知識比べ
「ん? なんじゃ……主人様が目を開いてワシを見つめるおるじゃと? ……ははーん、さては先の戦闘で滾っておるな?」
《ニール様……きっとこれにも理由があるはずなのだ。頼む! 許してやってくれ!》
いいですか? ウル。私は貴女達の主人として、時には罰を下さねばならないのです。
しかし、私がニールさんを止められなかった……という不手際もありました。ですので今回の罰は軽めのものですよ。
《そ、そうか……感謝する。オレはお前の事を少し勘違いしていたみたいだ》
ふふ、良いのですよウル。さぁ、縄と鞭を出してください。
《うむ――いや、だめだぞ⁉︎ やはり勘違いでは無かった! こんな所でニール様を……お、犯すなど! シクティス達に観測されているのだろ⁉︎》
その点はご安心ください。彼女達は時空関係の耐性を持っていません……私が【時間停止】を使えば、一部始終を見られる事もないでしょう。
それとも……ウルの性癖をニールさんへ告げる、という罰の方がいいですか?
《……ほら、縄と鞭だ。せめて痕が残らない様に頼むぞ。オレはお前が時を止めている間、周囲を探ってくる》
痕を残さないなんて当たり前です。それに、罰とは言っても……限界を超えるまではニールさんにとって、ご褒美みたいなものでしょう。
「な、なあ? 何故なにも言わぬのじゃ? もしかしてワシが魅力的すぎ――」
「【時間停止】」
《ニール様……どうかご無事で……》
***
《フィオドール、情報は? こちらは音声まで観測できていない》
《ふぅ……シクティスさん、少々面倒な事になりました。【指揮】でも【統率】でも無い様です》
《それは……確かな情報?》
《【審判】を使いました。魔族達を束ねる者の名はアグラ。龍人だそうです》
報告を聞きながら、私――シクティスはやはりフィオドールを送って正解だった……と確信していた。
待ち伏せを物ともしない突破力、即座に相手の首魁まで割り出せる情報収集能力……これを一人で成せる天使を、私は他に知らない。
使徒ニールが暴走していなかったら、今頃は相手の能力まで判明していたに違いない。同じ使徒なのに、何故カリンとはあんなにも違うのか……
いや、今はいい。せっかく彼が集めてくれた情報を無駄にしてはいけない。
《そう。そのアグラの居場所は?》
《申し訳ありません……聞き出す前に、ニールさんが消滅させてしまいました》
《んん!》
使徒ニール! あの獣人は……どうしていつも考え無しに動く⁉︎ 確かに、強いのは認める……
けどこれでは彼の邪魔にしかなっていない! 私が彼と共に動けていれば……うん、いい……間違いなく上手くいく。
《私の使徒が申し訳ありません。きちんと罰を下しておきましたので……》
《うん……? 罰?》
《はい、もう勝手に動かない様、説得させていただきました》
《……?》
観測映像をよく見ると、先程まで彼の隣に立っていた使徒ニールの姿が無い。どこに……?
み、見つけた……彼の陰に隠れ、横たわっていた。戦闘していた時の勇姿とはかけ離れた、無惨な姿……
着衣は乱れ、表情は見えないが、時折ピクピクと身体を痙攣させている。
彼が話していた魔族が消滅してから、そんなに時間は経っていないはず……一体何を――
チリン――
「はぁ……羨ましい……」
「っ⁉︎」
キリリス様には見えていたの? しかし、彼は罰と言っていた……なのに羨ましいとは?
き、気になってしまう……ダメだ。私の本能が止まれと言っている……その先は危険だと。
でも、使徒ニールがあんな姿を晒すなんて、高位の《聖術》や格別な能力の可能性がある。知らないと作戦の立案や実行に影響が出る可能性も――
《お陰で私も消耗してしまいましたが、ご覧の通りです。今は動く気力もないでしょう》
《そ、そう》
《ええ、それで……アグラの能力についてですが――》
彼が話しているのに、全然頭に入ってこない。あのフィオドールが消耗する程の力?
通常、個人の聖力量では扱えない超規模《聖術》? いや、それならキリリス様だけじゃなく、私でも気付けるはず……やはり能力。
フィオドールは私より天使歴が長いから、私の知らない能力を知っていることがある。
かつて人間界で『万象を識る者』と呼ばれた、この私よりも……
《……と言いますか、私は【指揮】と【統率】以外の統制系能力に心当たりがありません》
《……うん? 私は一つだけ、ある》
《おや、聞かせていただいてもよろしいですか?》
《【帝王】》
《なるほど……統べる者、という意味ではそれも統制系ですか》
ふふっ、今回の知識比べは私の勝ち。後でカリンに自慢しよう……




