獅子、来たる
「フィオドール……もしかして……それはフェリス様の――」
「それでは、天議会用の領域を削除します」
フェリス姉さんは転移で消えて行きました。
これ以上追究される前に、さっさと行動を開始してしまいましょう。
領域を消すのは簡単です。維持に必要な力の供給を断つ、それだけです。
「フィ、フィオ先輩?……その――」
「心配いりませんよ? リーリアさん。初めての魔界でしょうが……私とキリリスさんが付いています」
「ふふ、そうでありんす。それにわちきらの任務は防衛……難しい事ではありんせん」
「は、はい! フィオ先輩……絶対無事に戻って来てくださいね!」
いい子ですね、リーリアさん……もちろん帰って来ますとも。
私はまだ貴女と褥を共にしていません。教育係としての、最後の仕事が残っていますからね。
この天界に男女がいる理由を教えて差し上げます……リーリアさんはどう調教しましょうか?
《教育だったり調教だったり……忙しい奴だな、お前は》
《のう、ワシらもそろそろ向かって良いか? 魔界じゃ。戦うんじゃろう?》
そうですね……私も準備などは必要ありませんし、このまま魔界へ行っても大丈夫でしょう。
行きますよ、お二人とも……魔界掃除です。
***
「来たぞ主人様。さっさと魔界へ行くのじゃ」
「ニ、ニールさん! 良かった……これでフィオ先輩も安心ですね」
「……? そう……フィオドールなら安心……」
言いながら私――シクティスは違和感を覚える。フィオドールが安心? 元より彼に不安など無い。
リーリアは何か勘違いしているのかも。今回動かしたのは、天界でも最高戦力の二人。
【天狐】キリリスと【経験】のフィオドール……どちらも数々の天魔大戦を戦い抜き、数多の魔族や魔王……果ては大魔王を討滅した猛者。
いくらリーリアが最短で七階位になったとはいえ、その事を知らない?
「うむ、今回は危なかったのう? リーリア。油断は禁物じゃ」
「は、はい。ニールさん……フィオ先輩の事、お願いします!」
「くくく……任せておくのじゃ。ワシがきっちり面倒を見てやる」
まあ、それは今回の突入には関係が無い。リーリアは防衛に務めるだけ。それにしても……使徒ニール。フィオドールの第二使徒……
銀色の髪に、琥珀色の眼。自分の身体を隠そうともしない、ラインの浮き出るドレス姿。獅子の獣人は……皆こうも自信に満ち溢れているものなの? 胸も大きいし……ずるい。
違う。それは関係ない。
問題は彼女がただの使徒なのに、七階位と対等に話せるだけの実力者であること。
使徒に階級は無い。それは今までの使徒は、常に一階位の下へ位置していたから。
天使と使徒の絶対的な違い……胸に聖結晶が無い。それはここ天界で成長できない事を意味している。聖力を吸収できない、その大きすぎるデメリットがある。
「ふふ……久しいでありんすね? ニール?」
「おお! 息災じゃったかキリリス。腕は衰えておらんじゃろうな?」
「わちきの心配より、自分の心配をした方がいいのではありんせん?」
「むぅ……そうじゃな、最近は動く機会が無くてのう……」
「胸ばっかり大きくなって……犬に笑われん様にしておくんなし?」
「くくっ……ウルも同じ故、それはあり得んのじゃ!」
……何故あなた達ばかりそんなに大きくなるの……獣人は生体構造が違う? ありそう。
しばらくこの線で考えよう……きっと彼女達は胸から育つ。もしかしたら、貯水器官の役割を果たしているのかもしれない。
でも、私達の生存に水は必要ない……聖力を貯蔵している? けど使徒は――
「そろそろ行きますよ、ニールさん。また大魔王に侵入でもされたら面倒です」
「うむ! では……出陣じゃ!」
二人が介入用の空間へ行ってしまった。おそらく今は隔壁の前……私も自分の仕事をしなくては。
まずは観測用の望遠結晶の起動……次にそれを空間に映し出す投影装置、後は――
「あ、あの! 私……観測要員の天使を呼び戻して――」
「必要ない」
「うぇええ⁉︎ 」
「このくらい……私一人で十分……」
たかが数百の手順、補助なんて要らない。私がいつも何桁の工程を経て作業をしているのか、リーリアは知らないの?
まあいい……そうだ。この件が終わったら、フレイに聞こう。何故胸から大きくなるのか……




