに向かいましょうか……案内をお願いできますか? カリンさん。
「こっちよ、フィオ。わたくしが先導するわ」
***
「それにしても、魔界で道を歩く事になるとは思いませんでしたね」
「そうね? わたくしもこの目で見るまでは信じられなかったわ」
「ふむ、しかし街とは……どれくらいの規模なのじゃ?」
と言いますか、そもそも本当に私達の想像する『街』なのでしょうか?
魔族が集まって利があるのは【帝王】だけな気がするのですが……それを他の魔族が良しとする理由が分かりませんね。
【帝王】の支配下にあることで、何かしら精神に影響が……それとも、有無も言わせず従わせる事が可能な程にその能力が優れているのでしょうか?
「それが……城壁に覆われていて、中の様子までは見えないのよ。ご丁寧に結界も張ってあるから、蝶を中へ潜り込ませる事も難しいわ? けど、魔族の出入りがあるのは分かっているの」
「うーむ……どうするのじゃ? 主人様。街攻めか? やはり街落としかの?」
「ニールさん、潜入するという選択肢を意図的に省いていますね? 『街』がいくつあるかも不確定なのです。まずは中の様子を窺ってみるのも悪くありません」
《となると……オレの出番か? 結界を越えての諜報活動など造作もない》
そうですね。ウルなら確実に中の様子を見ることができます……任せてもいいですか?
《お安い御用だ。安心して待っているといい》
「フィオ? そろそろ見えてくるわ――ほら、あの黒い城壁に覆われているのが……多分街よ」
何も無い大地に突如として現れたのは、黒い威容を誇る壁……門の前には魔族が列で並んでいます。
そしてあれは……警備兵でしょうか?少数ですが武装した魔族の姿が見受けられますね。
「魔族ですら、順番を守れるのに……ニール?」
「はっ! 順を守らねば、生きていけぬ程の弱者なのじゃ――ひにゃぁ⁉︎」
「二人共、《不可視化》を掛けます。もう少し私の近くへ」
「あっ……ダメよ、フィオ? わたくし、急に抱き締められたら……ここでするの?」
「あ、主人様! 尻尾は! 尻尾はやめるのじゃ! んっ……付け根の部分も駄目じゃぁ」
ウル、お願いします。私もいつまで二人の誘惑に耐えられるか分かりません。早くしないと取り返しのつかない事になってしまいますよ?
《何故オレが脅されているのだ……では、行ってくる》
はい、宿屋があったら教えてくださいね? 早急にベッドを確保しなければなりませんので。
***
《ご主人様、壁の中は大体探り終えたぞ》
《早いですね、ウル。何か分かりましたか?》
《その……どうやらここは『色街』らしい。【帝王】は居ない様だ》
「私も中に入ろうと思います」
「色街……宿は? 宿屋はあるのかしら?」
「何じゃ? 戦わんのか? せっかく街落としの機会じゃと言うのに……」
《待て。ここを抜けた先に、今度は闘技場を目玉とする大きな都市があるらしい。その闘技場には【帝王】が度々参加しに来ると聞いた。情報を集めるならそちらの方が適している》
なるほど、魔族をその者の欲望を満たす事で管理しているのですか。魔族の欲を満たす程の色街? 中では一体何が行われているのでしょう……この身で体験しなくてはいけませんね。
《それと、金髪の天使と銀髪の獣人が警戒されている。近々お前のいた場所に討伐隊が向かうそうだ。色街で溺れる時間は無いぞ》
「その情報はシクティスにも共有するわ。討伐隊の規模は分かるかしら?」
《何でも全ての街や都市から募っているとの事です。総数は分かりませんが、恐らくは万を超えるかと思われます。カリン様》
「そう、ありがとう。フィオ? 残念だけど、ここへ寄っている余裕は無いみたいだわ」
そんな……何とかなりませんか? カリンさん。魔界の色街ですよ? もうここへ来ることは二度と無いかもしれません。それなのに体験して行かないのですか?
「そうね。貴方の望みを叶えられなくて残念だわ? けど、もし時間があったとしても、わたくしは『体験』まではしないわよ」
《……中では相手を選んでいなかった。簡素な敷物と、何に使うかも想像したく無い道具が置かれていただけだ》
「これだから誇りも持たぬ者は嫌いなのじゃ。ワシも中へは入らんぞ? 行くなら主人様だけで行くがいい」
そうですか……それはそれで良い所の様な気もするのですが……
《『薔薇』が咲いていてもか?》
「では、この先の『都市』とやらへ向かいましょう」
なんて悍ましい街なのでしょうか。やはりここは魔界……何も信じられません。




