閑話 未知との遭遇
使徒ウル視点です。
「うーむ……」
オレ――ウルは今迷っていた。
ごしゅ……フィオドールが魔界へ行くらしいので、ニール様を起こしに『経験の園』へ帰って来たのはいいんだが……
「これは、使えという事なのか?」
オレの前には、奴が『体重計』と呼んだ遺物が置かれている。重さを測定するだけの器具……ただそれだけで、危険は無かったはずだ。
ここはオレの部屋だよな……?
ああ、間違いない、間違いなくオレの部屋だ。これはやはり、奴から贈られたと考えるべきだろう。
「スタイル……か」
オレは獣人族だ。そして獣人の女は皆……体のある部位を誇る。
大きければ大きいほど良い女であるとされ、例え弱者であっても妾にされる事があるくらいだ。
「オレはそう思わんがな……」
やはり獣人は強者こそ讃えられるべきだ。こんな胸なんてあっても邪魔なだけで……しかし、奴は毎回喜んでこれに触れる。
そういうことなのか……? この『体重計』を使ってスタイルを保てと……? どんな贈り物だ! オレは『軽さ』など求めていない!
もう少し気の利いたものを贈っては貰えないだろうか? 最近は奴の影に潜む事も増えた。
護衛用に短刀とか……いや、影の中から届くような槍もいいな……いざとなったら身を呈して守る為に盾でもいい。
オレの様な影は、主人の為に戦うことこそが最大の奉公。
断じて主人の性処理道具では無い! 今思い返しても腹が立つッ……何が『これは兎獣人の女性が着る戦装束“バニースーツ”です』だ! 獣人をバカにしているのか⁉︎
だかそんな衣装、カリン様も……ニール様も着せられていないと言う。
「何故、オレだけなんだ……?」
カリン様の番では寝室が血の海になるし……ニール様の時は蝋燭が飛び散っている……もしかして、オレが一番まともなのか?変な服を着るだけで……
そ、そうか……まあ仮にも主人からの贈り物だ。一度くらいは使ってやらねばな!
確か……上に乗ればいいんだったな――
「……58?」
しまったな。自分の重さが分かっても、それが重いのか軽いのか分からん。
『体重』とは他者と比べて初めて意味のあるものだったか……
「何をしておるのじゃ? ウルよ」
「ッ⁉︎ ニール様⁉︎ い、いつからそこに……」
「む?『体重計』か! 懐かしいのう……久々に量ってみるかの」
「あっ……」
「ふむ、55キロか。前より少し太ったのう……」
「…………」
オレが、ニール様より……重い?背丈は同じくらいのはず……
いやいや、ニール様は元主人だから――関係あるのか?何だ……何なんだこの感情は。
「どれ……主人様もワシらを待っておるじゃろう。行くぞ、ウ――るぅうううう⁉︎ な、なんて顔しておるのじゃお主⁉︎」
「いえ……何でもありませんから……」
「ほ、本当か? ワシ……背後から刺されたりせぬか?」
「ええ……行きましょう……早く」
「う、うむ。なあ、ワシが何か――」
「行きましょう」
痩せよう。せめてニール様と同じ体重まで痩せねば……ニール様の為にも。




