魔界の【帝王】
《戻ったぞ。そちらは……あぁ、ニール様……》
《ニールさんは今、会話もろくに出来ませんよ。猫としての自覚を持たせる為、語尾を『にゃ』に変えました》
《な、なんて酷いことをするんだ! ニール様は獅子だぞ⁉︎ 獣人として――》
《無性に能力の試し打ちをしたくなってきました……具体的に言うのなら、誰かの語尾を『わん』に強制したいですね?》
《報告がある。周囲を見て回ったが魔族はいなかった。ただ……》
《ただ?》
《……道があった。どこへ続いているのかは分からん》
道ですか……もう嫌な予感しかしません。私が以前来た時は、魔界に道なんてありませんでした。今見ている景色と同じ、不毛の大地と曇天の空が永遠と続いていただけで……
帰りましょう。正直、天界に踏み入って来られなければ、魔族が何をやっていようと私には関係ありません。天魔大戦の時に出て来たら、七階位が討てばいいじゃないですか。
《フィオドール。【帝王】がどこまで支配を広げているのか分からない。なるべく早く見つけ出して討滅する》
《あー、シクティスさん。実は道を発見いたしまして……》
《道……道⁉︎》
《お前も難儀な生き方をしているな……》
報告しない訳にはいかないでしょう、ウル。私は完璧、最上の天使です。
決してバレない様な事ならともかく……もし今後、魔界へ天使が攻め込む機会があった時『フィオドール様は見落としていたみたいですが、私は道を見つけましたー』なんて言う天使が出て来たらどうするのです?
私はその天使を決して許しません。必ず寝台へ連れ込み、どちらが真に優れた天使なのかはっきりさせます。
私の能力が戦闘用だけだと思ったら大間違いですよ?【千手】【誘体】【感応】【侵――
《わ、分かった。分かったから……それで、【帝王】とはなんだ?》
《ウルは知りたがりですね? まだ貴女の知らない快楽についても知りたくありませんか?》
《も、戻って来てくれご主人様。変なスイッチが入っているぞ》
そうですね。落ち着きましょう……【帝王】についてでしたね? 実は私もあまり詳しくありません。
言葉通りの存在なら、他者を支配し、強大な権威を持っている者のはずですが……能力としての【帝王】ですからね。何らかの効果があって然るべきです。
シクティスさんが知っている様ですし、聞いてみた方が早いでしょう。
《シクティスさん。【帝王】について教えていただけますか?》
《そうだった……説明する。【指揮】や【統率】は知っているはず》
《ええ、もちろん知っていますよ。他者を強化する能力ですね?》
《長所はそう。短所は?》
《自身が強化されない……魔界では致命的ですね》
《その通り。だから今まで、魔族を率いる【指揮】や【統率】が出ても、見つけてしまえば討滅は比較的簡単だった》
《……【帝王】は違うのですか?》
《流石。理解が早くて助かる。【帝王】は他者を強化し、自身も配下の数だけ強化される》
なるほど……【統率】の上位能力みたいなものですか、そんなものが魔界に発生していると。
しかし妙ですね……それだけ強力な能力なら、今まで私が出会っていない訳がありません。
これでも誕生してから全ての天魔大戦に参加していますからね。魔界の強者は数え切れないくらい倒したはず――
《ただ、【帝王】には弱点がある》
《強力な能力の対価……という訳ですか》
《そう。自分が支配する者がいない……もしくは少ない時、全ての能力が大幅に弱体化する》
《それでは魔界を生き残れないはずです》
《私もそう考えた。だから今回も【指揮】か【統率】だと。けど、龍人なら話は別》
《……弱体化していても、元人間の悪魔や魔族なら倒せてしまったと?》
《その可能性が高い。他にも、初めから協力者が居た……なんて推測もできる》
ふむ、龍人とはそこまで強力な存在だったのですか……私は歯牙にも掛けませんでしたが、思っていたより人間とは能力差があるのですね。
ウル、次の使徒は龍人にしましょう。女性の龍人を探して来てください。
《確かに龍人は強かったし、お前にしては良い案だと思うぞ。今考える事ではないがな》
《フィオドール、聖魔大戦までに討たないとまずい。仮に魔界全域が【帝王】の支配下になったら、天界まで攻め込まれて……最悪、滅びる》
……まあ本当に仮の話ですね。天界、魔界共に広すぎて、その全てを支配しようと思ったらかなりの労力を使う事になるでしょう。
いや、支配欲の強い魔族ならやりかねませんか……私のハーレム計画を邪魔されるのは許容できません。
問題はどうやって【帝王】を見つけ出すかですが……
《貴方を死地に向かわせる事になるかもしれない。けど、現状で一番有効なのがフィオドール、貴方。お願い……もし……もし【帝王】を討てたら、私にできる事なら、な、何でも――》
《やりましょう》
《っ⁉︎》
リーリアさんとシクティスさん、二人をハーレムへ加える時が来ました。【帝王】の居場所は分かりませんが……魔界ごと消滅させればついでに討てるはずです。
ほら、ニールさんもいつまで寝ているのですか? もう起きられるでしょう。
《うぐっ……主人様がやり過ぎたせいにゃ……》
《ニール様……》
《ワシの意思では無いにゃ! た、頼むのにゃ主人様! これでは声も出せんのにゃ!》
《……オレからも頼む、ご主人様。ニール様の語尾を戻してくれ》
《そうですね……悦んでしまって、罰になっていない様です。やめましょうか》
《悦んで……?》
《のわぁああああああ⁉︎ い、言わない約束のはずじゃ! はっ……戻っておる》
《もう……煩いわよニール……随分と楽しそうね?》
この声は……私の女神が起床した様ですね。




