思考停止
使徒ニールが魔族へ突っ込んでしまったのを見て、私――シクティスは軽く眩暈がした。
包囲網の中に【統率】持ちがいる可能性があるのに……六階位が討たれたのを忘れたの?
【統率】の強化は肉体だけに留まらない。知能も強化され、当然のように策略を用いる。
今回、私達は敵地に乗り込む訳だから罠や伏兵、事前準備された大規模魔術にも警戒する必要があるのに……
「ニールさん、やっぱり強いですね」
「ふふ……久々の戦闘で舞い上がっているのでありんしょう」
確かに強い。今も既に何体目か分からない魔族を討滅し、光の粒子へと変えている。
獣人としての高い身体能力もあるが、やはり触れるだけで相手を屠れる能力【腐敗】は強力だ。珍しい腐属性の攻撃故、耐性を持っている者など皆無と言っていい。
それにあのタフネス……何度も魔術や物理攻撃を受けているのに、まるで堪えた様子がない。
それどころか無傷。何らかの能力であることは明らかなのだけど……
「あ、あの! 私達も助けに行った方がいいのではないでしょうか?」
「いい……必要ない……」
「せっかくニールが露払いを買って出たのでありんすから、ここは任せるといたしんしょう?」
「で、でも! フィオ先輩が!」
「う……んん?」
やっぱりおかしい。何故リーリアはこうも彼への評価が低いの? 教育係も任せたはずなのに……そういえば件のフィオドールは?
……うん、まだ戦闘状態に入っていない。きちんと魔族を警戒している。
ただ……予想通り魔族側も遠巻きに見ているだけで、仕掛けて来ない。魔族なら直ぐに襲い掛かってくるのが常……やはり統制型の能力持ちがいると見ていい。
問題は【指揮】か【統率】か……【指揮】ならこの場の魔族を強化するだけ。けど、もし【統率】だったら……後いくつか同じ様な魔族の群れがあるかもしれない。
念の為、いつでも経路を遮断できるようにしておくかなくては……
チリン――
「ふふ……」
知らない……いくら彼が貴女のお気に入りでも背に腹は――
「うぅ……フィオ先輩……」
「んん!」
ダメだ。もう我慢出来ない……気になる。私の悪い癖だと分かってはいるけど、一度気になったら止まらない。
観測に集中しなければいけないのに……そうだ。集中する為、集中する為に聞こう。
もしかしたら私の知らない不安要素があるのかもしれない。
「……リーリア」
「は、はい! 何でしょう? シクティス様」
「ん……何故そんなに不安?」
「あ、う……いえ! だ、大丈夫ですから! フィオ先輩も七階位ですし――」
「言って。【経験】のフィオドールに……彼のどこに不安を感じる要素がある?」
「うぅ……それです」
「それとは? ……具体的に」
「フィ、フィオ先輩の能力が不安です!」
フィオドールの……能力? ま、ますます分からない。【経験】は決して弱い能力じゃない。
確かに大器晩成型ではあるけど、七階位にまで至った彼が弱いはずが無い。
まさか……【経験】を知らない? 彼はリーリアの前で戦っていない? ……これかも。
「フィオドールから……能力については?」
「は、はい! 聞いています!」
「ん……んん? 彼は……何と?」
「その……い、言えません!」
「いい加減……凍らせる……」
「ひっ⁉︎ つめ、冷たっ⁉︎ 言います! 言いますからぁ!」
やっと聞ける。もしかしたら【経験】の弱点を知っているのかもしれない。
弱点を知れたら、これ以上彼に勝手な真似をさせずに済む。能力は優秀なのだから、私が彼を管理できれば――彼を……管理?……ちょっといいかも。
「エッチ……」
「ッ⁉︎」
こ、心を読まれた⁉︎ 嘘⁉︎ リーリアにそんな能力があるなんて聞いて――
「エッチな【経験】をしやすくなる能力だって聞きましたぁ!」
「はっ……本当に……」
「んふふ……あはっ、んんっ……んふふふふふ」
そんな能力が『渾名』になっていたら天界は滅んだ方がいい。彼は教育係で何を教えていたの……
期間中はカリンも付いていたはずなのに……いや、彼女も結構悪ノリする節がある。それにフィオドールは変態……実際にそういう経験をしている所を目撃していても不思議じゃない。
「やっぱり嘘なんですね⁉︎ おかしいとは思っていたんです! でも、フィオ先輩の使徒の方々は『それで間違いない』って言うし、周りの子に聞いても誰も知らないって……」
「はぁ……見る。そのフィオドールが……そろそろ戦う」
もう説明する気も失せた。実際に彼が戦う所を見せれば、能力の一端くらいは分かるはず。
リーリアはこれでいいとして……
チリチリチリチリチリ――
キリリス様はいつまで笑っているの……
「うふふ……んふっ……あはははは! んんー! ふっく、苦しっ……ひっ」




