揺れる尻尾
《おはようございます、カリンさん。実は今面倒なことになっていまして……》
《おはよう、フィオ。分かったわ? わたくしも行くから……どこにいるのかしら?》
《それが……魔界です》
《……魔界? その単語だけで既に面倒ね。説明して貰えるかしら?》
***
《――そして私は【帝王】を討ち、リーリアさんとシクティスさんをハーレムに加える事に成功したのです》
《待て待て! まだ討っていない! カリン様、【帝王】の支配規模と居場所が分かっていません!》
《そう、分かったわ。わたくしは干渉局へ向かえばいいのね》
《ええ、シクティスさんには伝えておきます。助かりました……私の女神》
《んっ……フィオ? 魔界に宿屋は――》
《フィオドール……やはり不安? もし無理そうなら、キリリス様に頼んでみる。貴方ほど万能ではないけど、討つ事が出来るかもしれない》
《いいえシクティスさん、私にお任せください。カリンさんが起きましたので、今からこちらへ来ていただこうと思います……よろしいですよね?》
《カリンが……? 当然、許可する》
さて、これで後はカリンさんが来るのを待つだけです。
しかし、魔界は本当に何もないですね……こんな所に道を作っても、利用する魔族なんているんでしょうか?
というかその道、安全ですか?歩いていたら襲われそうなものですが……
《道があるという事は、間違いなく集落……村か街があるのだろうな》
「魔族の生活とはどんなものなの……じゃ? 主人様よ」
「起きる、移動する、戦う、犯す、寝るの繰り返しですね」
《どこかで聞いたことのある生活だな》
愛、愛ですよウル。魔族と私の違いは、そこに愛があるか否か。私が欲望に忠実なのは認めますが、きちんと過程を大切にしていますので……
そして魔族はまだ人に近い生活を営みますが、下位に位置する悪魔は悲惨ですよ?
《ど、どう悲惨なのだ?》
「ワシは魔族の様な生活で構わんのじゃがのう……」
「悪魔が他者の魔力を吸収する事で、初めて魔族になれるのです。それまではひたすら戦い続ける毎日ですよ。戦うこと以外考えられない……それが悪魔です」
彼ら彼女らは、魔界に生まれ落ちたその瞬間から自由を奪われます。自分以外は全て敵。敵を倒し、消滅させる事しか頭にありません。
運が悪ければ……自らの家族や愛した人すらも手にかけてしまうでしょう。そしてそれに気付くのは魔族になった時。後は吹っ切れて欲望を満たし続けるか、自責の念に駆られて自死するか……
《お前の使徒で良かった……ご主人様》
「そう聞くと、少しばかり躊躇してしまうのう……ワシが強くなる為にウルを討つか……」
「ニールさんは魔界でも上手くやっていけたと思いますよ。まあ、そうならない様に私が介入したのですが」
《本当に感謝しているぞご主人様! ニ、ニール様? 我々は使徒……使徒ですからね?》
「くくっ、分かっておる。あれ程手も足も出なかったのは初めての経験じゃった……どうじゃ? もう一度ワシを倒せば、ウルと二人で奉仕すると言ったら」
「やりましょ――」
「フィオ先輩! ニールさん!」
「ふふ……わちきも混ぜて貰いに来んした」
なるほど『獣人欲張りセット』ですね? 私が本気を出す時が来ましたか……
***
「シクティス様から、ここの防衛に着く様に言われて来ました! ……魔界って何もないんですね」
「フィオ坊……格好良かったでありんすよ? わちきの尻尾も揺れ揺れでありんした」
揺れ揺れ……何でしょう? 何故卑猥に聞こえるのでしょうか? ただ尻尾が揺れた、それだけのはずなのに……
ウル、ちょっと『揺れ揺れだった』と言ってみてくれませんか?
《……オレの尻尾も揺れ揺れだったぞ》
《何か違うんですよね》
《ッ⁉︎ 言わせておいてそれか⁉︎ いいか? オレだってもっと雰囲気があれば――》
「あ、あのっ! フィオ先輩に……その、聞きたい事があるんです!」
「おや、何でしょうリーリアさん」
「フィ、フィオ先輩って……『最上天使様』なんですか?」
来ましたね……本日のメインイベントが。
初めてが魔界、というのもリーリアさんにとっては良い経験になるでしょう。不安ですか?リーリアさん。大丈夫ですよ……私が手取り足取り――
《頼むから主目的は【帝王】の討滅であってくれ……それと、カリン様に聞いた方がいいぞ》
そうでした……今は私の頼れる女神が起きていましたね。
《カリンさん。リーリアさんに、私が『最上天使』だと告げてもよろしいでしょうか? そして、そのまま口説こうと思っているのですが……》
《そうね……告げるのは構わないわ? けど魔界で初めてはやめた方がいいわね。リーリアはロマンチストだから、初めてはフィオの寝室がお好みよ》
流石はカリンさん……『打てば響く』とは正にこの事ですね。
許可も出ましたし、計画を一歩前へ進めるとしましょう。
「私の書いた本の事ですね? あれは私の自伝です。ですので……『最上天使』とは私の事ですよ」
「ッ〜〜〜!」
チリンチリン――
「ふふ……ふふふ」
そういえば、キリリスさんが居ることをカリンさんに伝えてませんでした……揺れ揺れですね。




