帰還
「戻ってきたぞー!!」
アキラが船上から大声を上げている。
そう言いたくなるのも分かるというもの。あの後フレッド殿下の戴冠式とそれに伴う祝宴など、行事が立て続けに催され、オレたちパーティーがグラキエースに滞在していた時間は、リアル時間で一週間にも及んだからだ。以外と短い気もするが、長い一週間だった。
フレッド殿下が陛下となったことで、虹水晶の使用にもオーケーが出て、オレたちはグラキエースの軍艦に乗り込み、
「レディーレ・アウルム」
と唱えることでフィーアポルトの沖合いの島、あの無人島の地底湖、ではなくすぐ近くの海上に瞬間移動していた。
「いやあ、やっぱりフィーアポルトは暖かいなあ」
「そうか?」
おそらくアキラは気候のことを話していたのだろうが、オレは急いで駆け付けてくる目の前の軍艦の方が気になる。
「なるほど。貴殿たちであったか。いきなり眩しい光とともに巨大な軍艦が現れたゆえ、港はアリの巣をつついたような大混乱だぞ」
アウルムの軍人さんに怒られた。まあ、最悪、戦争にならなかっただけ良かった。
「申し訳ない。我らは救国の英雄たちを見送りにきただけなのだ」
そう申し開きをしているのは、この軍艦の艦長、イセ提督である。
「いえ、彼らにはこの国もお世話になっております。このくらいはどうと言うこともありませんよ」
対する軍人さんも軽い返事だ。
「それと、これは我がグラキエースの王、フレッド陛下より預かった書状だ。我が王は貴国との友好条約締結を望んでおいでだ」
イセ提督の書状に、軍人の顔がとたんに厳しくなる。
「分かりました。これは私が必ず陛下にお渡しすると誓います」
敬礼する軍人に敬礼で返すイセ提督以下巨人の船乗りたちだった。
オレたちはアウルムの軍艦に乗り換え、フィーアポルトの港に降り立った。
イセ提督たちには悪いが、フィーアポルトの港は巨人を受け入れられるようにはできていない。フレッド陛下からの書状がアウルムの王に渡り、アウルムからの書状が提督に届けられるまで、イセ提督たちは海上生活を強いられることになる。大変だが長期の艦内生活には慣れているそうだ。
「さて、どうする?」
オレたちが港に着いた頃には、騒ぎはすでに収まっていた。パスで連絡が届いていたのだろう。商魂たくましい商船などは、早速グラキエースの軍艦へと横付けしている。
「まずはギルドだな」
「ええ? 宿行こうよ」
教会で記帳を終えた後、アキラとマヤで意見がぶつかった。
「リンだって離れてた間にアウルムで何が起こってたのか知りたいよな?」
「リンだって長旅で疲れてるから休みたいよね?」
何故オレに話を振る。マーチやブルース、ファラーシャ嬢を見ると、お前が決めろ、と無言で頷かれた。ハァーーーーー。
結局、マヤ、マーチ、ファラーシャ嬢たち女子組はこのまま宿へ。オレ、アキラ、ブルースは冒険者ギルドに向かうことになった。
「そういやさあ、キャプテンフリーギドゥスの幽霊船の乗組員は何で普通の人間サイズだったんだろうな?」
ギルドへの道すがら、アキラが話題の一つとしてそんな話を振ってきた。
「あれか。フリーギドゥスは元々グラキエースの王族だったらしい」
「「そうなのか!?」」
何でも知ってるブルース君が話し始める。
「だが王家の跡目争いに敗れて海に逃げ、南のカルトランド近海で海賊をしていたようだ。虹水晶も跡目争いの時に持ち去ったようだな」
ふむふむ。だから女王はフリーギドゥスをちょっと英雄みたいに言ってたのか。
「そして海賊行為でカルトランド国軍に目を付けられ、敗走、フィーアポルトに流れ着いた訳だ」
「それそれ、あの地底湖には虹水晶で瞬間移動したんだろ? 何で今回は地底湖じゃなかったんだ?」
アキラの疑問に答えたのはオレだ。
「ディメンション系は使うだけでも一苦労な上に、国を越えるほどの長距離瞬間移動だぞ。あれぐらい誤差だろ」
「そんなもんか。でも何で王都じゃなくフィーアポルトなんだろうな?」
「水がないとダメとか、そんなんじゃないの?」
「じゃあトレシーの湖に現れる可能性もあると?」
そしたら皆大慌てだろうな。提督たちも、街の人も。
想像したら笑えてきて、ギルドに着くまで三人で大口開けて笑い合いながら歩いた。
「ドラゴンが出ました」
「知ってます」
開口一番ラピスさんが伝えてきたのは、王都の西でドラゴンが暴れ回っているとのことだった。
「しかも二体です」
「それは知らなかった」
そこに今多数の冒険者が向かっているそうだ。アキラが所属するクラン「無双前線」もその一つらしい。
「オレ、このまま西に行ってくるわ!」
アキラはそう言い残すと、飛び出して行ってしまった。
「おや? 久しぶりに賑やかだと思ったら、君たちか」
そこに現れたギルドマスターのセイゴさん。
「ええ。ちょっと遠出していたので、情報が欲しくて寄ったんですけど」
車イスのセイゴさんがそれを聞いて何やら思案し始める。
「変わったことといえば、灯台の魔女が、薬の材料を調達して欲しいそうだ。君らに頼めないかな?」
オレとブルースは顔を見合わせると頷き合った。
「いいですよ」





