【経験】のフィオドール
《ニール様……良かったですね。魔界へ来れて……うぅ、オレも……オレも嬉しいです》
魔族より我慢出来なかったことは気にしないのですね。
魔界へ来たがったのも、きっと闘争に身を委ねたかった……というか、気が済むまで戦いたかったからなのでしょう。ニールさんはバトルジャンキーですからね。
ぱっと見た限りでは、爵位持ちもいないみたいですし、あちらは任せても問題無いでしょう。
さて、私の方は……
「…………」
はぁ……まだ動きませんか。きっと魔族達で《念話》でもしているのでしょうが、何が悲しくて男同士で見つめ合わなくてはならないのです。しかも無言で。
どうせ見つめ合うなら……そうですね、キリリスさん。貴女と見つめ合いたい。
深みを感じる紫色の瞳……例え心が読まれてしまおうと、私は貴女から目を逸らしたりしません。時より見せる流し目も、こちらの反応を窺うような目も……全て私が独占しましょう。
『恋は盲目』と聞いたことがあります。私以外が視界に入らない、それほど虜に――
「今だッ!」
「やれ! 攻撃開始だ!」
「はぁ……」
魔族達から攻勢魔術が放たれます。【識別】……火炎球、雷槍、闇刃……典型的なものばかりじゃないですか。部分不可視化は無し、付属効果も無し……【識別】は要りませんでしたね。
シクティスさん達が見ている様ですから、右手で受ける振りでもしておきましょうか。
「う、動いてやがる……」
「百人規模の妨害魔術だぞ⁉︎ 高位天使でも指一本動かせないはずだ!」
「チッ……やっぱ七階位じゃねぇか……」
妨害魔術……? なるほど、そちらが本命でしたか。ですが耐性を持っているものだった様ですね……
常時発動型の能力は、こういう時に不便です。まるで私が策に嵌ったみたいじゃありませんか。
《みたいも何も、耐性が無かったら策に嵌まっていただろう。そんな事より……お前を知っている者が居るな?》
私は魔界でも名が売れていますからね? 困ったものです。ファンは女性だけで良いのですが……
まぁ、 彼から【統率】の居場所を聞きましょう。仮に【指揮】でも、この場の魔族を全て討ってしまえばいいのです。
ではさっそく……【空間跳躍】
「金色の翼だとッ⁉︎ 」
「な、なんだ⁉︎ 《転移》か⁉︎ 」
「いやそんな予兆――」
「捉えましたよ?【重力結界】です。加減が難しいので、動かないでくださいね?」
「チッ……【経験】の――」
「この方以外、要りませんので……【炎域】」
「ぐぁああああああああああ⁉︎ 」
「火! 火がぁ⁉︎ 」
「消えねえ⁉︎ しょ、しょうめ――」
「クソ! クソ! こんな所で――」
ふぅ……やはりフレイヤさんの能力は殲滅向きですね。一気に静かになりました。
そして、舞い散る光の中に佇む私……確実に美しい……
ウル、どうですか? 誰もが見惚れる光景でしょう。
《オレは知ってるぞ。こういうのを『薔薇』と言うんだ。男同士が愛し合う……禁断の愛らしい》
「チッ……俺をどうする気だ。【経験】のフィオドール」
……そういえば一人残していましたね。ウル、記憶から消しなさい。さもないと次は……ニールさんと『百合』を教えます。
***
「え……つ、強い! ……強いですフィオ先輩!」
「ん……これが【経験】……」
「ふふ、ゾッとしたでありんす」
目の前に映し出される観測映像を見ながら、私――リーリアは思わず叫んでしまいました。
フィオ先輩……こんなに強かったんですね。そ、そりゃぁ使徒の皆さんがあれだけお強いんですから! フィオ先輩が弱い訳無いと……いいなぁ? と思っていました。
フィオ先輩が私と戦ってくれないのが悪いんですよ! 修練をする時も、常にカリンさんやニールさん相手でしたし……
「あ、あれ……? でも【経験】って?」
「ん……経験に耐性を持つ……万能防御型」
「で、でも! フィオ先輩が使っていたのって【炎域】ですよね? もしかして、二つ目の能力ですか⁉︎」
稀にですが、能力を複数持つ方もいるそうです。生まれた時から二つ所持していたり、天使として長い研鑽を積むと発現することがあると聞きました。いいなぁ……フィオ先輩……
「ん……フィオドールは【経験】だけ……【炎域】も経験した」
「えーと、うーん?」
「はぁ……キリリス様、お願い」
「ふふ、噛み砕いて言えば……フィオ坊は他の能力を【経験】すると、それが使える様になるんでありんす」
「え……えぇー⁉︎ じゃ、じゃあフィオ先輩は、どんな能力でも使えるって事ですか⁉︎ 」
な、何ですかそれ⁉︎ そんな幾つもの能力を使えるって……『最上天使ケイレム様』と同じじゃないですか⁉︎ 金色の翼も、複数の能力も……やっぱりフィオ先輩が――
「全部じゃ……ない……」
「あら? ふふ……」
「あっ……ごめん、なさい……」
キリリス様とシクティス様が見つめ合っています。キリリス様の瞳って、片目しか開いていないのに凄い色気があると言うか……そのまま絡め取られてしまいそうになると言うか……
シクティス様も恥ずかしそうです。え、待ってください……これは、もしかしてフィオ先輩から教わったあの『百合』ですか⁉︎
教育係の時、フィオ先輩は言っていました。
『私が天界でたった一人の男。今日は私が誕生するまで、天界に咲き誇っていた百合の花について教えましょう』と……ま、間違いありません! 女性同士で愛し合ってしまう禁断の愛です! キリリス様はシクティスを狙って――
ひっ⁉︎ キリリス様がこちらを向いてしまわれました! あっ……凄い色気……だ、だめですよ? この身はケイレム様――じゃなくて天界へ捧げているのです! な、何とか話を戻さないと……
「ふふっ……」
「あ、あの! 全部じゃないって、使えない能力もあるんですか?」
《うん。まず能力じゃないけれど《魔術》は無理》
「ひゃぁ⁉︎」
《うるさい。私は喋るのが苦手……念話で伝えるから、ちゃんと聞いて》
「は、はい!」
《うん。さっきも言った通り……フィオドールも天使だから魔力は扱えない。つまり、魔に属する《魔術》と能力は扱えない》
「万能では無い、という事ですね」
《そう。ただ耐性は問題なく獲得できる。経験を重ねれば無力化も可能》
「経験を……重ねる?」
《一度で完全耐性を獲得できる訳じゃ無い。何度も何度も……物によっては何千、何万とその身に受けてやっと無力化できる。私が彼を信用しているのは、きちんとそういう努力を――》
「……? シクティス様?」
シクティス様がこちらに手のひらを向けています……『待て』でしょうか?
そういえばニールさんは……まだ戦っていますね。ですがもう一方的です。逃げようとする魔族を捕まえて……うっ、く、腐らせています。
ニールさん、強いんですがあの能力はちょっと怖いです。魔族の攻撃も全く効いていませんし……ぜ、絶対怒らせない様にしましょう!
「流石……フィオドールから、《念話》……尋問開始」
うぅ……やっぱりフィオ先輩は、『最上天使様』なんですか? わ、私どうしたら……




